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家庭教師現る。言語をマスターしよう!

 乾季になって、俺はゴモラー(つち)によるマロ芋大量生産計画を本格的にスタートさせた。

 擬似的に作り上げた土で、マロ芋を乾季に栽培する能力は充分である事が確認できたからである。

 採集が終わって、暇をしている女衆を引き連れて、彼女たちに栽培のやり方を教える。


 と言っても簡単。

 土を作る係、マロ芋に水やりと土の追加をする係、栽培日数を記録する係で分けたのである。

 植えるのと収穫するのはみんなでわいわい言いながらやる。

 みんな、覚える事は少ないので、仕事の片手間でやれている。

 そして収穫の時がやってきて、大した量ではないものの、「自分たちで育てたマロ芋」という、今までに無い価値を持った食べ物が誕生した。


「これをあたしたちが作ったんだねえ……!」


「食べ物は、オニャンコポン様からの授かりものだとばかり思ってたわ。自分で芋を作れたら、本当に食べ物を集めるのが楽になるねえ……」


 みんな感激の面持ちで収穫する。

 マンサはこの間、ずっと俺と女たちの連絡役を務めてくれた。

 ニマニマしながら俺を肘で小突く。


「みんなすっごく喜んでるよ。やっぱりオドマはすごいね。誰も考えた事無いことをできちゃう」


「ありがとう。ま、別に特別なことをした気はしないけど……」


「特別だよ! だって、食べ物を作っちゃったんだよ!そんなの、今まで誰もやったこと無い。本当にオニャンコポン様みたいだよ!」


 ぬうう!

 俺が成果を出すほど、徐々にオニャンコポン認定されていく。


「やっぱり神の子は違うわね!」


「アジョアは本当にいい子を産んだよ」


「神の子を産んだから、アジョアはいつまでも若いのかしらね」


 なんか段々ママンの話題になってきた。

 そういや、記録係になっていたはずのママンの姿が見えないな。


「あれ、母さんいなかった?」


「あれ。アジョアなら族長に呼ばれていったよ」


「ほうほう」


 俺はそれを聞いて、族長の家に行く事にした。


「オドマはお母さん好きだよねー。やっぱりお父さんいないから?」


 おっ、何やらマンサはデリカシーの無いことを聞いてくるな。

 だが包み隠さず直接的な物言いをする子は、おじさん結構好きだぞ。


「まあそのようなものだ」


 俺はどうとでもとれそうな返しをして、マンサを引き連れて族長宅にやってきた。

 どうも周囲が騒がしい。


「空から人が降りてきたんだ」


「羽のある人じゃないのに羽がある」


「何を言っているんだお前たちは」


 俺は野次馬していた連中の言葉に呆れた。

 羽のある人じゃないのに羽があるなら、それは羽のある人だろう。

 どーれ、とばかりに族長の家に首を突っ込んでみた。


「噂をすれば、ご本人が来たようですね」


 すると、ついぞ聞いた事の無い丁寧な物言いである。

 ママンと族長の前に、優雅に腰掛ける小麦色の肌の女性。彼女の背中には金色の翼が六枚。


「はじめまして、オドマ。私はシャクティー。クリストフ様の使いです。あなたの家庭教師にやってきました」


「どうもはじめまして。ふむふむ、家庭教師ですか」


 なんとなく、彼女の居住まいに流されて、俺もかしこまった感じになる。

 シャクティーは、アビス人とはまた違った印象の女性だった。

 物凄い美人である。

 彫が深い顔立ちをしていて、鼻が高い。髪はカールしていて真っ黒。肌の色は俺たちほど黒くない。

 なんというか、インド系。


「かていきょうし?」


「オドマ、こちらのかたが、かていきょうし? をなさりにきたんですって」


「かていきょうしってなんじゃろうな」


 うむ、アビス人一同は家庭教師を理解していないな。


「家庭教師というのは、色々な知識を付きっきりで教えてくれる人のことですよ」


 俺が説明すると、みんな納得したような、納得しないような顔をした。

 そりゃあそうか。

 アビスにおいて、知識は親から子、年配から若輩へと、OJTオン・ザ・ジョブ・トレーニング方式で現地で教えられるものだ。

 それだけを教える仕事の人物がいる事など、想像もできまい。


「はい、概ねオドマくんの説明したとおりです。私は、来年にも南アビスへ旅立つ事になるオドマくんの基礎知識をつけさせるためにやってきました。例えば、文字の読み書き」


「おお」


 俺は納得した。

 アビス人には文字が無い。

 絵文字みたいなのはあるが、ほぼ絵の延長線上にあるので、同じ事でも描く人によって全くニュアンスが変わる。

 これが、文字があれば情報を、ロス無く他者に伝える事が出来るようになる。


「文字……?」


 ママンが首をひねった。


「オドマ。あなた、石版に何か、決まった模様の羅列を書いていたわよね。あれでマロ芋の土の記録をつけていると言っていたけど」


 雨季での俺の言葉を覚えていたらしい。


「なんと!! それは本当ですか!?」


 シャクティーの目がキラーンと光った。


「むー」


 マンサが口を尖らせて、俺の腕を引き寄せた。

 お、なんだなんだ。


「それは、文字かもしれませんね。オドマくん、あなたは誰かから文字を習った事があるのですか?」


「オドマはモジなんていう分からないもの知らないよ! オドマに近づかないでよ!」


 あっ、マンサめ、嫉妬してるのか。


「うちに、オドマが書いた石盤があるわ。見たほうが早いかも」


「そうしましょう」


「ぶー!」


 マンサをスルーする形で、ママンとシャクティーが会話を進める。

 お、二人並ぶと、雰囲気が違う美人同志、お互いを引き立てあうな。絵になる。


「ああ、それから」


 ママンが俺たちに向き直った。


「シャクティーさんは、しばらくうちで暮らすことになります」


「なんですって!? ……いてえ!!」


 俺は驚愕し、何故だかマンサに思いっきり腕をつねられたのだった。

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