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オーバーキル・ジュニアハイスクール

 俺たちを囲む、バスタードと天使たちの争いは止まっている。

 スタジアム中央で向かい合う、二体の巨大分体(アバター)のせいだ。


 ジョックであるジョナサンが操るのは、黄金の石像。なんつうか、ローマ時代の彫刻みたいな感じで、実にマッチョだ。

 背中からは黄金の翼が生えている。

 俺が今まで見てきたアバターとは規模が違うから、才能がある奴が呼び出せば、アバターはこれだけ大きくなるんだろう。

 で、俺の方は愛車ファミリオン。

 たまに呼び出してはいるんだが、常にバッチリとメンテナンスされた状態で登場する。

 誰が整備しているんだろう……。

 座席のサイズは、背が高くなった俺にピッタリとフィットする。

 常に俺の体に合うよう、アジャストされるらしい。


「なんだ、お前のアバターは!!」


 ジョナサンが下のほうが俺を指差す。

 なんだ、お前はアバターに乗り込んだりできないのか。

 色々タイプがあるようだな。

 ファミリオンには集音装置があるようで、周囲の連中の声を聞き取ることができる。

 バスタード組は驚愕に息を呑んでいる。声は聞こえない。

 だが、天使どもは恐慌一歩手前のようだ。


「やべえよ、やべえよ。あんなアバター見たことねえよ!」


「稲妻を光らせてなかったか!? 属性を使うなんて、熾天使級以上じゃないと無理だろ……!?」


「じょ、ジョナサンがんばってー!! そんなの虚仮威し(こけおどし)よー!」


 なんというか、連中のほうが、俺よりもファミリオンの存在に詳しい気がする。

 後で聞いてみてもいいかもしれないな。

 バックミラーを確認すると、マンサが映った。

 彼女は檻の中で、じっと俺を見つめている。

 信頼されちゃってるな。これは応えなければな。


「ウェーイト!! 待て! 待つんだー!!」


 そこへ、突然駆け込んできたマッチョがいる。

 逆三角形ボディの空気が読めないマッチョ。

 そう、サハクイエル先生である。

 彼は俺とジョナサンのアバターの間に、恐れる様子もなく入ると、


「君たち、覚悟はできているかね?」


「引っ込んでいてくれ先生!」


「先生、危ないですよー」


「オーケー!! では青春のほとばしりをぶつけあい、肉体言語で対話したまえ!! 先生が見守ってあげよう! ファイッ!」


 叫びながら両腕を高速でクロスさせた。

 うわあ、止めるんじゃないのか! 焚きつけるとか教師としてどうなんだあんた!

 だが、この言葉を皮切りに、ジョナサンは思い切ったようだった。


「おおおっ!! 死ねえええ!! ”大いなる裁き(グランドジャッジ)”!!」


 巨大アバターの両腕がギラギラと輝く。

 あいつは可動箇所が少ないようで、腕を正面で合わせられないようだ。

 だが、広げられた腕から放たれる黄金の光線は、でかい。通常の十倍以上のでかさだ。


「なんのっ!!」


 俺はハンドルを切る。

 ファミリオンは俺の操作を理解し、踵の車輪を回転させつつ、体勢を低くして光をかわし、そのままの勢いでジョナサンの側面へと回りこんだ。


「なっ!? は、速い!?」


「よし、銃よ来い!」


 以前銃を呼び出したことがあったが、やり方を忘れていた俺。

 とりあえず冷房スイッチあたりをプチッと押してみた。

 来た。


「雷を物質化させた!?」


「あんなの、熾天使級でもできないぞ!?」


 ファミリオンの腕に雷撃が集まり、その中に青く輝く銃が出現する。

 天使諸君、解説ご苦労。


「そ、そんなのははったりだ!」


 引きつった笑いを浮かべるジョナサン。

 アバターに掴まり、空に浮遊し始めた。

 おお、あのアバターは飛べるのか! ファミリオンは車だから飛べないな。

 とりあえず上空目掛けて射撃してやろう。


 射撃ボタンも分からないので、とりあえずクラクションを連打する。

 おお、撃てる撃てる。

 ……。

 ファミリオンって、もしかして俺がやりたいことを読み取って実行しているんじゃないだろうか。

 空調ボタンで武器を召喚して、クラクションで射撃とかありえないだろう……。

 あ、当たった。


「うぎゃー!!」


 雷撃の弾丸を受けたアバターは、その部分を砕かれ、焼き焦がされて落下していく。

 グランドに叩きつけられたアバターは、壊れたおもちゃみたいにびくびくと動いている。

 ジョナサンには直接ダメージは無いはずだが、奴も白目を剥いて身動きができないようだ。

 このアバターって、召喚主にダメージがフィードバックするのか?

 ともあれ、これで解決だな。

 めでたしめでたし……。


「オドマ!! まだだよ!」


 マンサの声が響いた。

 いつの間に檻から抜けだしたのか、こっちに駆け寄ってくる。

 危ない! 危ないから!


「来る!!」


 何が?

 と思った俺の横目が、サイドミラーに映るそれに気づいた。

 白銀のそいつは……おいおい。ヘリコプターかよ……?


『ガブリエル、オートローテーション!』


 聞き覚えのある声が響いたと思うと、そいつは変形を開始した。

 たちまちのうちに、銀色に輝く鋼の巨人が、空に出現する。

 ローターは翼となり、不可思議な浮力をそいつに与えているらしい。

 あれが誰なのか。

 一目瞭然だ。


「何の真似だい、ジブリール」


 ただ一人だけ、この騒ぎに参加していなかった天使組の女の子。

 俺たちに好意的だった彼女が、あれに乗っているはずだ。

 なるほど、彼女は言葉通り、俺と同じような存在(・・・・・・・・・)だったわけだ。


『少しくらいは、キミの実力を見ておきたいじゃない?』


「随分上から目線だなあ」


『それはそうよ。だって、私は生まれつきのガブリエルなのだもの。誰よりも七大天使に近い存在なの』


 その言葉に、奢りなどは一切無い。

 ただただ、事実だけを淡々と述べているのだった。


「話しあえば分かったりする?」


『話し合いには応じるけれど、それと勝負しないことは別問題じゃない?』


「分かった。言葉が通じないわけだな。まあ、ちょっとだけ待ってて」


 俺は目線を下に落とす。

 そこにはマンサがいた。


「ファミリオン、マンサを回収できるか?」


 俺は愛車に問いかけてみた。

 こいつは本来軽自動車だ。

 複数人が乗れて然るべきである。

 ファミリオンは俺の言葉に応えて、操縦席を変形させる。

 マンサが回収されてきて、俺の隣に収まった。

 せ、狭いぞ!


『自分以外を乗せられるの? 変わった分体(アバター)ね……! ますます興味が湧いてきたわ! さあ、行くわよ!』


 上空で、ガブリエルの翼が広がった。

 俺がマンサに何か説明する暇などありもしない。


『まずは小手調べ。”渦巻く砲撃(スパイラルキャノン)”』


 (かざ)されたガブリエルの手に、やはり銀色に輝く巨大な砲が出現した。

 そこから、こちら目掛けて砲弾が発射される。

 ファミリオンは高速でバックを開始した。

 今までいた場所に、何発もの砲弾が着弾する。

 爆発と衝撃。

 飛び散るのは、水だ。あれは水の弾丸なのだ。しかし……威力がおかしい!

 もうもうと上がる水煙のあと、えぐられた大地が顔を見せる。すでにこのスタジアムは使い物にならないだろう。

 あれだ。魔術はこの学園で制限されているんじゃなかったのか!?


『七大天使級の魔術を制限することなんて、誰にもできないわよ?』


「マジかー」


「うひょ―――!? な、なんだか凄いことになってるねオドマ!?」


 ようやく我に返ったらしいマンサ。


「ごめん、状況説明してる暇がないや」


「うん、なんとなくそれは分かる」


 察してくれたか。持つべきものは幼なじみだ。

 俺は反撃の弾丸を撃ちこむ。

 電撃は水を通す……と思うのだが、ガブリエルが目の前に水の膜を張ると、そこにあたった弾丸はそのまま打ち消されてしまう。

 あれか。純水は電気が通らないってやつか。

 では、あの水は磨きぬかれた水なのか! すごいな魔術!


『ねえ、”力ある言葉パワーワード”も載せていない魔術を使うとか、私舐められてる?』


 あ、怒ってらっしゃる!

 だが、力ある言葉とかよくわからない。


「オドマ、魔術の時、みんな名前を言うじゃない? あれじゃないかな」


「それか。よし、”雷の弾丸(サンダーブリット)”!!」


 適当に名づけて叫んでみたが、その瞬間だ。

 弾丸が今までにないような強大な放電を行い、水の膜に食い込んだ。


『!!』


 はじけ飛ぶ水の膜。

 ダメージは与えられなかったようだが、ガブリエルの水バリアをこれなら打ち破れるぞ。


『やれば出来るんじゃない。そうよ、その調子で全力で来なさい!』


 全力でやったら学園が蒸発する気がしますよ。

 俺は名を叫びながら、とりあえず射撃を連発する。

 対するのは、ガブリエルの砲弾だ。

 上から下から、雷の弾丸と水の砲弾が交差して、あちこちに飛び散って破壊していく。

 空を縦横無尽に飛び回るガブリエル。

 大地を駆け巡るファミリオン。互いに攻撃が命中せず、決め手が無い。

 ちなみに戦場になったスタジアムはとっくに瓦礫の山だ。

 みんなとりあえず、逃げ延びてはいるらしい。


『ええい、(らち)が明かないわね!!』


 しびれを切らしたのはジブリールだった。

 そうだよな。彼女はあまり気が長い方には見えなかったしな。


『必殺!!』


「えっ、それはまずくない?」


 物騒な言葉が聞こえたので、俺はツッコミを入れた。だが話を聞かない系女子であるジブリールが止まるわけがない。


『”打ち砕く大波タイダルウェーブ・ブラスト”!!』


 中空に、見渡す限りを覆い尽くすような水のうねりが出現する。

 ファミリオンのカーナビが、周囲一体にさきほどの砲弾に匹敵する威力の津波が出現したと警報を鳴らす。

 いやあ、やばいだろそれ!?

 周辺一帯が壊滅するぞ!?


『それはそれよ!』


 いかん。

 頭に血が昇っているジブリール。

 躊躇なく、すべてを破壊し尽くす波を地上へと降り注がせた。

 な、何か無いか、何か対策が!


「オドマ、何か光ってる……」


「おっ」


 マンサが指し示したのは、カーナビの画面の端。

 液晶画面にパネル状に浮かび上がったボタンのような形。

 そこには幾つかの名前が描かれている。


「よし、ここは……これだ!」


 俺はその一つをタッチした。

 コマンド入力を受け付けた証か、液晶画面が触れた部分を中心に、波紋を描く。

 次の瞬間だ。

 ファミリオンの背後に、強烈な落雷が起こった。

 これは知っている。

 あのトラックが現れる前兆だ。

 案の定、光の中からトラックが走ってくる。

 さては合体か? と思われた時、トラックのコンテナが展開した。

 そこから何かが射出される。

 自動操縦なのか、ファミリオンは跳躍した。

 射出された何かと、ファミリオンが空中でドッキングする。

 これは……翼だ!

 いわゆる、Vの字型の前進翼で、ファミリオンのシルエットを強烈に変化させる。

 放つべき力の名前が、俺の脳裏に浮かび上がる。


「”天を撃つ雷霆ライジング・サンダーボルト”!!」


 飛び上がったファミリオン目掛けて、大地から雷撃が湧き上がった。

 前進翼は雷を集めると、そのまま青い巨体を通し、天高く突き上げられたファミリオンの指先に集中する。

 そして、そこから放射状に炸裂。

 天から降る津波と、ファミリオンから放射状に放たれた雷撃がぶつかり合い、直後に大爆発が起こった。


 うん。

 学園を守るために反撃したけど、これは、あれだな。

 相乗効果ってやつだな。

 こりゃあひどいぞ!


 爆発が雲を産み、強烈な上昇気流が発生する。

 南アビスの空を暗雲が覆う。

 やがて、しとしとと雨が降り始めた。

 いやあ、学園を見るのが怖い。どうなっているか確認なんてしたくないぞ。

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