ケンカバトル・イン・スタジアム
「うおおお!!」
「羽のある白もやしどもを殺せえええ!!」
「アビスから追い出せーっ!!」
物騒なことを叫びながら入場する、我がバスタードチーム。
「来たな黒いサルめ!!」
「サバンナに帰れ!!」
「俺たちの失敗は貴様らを文明化したことだ!!」
こっちも大変失礼なことを叫ぶ、天使チーム。
応援するのは女子なのだが、そちらも黄色い歓声ではなく、どすのきいた怒声を響かせている。
「人質とか何が天使よ!? 腹の底が真っ黒でむしろあんたたちは悪魔か何かなんじゃないの!?」
「性根が最悪。むしろ地獄はあなたたちのホームグラウンド」
「はぁ!? 私達天使を悪魔とか、どれだけ侮辱するつもり!?」
「残念でしたー! アビス人は天使よりも下等な生き物なので何をやってもノーカウントですー!」
これはひどい!
何やら向こうでは、動物を入れる檻みたいなのにマンサが入っている。
彼女はこっちに手を振ってくる。
ひどい目には合わされていないようだが……なんというか、檻の周りにあまり誰も近づいていない。
マンサの顔は、そこだけ焼け焦げて穴が空いた檻からひょこっとつきだしており、比較的気楽そうな顔をしている。
うーむ。
あいつ、集落にいたころよりも図太くなったなあ……。
ずらり、フットボール場へ並ぶ俺たちと天使チーム。
まるで試合前の光景のようだ。
男どもはみな、相手を殺しそうな目をしている、
まあ、今まで溜まりに溜まった悪感情が、今回のマンサ人質事件で爆発的に噴出してきたってことなんだろう。
「いいか、俺の親父は南アビスの議員なんだ。お前ごとき、いつでも捻り潰すことができるんだよ、野蛮人」
ジョナサンは俺よりもある上背を使って、睨め下ろしてくる。
まあ、この、白人っぽい整った顔がここまでいやーな感じに歪むんだな。
俺はと言うと、上から言われるとムカムカしてきて、逆らいたくなる性質なのだ。
そんな性格だから、前世でも万年現場組だった。思わず言い返しちまうんだな。
今回も、
「学内は治外法権じゃないのかい? なら議員だってただの人だし、君だってただの人だろ? それにいい年してパパ頼みなのかい? 君はおしめが取れてないらしいな」
「言ったなアビス人!! お前らサルはギークやナードよりも下のカーストなんだよ! それがこの俺に意見したな!!」
激高したジョナサンが俺を突き飛ばしてくる。
うむ、これは受けておくべきだな。
俺は奴の突き飛ばしにのって、派手に吹っ飛んでみせた。
「オドマ!! 野郎、やりやがったな!!」
「この鳥野郎ども!! フライドチキンにしてやる!!」
襲いかかる我がクラスの男ども。
対して、天使組の男たちも負けてはいない。
だが、彼らはどちらかというと、翼のユニットを活かした魔術なども組み合わせた複雑な戦い方を得意とするのだろう。
この間のバトルロワイヤル……いや、バスケットの授業での乱闘で、わざわざ魔術を使ってくるあたり、彼らが魔術に対して強い思い入れがあることが察せられた。
ってことで、野蛮に殴りかかってくる俺のクラスメイトに対する反応は、ちょっと遅れるはずだ。
「くっ、いきなりか野蛮な、”裁っ”ウグワー!!」
ボブのショルダータックルを食らって、魔術を発動させようとしていた一人がぶっ飛んだ。
後頭部からぶっ倒れたから、あれは戦闘不能かもしれない。
一方で、サムとマイクが二人がかりで棒を持って、天使の男たちをボコっている。
魔術を使うより、棒で殴ったほうが早い。なるほど、合理的である。
今、野蛮が神秘を駆逐していく!
……と思ったが、やられてばかりではないのは、さすが天使クラスである。
「うわーっ!!」
うちのクラスの一人が魔術……と見せかけたダッシュパンチで殴り飛ばされた。
おお、天使もやるじゃないか!
馬乗りになって、バスタードの少年をボッコボコだ。
あちらこちらでそんな光景が繰り広げられる。
天使だとは言っても、所詮年頃の男の子である。
わざわざ面倒な手順を使って魔術を使うよりは、げんこつで殴りあったほうが早い。
結局、あちこちで拳と拳がぶつかりあう、極めて原始的なファイトが繰り広げられることになる。
「くっ、お、俺の仲間たちがどんどん野蛮になっていく……!」
「うん、染められたね……」
俺もびっくりだ。
うおおお、とかいう叫び声と、肉で肉を打つ音があちこちで響いている。
ジョナサンはこの凄惨な光景に、わなわなと震えた。
恐怖したのではない、怒りだ。
「お前、一体どんな魔術を使った! あいつらをおかしくしたんだろう!! 卑怯者め!!」
「人質をとった君の方が卑怯だろう! マンサを開放しろ!!」
「うるさい!! 俺のやることは正しいんだ! お前たちがやることがみんな間違っている!! やっぱりあの時、お前をぶちのめしておくんだった!」
ジョナサンは鬼の形相で叫びながら、背中に権天使の翼を展開していく。
天使で言うと、位階第三位。
アバターが町の入口を守っているレベルだから、それなりに戦闘力があるんだろう。
「いきなり行くぞ!! リミッター解除だ!! 出てこい、俺のアバター!!」
ジョナサンが叫ぶ。
こう、腕を握りしめて天を衝く動作だが、たいへん隙だらけだ。あれは攻撃しちゃっていいものなんだろうか。
いや、これはお約束だろう。
「な、なにいぃー」
俺は一応叫んでおいた。
ジョナサン、ドヤ顔になる。
彼の背後から、金色の石像みたいなやつが浮かび上がってくる。
大きさ四メートルくらいだろうか。ローマで作られた古代の石像のようで、そいつが剣と盾を持って、翼を生やしている。
「本来なら俺たちが持っていないはずのアバターを、親父の力で手に入れたんだ! こいつは強いぞ!!」
「なにっ、それも親の力か!!」
俺は別の意味で驚いた。
「お前も持っているんだろう、アビス人! 出せ、アバターを! 正々堂々勝負しようじゃないか。そして俺が格の違いというやつを見せつけてやる……!」
だから正々堂々というなら早くマンサを開放してだな……!!
思ったものの、こいつは多分言葉が通じないタイプだ。
俺は腑に落ちないものを感じつつ、しかし勝利してマンサを救い出すため、愛車を召喚した。
「イグニッション!! 来い、ファミリオーン!!」
俺の背後で雷鳴が轟く。
空気が焼ける臭気が漂い、昼間だった空が一面にかき曇る。
乱闘していた生徒たちは、ギョッとして俺を見た。
俺を背後から照らすハイビーム。
ファミリオンの力強いエンジン音が轟く。
「非人間型のアバターだと……!?」
驚くジョナサンの目の前、ファミリオンは俺の指示に応える。
青い車体が、鋼の巨人へと組み変わっていくのだ。
「やってやるよ、正々堂々とね……!!」
俺の体が、ファミリオンの中に吸い込まれていく。
さあ、アバター?同志でケンカといこうじゃないか!




