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文明人、狩りに興奮する

「こ、これが狩りなのですね。何やら胸のおくがカッと熱くなります」


「分かった。分かったからシャクティー先生静かにしてて」


 本日の勉強はフィールドワークなのだそうだ。

 そんな事を言いながら、シャクティー先生はメクトの狩りに同行してきた。

 本来、女は狩りに同行できない。

 役割が違うのだ。女の仕事は集落を守る事であり、採集をして男たちとは違った食物を集める事。今はマロ芋を栽培する仕事も請け負っており、重要性が増した女たちの仕事ぶりが男たちを脅かしている。

 うん、俺のせいだね。

 とまあ、そんな男たちが狩りに行くと言う。

 俺もバーコに誘われたので、久々に狩りに出る事にしたのだ。

 そうしたらこの文明圏から来た女教師、大変な興味を示して付いてきた。

 ちなみにマンサは大変悔しがっていた。


「大丈夫です。私は翼のユニットを有しますから、魔術の行使が可能なのです。力になりますよ」


「えっ、今なんて言ったの!?」


「魔術です。そもそもの始まりは我らの始祖である十二賢者の一人が神造の元素として大気中に放った虚数の元素番号を持つE……エーテルによってこれの行使が可能に……」


「うん、先生その話は後にしようね」


 この女教師、何をいきなり語り始めたのだ。

 今は狩りの真っ最中。

 風下から獲物に迫るところである。

 俺たちの武器は、槍と弓。

 基本的には弓で狙撃して獲物を弱らせ、動けなくなったところを槍で素早く止めを刺す。

 獲物が暴れると体内で毛細血管が切れ、肉の味が濁ってしまうのだ。

 なるべく苦しめずに殺せば、その分だけ肉は美味くなる。


「……客人は黙ったか?」


「あ、ごめんね。黙ったよ」


 本日の狩りを先導するおじさんが渋い顔をしている。

 敏感な動物なら、シャクティー先生のこの語りで逃げ去ってしまうところだ。

 本日は素人が一人ついてくるということで、比較的狩りやすい獲物であるヌーを狙う。

 狩りやすいというのは、逃げられにくいという意味。

 ヌーはでかくて、ガゼルなどに比べれば鈍重。

 うまく包囲して追い込めば、容易に狩る事ができる。

 問題は、こいつは大変パワフルで危険な事である。


「よし、オドマ、やれ」


「あいよっ」


 俺は指示を受けて、矢を(つが)えた。


「オドマは一番弓矢がうまいんだよ。槍を投げてもいけるけど、そっちはちょっと狙いが甘いんだ」


 バーコが鼻の下を伸ばしながらシャクティー先生に解説している。

 こいつは最近色気づいてきて、集落の年頃の女の子たちに粉をかけて回っている。

 本命はマンサなのかと思ったが、若さゆえの性欲に突き動かされているのではないだろうか。

 青春だ。


「よし」


 おじさんの号令とともに、俺は矢を放った。

 風の流れも計算に入れて、矢は狙い過たず、ヌーの背中に突き刺さる。

 ヌーが悲鳴をあげた。

 獲物が逃げようと動き出した時には、既に泥や周囲の草にまぎれるための香料を塗った男たちが回りこんでいる。

 ヌーが走った先に、槍が突き出された。

 腹に、足に突き刺さる。

 ヌーの動きが鈍る。

 そこに、槍が投げつけられる。


「いけいけいけ!」


 おじさんの声に応えて、みんな集まってきた。

 そして、ヌーの首、目の辺りを目掛けて、一斉に突く。

 これでおしまいだ。


「ふおおお、し、自然の掟を目の当たりにしました……! 野生の神秘ですね!!」


 シャクティー先生大興奮である。

 もう、普通に魔術とやらの出番なんか無かった。

 よく考えなくてもそうだ。

 今まで営々と続けられてきた、アビス人にとっての生活の一部なのだ。

 ポッと出の神秘でどうにかできるものではない。

 だが、とりあえず魔術とやらに興味はあるわけで。


「見てた!? 俺の槍使いのかっこいいこと! どう、どう!?」


 とかシャクティー先生に全力でアピールする青春状態のバーコを、俺はとりあえず、


「ほいやあっ!!」


「ぐわーっ!!」


 背後からキャッチしてのジャーマンスープレックスで投げ捨てる。

 全く、ひとの家庭教師に欲情しないでくれたまえ。


「先生、さっき言ってた魔術なんですけど。見てみたいです」


「見てみたいのですか。大したものではありませんよ。あんなものより、今目の前で繰り広げられた弱肉強食の大スペクタクルの方が素晴らしい」


「いや、あれはあれってことで、一つ見せて下さい」


「仕方ないですねえ」


 先生はあまり気乗りしない様子で、背筋を正した。

 彼女の背中に、突然金色の翼が三対展開する。

 唇が開く。

 漏れ出てくる音は、俺が聞いたことがある言語ではない。

 いや、これは、なんというか……直感的に理解する。

 プログラミング言語に無理やり意味を持たせて喋っているような……。

 そこで、先生の指先が輝いた。

 放たれたのは光の筋だ。

 これが目の前にあった背の高い草にぶつかり……一瞬で草を一握りの白い塊に変えた。


「これが、ごく一般的な魔術です。翼のユニットを持つものならば誰でも使える、対象を塩の柱に変える『裁き(ジャッジ)』という名のものですね。危険ですから人に向かって撃ってはいけません」


「……結構とんでもないですね」


「これでも能力に制限がかけられているのですよ。最大限に能力を解放すれば、百平米を塩の荒野に変える事も可能でしょう。ちなみに、生命力が強い相手には通用しません」


 とんでもないものを見てしまった。周りの誰かも気づいただろうか。振り返ってみる。

 みんな、ヌーを解体することに夢中で気づいていない。

 だが、俺は世界の一端を見た気持ちでいっぱいだった。

 この世界は、未開の大地で生き抜くウィルダネスアドベンチャー(いわゆる、フィールドマップで展開される冒険)だとばかり思っていたのだが。

 実はファンタジーだったりしたのだろうか。

 いやいや。

 ユニットとか言ってるし、俺の愛車はロボだし、SF……?


「南アビスでは、誰もが制限を掛けられています。位階を持つものでも、おいそれと撃つことはありませんよ」


 そんな事を先生は言って、そこで終わりになった。

 だが、制限されているから撃たれない、そんなことがあるのだろうか?

 生前の俺がいた世界で、銃が合法だった国は、数え切れないほどの意図しない事故を起こし続けていたじゃないか。

 南アビスへの留学。

 これはひょっとすると、思ったよりも面倒くさいかもしれないぞ。

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