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あの島がパンデモニウム

 というわけで。

 俺とマンサはジブリールの案内を受け、天使学院の中をもりもりと回った。

 学園内の敷地は、別に天使とバスタードで境が作られてはいない。こいつは学校を作り上げた人間の理想が込められているのだろう。

 人間に上下など無い。見た目が違えど、すべての人間は等しく人なのだ。

 まあ、その頭に「神のもとには」みたいな言葉が付きそうだが。


「見ろよ、バスタードが」


「なんで天使の領域に汚らわしい連中が入ってきてるのよ」


 ま、そこで過ごしてる天使を自称する連中は、学院創設者の思いなんか知ったことかといった様子だ。

 こいつら、天使と言ってはいるが、翼のユニットが無ければ完全に人間と同じだ。

 つまり、人間である。

 マンサがいやーな顔をする。

 俺は無視した。

 だが、ジブリールはそうはいかなかったらしい。


「ちょっと!」


 腰に手を当てて胸を張り、彼らに詰め寄った。

 俺たちを蔑んだ目で見ていたブルネットの髪の女が、ジブリールを見下ろす。


「何よあんた。ここは三号生キャンパスよ。子供がいていい場所じゃないわよ」


「そういうくだらない区分で判断するのはいいんだけどね。ねえ、あなた人種とか年齢とか、それが違っていれば自分より劣ってるとか思ってる?」


「は? 何言ってるのよあんた!? あたしは上級生よ? 生意気じゃない!?」


「ふーん……せいぜい権天使程度の位階で、そんなに粋がってるのね」


 ジブリールがあざ笑う顔をした。

 女がむぐぐ、と歯を食いしばる。


「ま、まさかあんた、ガキのくせに位階が……?」


「お、おい、ラマナ。そ、そいつやばいって。銀髪のちびって、あの……」


「むふふ」


 ジブリールが笑いながら、バッサァーッと白銀の光の翼を展開した。


「そうよ、私はジブリール! あのガブリエルの跡を継ぐことが確定している、天才なの!」


「しっ、熾天使級!? は、は、初めて見た!」


「ひいぃ」


「……っていうか、あんたたちが馬鹿にしたあのバスタードの子も、熾天使級よ」


 いつの間にか、俺たちは三号生キャンパスとやらの天使たちから注目を浴びていた。

 好奇心と嫌悪感、猜疑心に満ちた視線が俺たちに注がれる。

 

「オドマ、天使だったの? 私はフツーの人間なんだけどなあ」


「いやー、僕もそんなのになった覚えはないんだけど」


「……あれ、まだ自覚なかった? あ、ごめーん」


 なんか軽い感じで謝られた。

 どういう事なの……。

 そんなわけで、ぐだぐだのうちに校舎案内が終了。

 俺とマンサは教室に戻る。

 すると、激しいバトルでばたばた倒れていたクラスメイト達が、ピンピンした様子でだべっているではないか。


「おう、お帰り! いやあ、今日の体育も激しかった……!」


 ボブが後頭部を掻きながら言う。

 毎度毎度あんな厳しいことやってるのかお前たちは。


「まあ、多少のダメージなら俺たちは無事だからな。学園全体にそういう効果が加えられているんだ。ま、この学校の中で多少ドンパチやったところで、死ぬことはないってことだな」


 限度ってものはあるが、とボブ。

 なんだかよく分からんが、魔術とかそういうのが学院に施されてるのか?


 で、だ。

 次の講義に向かうと、そこはアクリルの板のような、透明な壁で区切られた大講義室だ。

 壁の向こうには、見覚えのある天使組の連中だ。

 おお、ジョナサンもピンピンしてやがるな。こっちを睨みつけている。ライバル認定されたか……?

 ジブリールが手を振ってくる。彼女は色々教えてくれてありがたいが……なんだか面倒だから関わりたくないなあ。

 マンサはマンサで、何か口の中でぶつぶつ言っている。

 その言葉が、時々聞き取れないような高音になったり、早口になったり。あれ、それって天使が魔術を使う時に流れる音じゃないか?


「うーん、いけそう。とりあえず一回聞けば、再現できるかなあ……」


 うちの幼なじみもおかしい。物騒なことを言っている。

 この学院はおかしいぞ。

 明らかに外の世界よりも危ないことだらけだ!

 もうこんなところにいられるか、俺は帰るぞ!!

 と死亡フラグ満載のセリフを吐きたくはなってくるが、ここで途中退場しては、俺の学歴に傷が残るではないか。

 このままストレートで優秀な成績を修めて学院を卒業し、然るべき機関に就職。

 そして、ママンに楽をさせる。

 これが今思い描いている、俺の人生計画なのだ。

 断じて天使だとかバスタードだとか、ましてや選ばれし者だとか、そんなものに興味はない!


「では、授業を始めます」


 おっ、教師はシャクティー先生じゃないか。

 彼女は俺たちを見つけると、ウィンクしてきた。

 バスタードの教師だが、主天使としての位階を持っているということで、天使組の連中も先生には従うようだ。

 肌の色はいいのか。

 羽の有無なのか?

 おいジョナサン、鼻の下が伸びてるぞ。

 あ、クインビーのシャルロットに腕をつねられてやがる。


「本日は、転入生もいますから、簡単なおさらいから行きましょう」


 先生が、背中に黄金の翼を展開する。

 なんだなんだ!?

 ふわりと舞い上がった彼女は、壁を叩く。

 すると、壁面一体が真っ黒なボードに変化した。

 手にしているのは、チョーク。

 彼女は力強くチョークを振り上げると、


『世界史』


 と大きく黒板に刻んだ。


 …………。

 あー。

 あれね。大きく書かないと大講義室じゃ見えないもんね。

 黒板をいっぱいに使うために空をとぶのね……。


「さて、天使と名乗る人々は、知っての通りこのアビス大陸へ入植してきた移民です。世界各地の植民地に、彼らは点在していますが……既に、彼らが住まうべき故郷はこの大地に存在しません」


 彼女はポン、と黒板を叩く。

 すると、黒板の上のほうが液晶画面のように変化した。

 そこに映しだされるのは、何か浮遊している巨大なものだ。

 あれは、あれだな。

 俺が雷で空を割った時に見えた、空飛ぶ大陸だな。


「この浮遊島を、こう呼びます。伏魔殿(パンデモニウム)。これは、魔王ベリアルが大地を裂き、魔王レヴィアタンが切り抜かれた世界を浮遊させたからだと言われています」


 魔王とか出てきたぞ。

 なんだそれ。ファンタジー世界か。剣と魔法の世界かよ。


「今、七大天使の復活が望まれているのは、このパンデモニウムに動きがあったためです。パンデモニウムは常に結界に包まれ、視認することは出来ません。ですが、この浮遊島を覆うエーテルの流れに変化が生じているのです。これが、結界の弱まりを意味する可能性があります。つまり、あの大戦が千年ぶりに行われる可能性がある、ということです」


 あの大戦?


「天魔大戦です」

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