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初日のスタート

 さて、この未開な世界の学園、いっちょまえに制服なんていうものが存在している。

 服装はフリーでも一向に構わないが、この無軌道な世界の住人たちである。少しでも規律と言うものを叩き込もうと考えたのであろう。

 男子はジャケット式の、やや軍隊っぽい白と青を基調とした制服。

 女子は膝上丈のスカートで、やはりちょっと軍隊っぽい白と赤を基調とした制服。


「きゅうくつ~。ねえ、これ脱いじゃだめ?」


 俺の隣に並ぶマンサが、不満げに言った。

 ほんの数日前まで、身につけるものすらほとんど無いような未開ライフを満喫していた彼女には違和感ありありであろう。

 俺としては前世の記憶から、衣服は身につけるものという常識がある。しかし、やはり全裸に近い社会からこうして被服を纏う世界に来ると、なんとも締め付けられる心地がするのは間違いない。


「周りをみてごらん。みんな服を着てるだろ? とくに学生っていうのは窮屈なかっこうをしなくちゃいけないんだ」


「うへー。慣れるのが大変そう」


 俺たちは、灰色の町にあるバス停にいる。

 ここに第三天使学院行きのスクールバス的なものが出るのだそうだ。

 なるほど、俺たち同様に制服を身に纏った褐色の肌をした連中が集まってくる。


「おっ、新顔じゃねえか」


 頭上から声がした。

 見上げるとでかいやつがいる。


「よう! 今日から入学か? 俺はボブだ、よろしくな!」


「オドマだよ。よろしくね」


「マンサだよー」


「うおっ、か、可愛いっ」


 ボブを名乗ったでかい奴の顔が赤く……いや、色が黒いからあまりよく分からんが、赤面したんだろう。

 マンサは集落の外でも通用する容姿をしているらしい。いや、らしいというか実際に可愛いんだけれども。最初はパイナップル頭のお子ちゃまだったのが、ちょっとワイルドな美少女くらいに成長してきているし。


「うふふ、ありがとう! ねえ。私はこんなに可愛いのに……どこかの誰かさんはずーっと反応しないし」


「ハハハ」


「マンサちゃんに振り向かない男だと!? そいつはきっと、男が好きなのか、そうでなきゃどこかおかしいに違いない」


 うむ。

 前世で仕事漬けの人生を送ってから、今までずっとそういうムラムラが湧いてこない状態ですまん。

 あれだな。精神的EDってやつだ。何故だかこの肉体になってもそれが続いてる。

 俺は常に賢者モードなのだよ。


「ねえボブ。あそこに怖い顔をしたおじさんがいるけれど、あの人も学生なの?」


「ああ。あの人はバス停を警備している天使だよ。権天使級の人で、学院から給料を貰ってるはずだ」


 ほうほう。

 マンサとボブが見ている方向には、確かに背後で腕を組んで直立するいかついおじさんがいる。

 それなりにびしっと決まった、軍服的制服らしきものを着込んでいる。

 南アビスの気候は、アビスと比較するとまあ亜熱帯とかそれくらいの暑さなので、こうやってちゃんと服を着てても、それなりに凌げる。

 湿気が足りないので、日陰だとそれなりに涼しいのだ。

 ということで、制服を着ている俺たちも、軍服のおじさんも、きちんと長袖長ズボンである。

 まあ、ボブは腕まくりしているし、胸元なんかはバサーッと開けてるけどな。

 こいつ、とても同い年には見えん。


「俺は十四だぞ」


「へえー。私は先生に数えてもらったら、大体十二歳なんだって。オドマもそうだよね」


「年齢が分からないってことは、外地から来たのか? アビスは野蛮人ばかりだって教えられたけどなあ……。マンサちゃんは頭よさそうだし、それに何よりも、可愛い」


「うふふ」


 マンサ、俺をチラチラ見るな。なぜドヤ顔をするんだ。

 しかし、そうか。ボブは年上か。すると上の学年だったりするのか?

 疑問を感じている間にバスが来た。

 でかい車がやってきたというので、マンサが目を丸くしている。

 俺がファミリオンと一緒に召喚したトラックを見ているはずだが、あれとは違ってでかい車体全てに人が乗り込めるからな。


「俺たちバスタードやアビス人が学ぶクラスは、基本一つしかないんだ。だから年齢が違っても同じ学年ってわけさ」


「なるほど」


 俺とマンサ、そして通路を挟んでボブと座る並びである。

 こいつはマンサに色目を使うやつかと思ったが、普通に俺の疑問に答えてくれた。

 なんだ、いい奴じゃないか。

 人は見た目によらないな。バーコを思い出すぞ。


「で、まあ。ご存知の通り、俺たちはみんな灰色の町に住んでる。だから同じバスで通うことになるってことさ。あとは西側にも灰色の町があってな。そこから来る連中もいる」


「結構通ってる人がいるんだね。町でも新聞を読める人がいたし」


「半分くらいは文字が読めるぜ。そうでないと商売ができねえからな。文字も読めないような奴はスラム落ちが関の山だな。勉強は身を助ける、だ。俺たちも必死なわけよ」


「ボブは頑張ってるんだね!」


「おう、頑張ってるぜ! マンサちゃんに認めてもらえるならもっと頑張れちゃうぜ!!」


 ボブは調子に乗って、さらに袖を捲り上げて力瘤を作って見せた。

 おうおう、すげえ筋肉だ。

 俺の体はまだお子様だから、あそこまで肉はつかないんだよな。

 そうこうしていたら学校に到着だ。

 バスの中は大変賑やかだった。

 歌う奴、大声で会話する奴、寝る奴、ノートを読みふけっている奴。

 色々なやつがいた。

 だが、誰もがそれなりに、楽しそうである。

 俺は学校と言う環境が、このヒャッハーな世界でどうなっているものか危惧していたが、捨てたものでもないのかもしれない。


 ……と思った俺がバカだった。

 バスタードとアビス人を乗せたバスが到着したのは、明らかに裏口に見えるような、殺風景な門である。

 学院の名前が書いてある表札……みたいなものもない。


「……いきなり差別されている気がするな」


「まあな。天使連中は、朝から俺たちの姿を見ると気分が悪くなるのさ」


「ええー! それってひどーい!」


 マンサが憤慨した。

 ここに来るまでに、他の学生たちとも親しくなった。

 男子も女子もいる。


「まあまあ。だって仕方ないよ。天使たちはお金持ちが多いしね。嫌われちゃったら、卒業した後の仕事が大変だもの」


「なるべく顔を合わさずに済ませられるのが一番だよな」


 君子危うきに近寄らず、という方針なのだろうか。


「二人ともアビスから来たんでしょ? すごーい! 留学生が来るのって本当に珍しいんだよ。優秀なんだねー」


「二人なら翼のユニットがもらえるかも? もちろん、僕たちだって負けないけどね!」


 まあ、とにかくだ。

 バスタードやアビス人の同級生たちは、基本的に陽気だ。

 常に天使どもに差別されるような環境に生きているようだが、それにめげることなく元気に前向きに生きているのだ。

 素晴らしい事ではないか。


「……おっと、今日の体育の授業は天使クラスと合同じゃないか」


「フヘヘ、生っちろいモヤシ天使ども、地獄を見せてやるぜ……!」


「フランクリンの野郎の秘密を握ったんだけど、どうやって強請(ゆす)る?」


 あっ、なんか腹黒かったりヒャッハーな気配がする言葉が聞こえてきた……! 

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