七大天使が代替わり?
「久しぶりね。君ならきっと来ると思っていたわよ、サンダルフォン?」
ツカツカツカっと近づいてきた彼女は、もう一回同じセリフを言った。
あっ、近くに来ると思ってたよりちっちゃい。
「なんで同じこと言ったの?」
「さっきはちょっと遠く過ぎたかなって」
テへっていう感じのポーズを取る彼女。
登場はクールだったのに、いきなりキャラが崩れたぞ。
「ええっと……なんか、状況を鎮めてくれて、ありがとう……?」
マンサが俺の後ろから顔を出して、恐る恐るといった感じで言った。
彼女はマンサを見ても、別に気にした風はなく、
「どういたしまして。バカどもがいつもみたいに悪ノリしているんだもの。本当、見てられないったら無いわ!」
むふーっと鼻息を吹き出しながら腕組みをした。
背丈はマンサよりも頭半分くらい低い。全体的に幼い印象だが、おそらくは俺たちと同い年というところだろう。
先ほど見えていた白銀の翼はもう無い。
一般的な天使は、シャクティー先生の話では白色、優れた能力があれば金色、属性の色をしているものは選ばれしトップエリートと聞いている。
恐らく彼女は、そのトップエリートの一人なのだろう。
で、だ。
「久しぶりって言うけど、僕には君と面識がないような気がするんだけど。えーと……?」
彼女の名前を知らない。
すると彼女は微笑みながら、
「ジブリール。次なるガブリエルになることを宿命付けられた娘、それが私よ。ちなみにジブリールは、かつて存在した別の言語でガブリエルを表すの」
「よろしく、ジブリール。僕は」
「サンダルフォン!」
「ちーがーうー! この子はオドマだよ! もうー、さっきからオドマのことサンダル、サンダルって」
「んー? あれー? だって、お祖母様がキミのことをサンダルフォンって……。ま、いいか。よろしくね、オドマ。あとは、キミはマンサさん?」
「うん、よろしくねジブリール」
黒と白の美少女ががっちり握手を交わす。
ジブリールは俺に向かって手を差し出した。
「はい、オドマも。握手ー」
「お、おう」
少々変わった乗りの娘である。
俺はやや戸惑いながら、彼女の小さな手を握った。
おお、ひんやり冷たくて柔らかい。
「サンダル……じゃなくてオドマ。一応ね、七大天使は三柱のみが現存しているの。欠落した四柱を巡って、ラグエル、ラジエル、ゼラキエル、レミエル、カマエル、ヨフィエル、ザドキエル、オリフィエルにザカリエル、セラフィエル、イェグディエル、バラキエル、イェレミエル、スリエル、サラティエル、アニエルが挑んでいるの。ちなみに四柱のうち、ひとつは私が予約済みね」
「……よく覚えてるねえ」
うん、ほんと、おじさんそっちの方に感心したよ。
「うん、だってワクワクしない? 誰も彼もが一騎当千、属性や物理、概念に理論を武器にする最上位天使の才能を持ったスーパーエリート達ばかりなのよ? 名前を羅列するだけで楽しくなっちゃう」
「変な子だ」
「変な子だ」
俺とマンサの意見が一つになった。
「う、うう……! ジブリール、何を、するんだ……!」
「あらら、ジョナサンまだ意識があったのね。さすがは我がクラスのジョックと言った所かしら」
なんとか半身を起こしたジョナサンに、ジブリールは目線だけを向ける。
冷淡なもの……というわけではない。
単純に、興味の範疇ではないという反応だ。
「いい、ジョナサン。学園という狭い世界で粋がることは悪いことじゃないよ。でもね、あなたのお父様が所属している代議員システムは、あくまで天使議会主要メンバーが揃うまでの代用品でしか無いの。今のうちに、世界がどれだけ広いのかを知っておいたほうがいいよ」
なんだろうか。
ジブリールはとても饒舌だ。
だが、そこに詰め込まれた言葉の情報量というものがとてつもなく多い。
どんな複雑怪奇な世界で生きて来たら、こんな女の子が出来上がってしまうというのか。
これはちょっと女の子として不自然な姿ではないだろうか。
まあ、生前独身を貫いていた俺に、女のことを深く論ずることなどできはしないのだが。
「くっそ……! お、お前だって婆さんがガブリエルだったっていうだけの……! このっ、”裁き”!」
「あなたと私では、持って生まれた『運命力』が違う。”鏡の召喚”」
放たれた光が、ジブリールの眼前に突如生まれた水面に跳ね返される。
それは的確にジョナサンの体を焼き焦がす。
裁きは相手を塩にする魔術ってわけじゃないらしい。
俺が見た所、対象の肉体を分解する単純な破壊光線だ。で、結果が塩になる。だが、受けた相手の生命力とか抵抗力が高いと、肌を焼く程度になる。
ジョナサンも自分の魔術で死ぬような奴ではないということだろう。
焼けた腕を抑えてのたうち回っている。
「ねえサハクイエル先生、これで授業は終わりでしょ?」
「うむ、立っているのが君たちだけだからな!」
「好都合ね! それじゃあ、私が二人に学校を案内してあげる。本当、この学園って非常識すぎるわ。だって転入してきてそうそう、こんな殺し合いみたいな授業をさせるんだもの」
彼女は一人でペラペラ喋ると、俺たちに背を向けて歩き出した。
「お、おーい」
「ついてきて」
なんというか。
自分を中心に世界が回っているような子だ。
マンサも何を言っていいのか分からないようで、口をパクパクさせている。
「ま、いいか。案内してもらおうよマンサ」
「うん、オドマが行くなら……。でも、すっごい子ね……!」
俺たちが後を追うと、ジブリールは体育館の出口で少しだけ振り返った。
「そうそう。私はさ、オドマと初対面じゃないんだよ」
「え?」
どうやら、さっきの話題の続きのようだ。
俺はジブリールのような女の子など見たことはない。
というか、ずっと未開の大地で未開ライフを満喫してきていたのだ。
彼女のように、極めて文化的な少女と見えることなんて……。
おっ。
「プロト、ガブリエル……」
「そう、それが私のお祖母様!」
にっこりと微笑むジブリール。
確かに、彼女の姿を俺は見た。
あれは、プロトガブリエルを格納しようとする飛行機の中か。
小さな女の子がいて、彼女も銀色の髪をしていた。
彼女もまた、俺を見ていたのだ。
「だから、これで二度目よオドマ。私にとって、キミはサンダルフォンなの。欠番の偉大なる七大天使。その力を受け継ぐ、アビスの少年」
なんてことだ。




