人類皆ヒャッハー
かくして。
俺とジョナサンのケンカは、乱入したジブリールによってスーパーなロボット大戦と相成り。
ご覧の有様だよ!
「何もなくなったねえ」
ファミリオンの肩によじ登ったマンサが、遠くを眺めて言う。
おっ、この位置からだとマンサのスカートの中身が見えるな。
だが、俺はまだまだ子供のマンサに興味など無いぞ。
操縦席を展開すると、ちょうどファミリオンの背中から出てくる形になる。
俺はマンサの後からファミリオンによじ登る。
おお、壮観である。
見渡す限りの瓦礫だ。瓦礫の山だ。
「すごい、何もかも壊れたねえ」
「そりゃそうよ。私とオドマがフルパワーで”奇跡”をぶつけあったんだもの」
全く悪びれない様子で、ファミリオンに飛び乗ってきたのはジブリールだ。
彼女が呼び出したヘリコプター型アバター、ガブリエルはもうどこにも姿がない。
俺のファミリオン同様、自由に出し入れが可能なんだろう。
で、俺を挟み込むように、マンサとは逆側に腰掛けた。
マンサがむーっと膨れる。
「ジブリール、狭いー! あなたがいると私がおっこっちゃう!」
「マンサはお尻が大きすぎるからじゃない? ダイエットしたほうがいいよ?」
「ジブリールが発育不良なんじゃん」
「なななななな!? なんですってえ!?」
「うわー!! 僕を挟んでケンカしないでくれええ」
俺は慌てて二人をなだめすかした。
しかしまあ、学園だけで済めばよかったのだが、灰色の町も白い都も一部が大騒ぎに巻き込まれて、大変なことになっている。
死者が出ていないといいのだが。
出てるんだろうなあ。
少しして、教師陣と何やら偉そうな人々が駆けつけてきた。
シャクティー先生が彼らを先導している。
おや、先生の後ろに緑色の服のイケメンがいるな。
「まあ、やっぱりオドマくんたちのやったことだったのですね」
到着したシャクティー先生。
腰に手を当てて俺たちを見上げると、ぷんぷん、という擬音を立てて頬を膨らませた。
俺の周囲の女性陣は、なんだか反応が子供っぽい気がする。
「ああ、ジブリールもいるようですね。ではこの惨状も納得できる。むしろ、七大天使級二柱がぶつかりあって、この程度の被害で済んだ事は僥倖と言わざるをえません」
イケメン、俺たちをフォローしてるんだろうか?
見た目に違わぬ、優しい声色である。
ウェーブがかかった淡い茶色の髪を、長く伸ばしている。
優しげな雰囲気とは異なり、只者ならぬオーラを感じるぞ。
「ジブリール、降りていらっしゃい」
「やー!」
ジブリールが俺にしがみついた。
なにぃ。
「降りたらどうせ、ラファエル怒るんでしょ!? だから降りないー!」
「怒りませんから。怒りませんから降りてきてください。全くもう……先代殿はあれほどの人格者だったのに。まだまだ子供ですね」
「違うー!! 私は子供じゃないもーん!」
いや、その反応は子供だろう……。
「あっ、じ、ジブリール何してるのよ! 私だって!」
グワーッ!!
俺の両腕が女子たちによってキャッチされてしまった。
ジブリールの積極的攻勢に一瞬呆然としていたマンサだったが、すぐに我に返ったらしい。
俺は両腕を二人に取られて、身動きもままならない。
「オドマくんも降りてらっしゃい」
「いや、先生、拘束されていて降りることができないよ」
「オドマくんはモテモテですね」
微笑ましげに言わないで欲しい。
俺は困っているのである。
結局、その場に集まったのは、現役七大天使の一柱、ラファエル。そして第三天使学院の院長と、シャクティー先生、さらに南アビス軍という物騒な組織の将軍だった。
俺とジブリールはこってりと彼らに搾られた。
ジブリールは「約束が違うー! 怒らないって言ったのにー!!」と暴れていたが、まあ彼女が暴れても、同格のラファエルがいるから危険はあるまい。
一通りお説教が終わり、さらには天使組のマンサ誘拐などをやらかした連中を厳重注意に処する、などの対処が決定した。
ほっと一息である。
マンサは怒られている間だけ、遠巻きにこっちを見ていたが、事が終わると戻ってきた。
なんと、ドナやルーシー、ボブにサムにマイクと言ったうちのクラスの連中も一緒ではないか。
無事だったのか! むしろ生きていたのか、あの状況で!! 素晴らしいしぶとさである。
「ま、俺たちは少なくとも翼のユニットに耐えられる素質があると見込まれて、この学園に通えるようになった人間だ。普通よりは全然頑丈なのさ」
ボブの説明である。
確かに、魔術を行使する連中と肉弾戦で互角にやりあう人間はそういないだろう。
「いや、しかしオドマすげえな! 本当にアバターを使えるんだなあ! ジョナサンの野郎の顔ったら見物だったぜ!」
「ほんとだよなー! 得意げだったあいつの顔がみるみる引きつってよ! しかし、銀色のアバターが乱入してきた時は、さすがに俺も終わりだと思ったぜ……」
お、いつもはカッとなると見境が無くなるサムらしくないしおらしい発言である。
そんな風にわいわいとやっていると、背後に足音がやってきた。
クラスメイトたちはそれに気づくと、顔を引きつらせて直立不動になった。
なんだなんだ?
振り返る。
「やあ、私もちょっと話をしていいですか?」
それは、緑の服のイケメン、ラファエルである。
「あ、どうぞどうぞ」
「ばっか、オドマ、その人はなー!」
ボブが普段は黒い顔をいつもよりも白くして、ささやき声で俺に注意しようとする。
「知ってるよ。ラファエルさんだろ?」
「はい。私はラファエルです。オドマくんといいましたね。少々質問などよろしいですか?」
「あ、はいどうぞ」
「ありがとう」
ラファエルはにっこり微笑むと、俺と差し向かうように地面に腰を下ろした。
どよめく周囲。
俺は感心する。座り込んでいる俺に視線を合わせてくれたのだ。
この天使は人間ができてるなあ。
「君は我々七大天使と同じ、”偉大なる分体”を持っていますね。これは、誰かから授かったものですか?」
「いえ、生まれつきです」
「なるほど。確かに君が生まれた地方で、過去に巨大な稲妻を伴う天変地異が幾度かあったと記録されています。あれは全て君ですか?」
「あ、はい、僕です」
丁寧な口調で話してくるので、こっちまで丁寧語になってしまう。
「なるほど。万魔殿の結界すら打ち破る稲妻を放つ、偉大なる分体……。君は本当に、彼の再来なのかもしれませんね」
それだけ言うと、ラファエルは立ち上がった。
「ありがとう。よい話を聞くことができました。きっと近いうちにまた会うこともあるでしょう」
「いえ、どうも」
なんだか色々聞かれて、勝手に納得されてしまった。
イマイチよく分からないが、この人が俺に悪意を持っていないことだけは確かだった。
俺が彼を見送るようにぼーっとしていると、周囲がにわかに騒がしくなる。
「なにぃ!? 灰色の町で暴動!? 商店打ち壊しと略奪が発生しているだと!?」
「暴徒が白い都の壁を乗り越えました! 天使とバスタードの衝突が発生しています!!」
「天使側、魔術銃を発砲!! バスタード側に犠牲者が!」
「双方が暴徒化しました! 町が、町が戦場になっています!!」
うわあ、何やらもっととんでもない事になっているようだぞ。
俺とジブリールの衝突が、町に大きな被害をもたらした。その混乱に乗じて、タガが外れた連中が大騒ぎを引き起こしているわけだ。
暴動、略奪、破壊、阿鼻叫喚状態に包まれた南アビスの町。
うん、この世界の住人は、基本どこまでいっても未開なのだ。
シャクティー先生が慌てた様子で戻ってきた。
「オドマくん! 暴動を止めないとです! 力を貸してください!」
「もちろん!」
俺は立ち上がると、ファミリオンに呼びかけた。
「行くぞファミリオン! イグニッションだ!」
これにて、第一部が終了。
次回から第二部になります。数日間を空ける予定。




