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良い土生産計画

 なかなか時間がすぎるのは早いものだ。

 族長の友達のじいさんの言葉から、ゴモラーの土を擬似的に生産できるのではないかと思い至った俺は、自分の出したもので実験をすることにした。

 これがまた長かった。

 一週間とかそこらかけて作った土で、さらにマロ芋を育てる。

 結果が出るか……?

 というところで雨季が来た。



「オドマはさ、最近、狩りにも行かないで何してるの? バーコが、今なら狩りでオドマを超えられるって言ってたよ?」


 遊びにやってきたマンサが、雨漏りする天井を見つめている。

 この季節の雨はなかなか凄い。

 しとしと降るんじゃない。

 ドジャーッ!! という感じだ。

 メクトの集落では、わざと家は雨漏りするように作られている。

 特別な技術というわけではないが、水が漏斗状に集まるようになっていて、その一点から床に開けられた穴に向かって水が降り注ぐ。

 家の下には、石を敷き詰めた穴が開いていて、そのなかに溜まった水を色々と活用するのだ。


「このままだとさ、バーコが色々認められちゃったら、私はバーコのお嫁さんになっちゃうかもだよ?」


 ?

 何を言っているのだこのちびっ子は。

 いや、俺も大概、外見は子供なんだが。まあ、精神年齢はおっさんだ。

 うまい具合に前世での過去の記憶なんかが上書きされてきていて、地球での俺が十歳までに過ごしていた記憶は、もうほとんど思い出せない。

 だが、サラリーマンとして仕事に全生活を捧げていたあの頃は、まだ明確に思い出せるぞ。

 あの頃はきつかったなあ。

 笑ったり泣いたりできなかったなあ。

 だが、それとマンサとバーコが何の関係があるというのだ。


「うん、僕は今、マロ芋の栽培に挑戦しているんだ」


 なので、俺はとりあえず、今やっていることを端的に伝えた。


「なにそれ? サイバイ? それって、狩りをするよりも大事なことなの?」


「今はまだ成果が出ていないけど、将来的には大事になる」


「……わかんないなあ。いっつも、オドマの言うことって難しくてわかんない」


 俺も恐らく、十歳の女の子に目線を合わせてしゃべるのは苦手だな。

 何を言わんとしているのかは理解してるんだが、なんというか……俺の脳みそは、会社勤め時代にそちらの方向で固定されて、十年経った今も大きな変化を見せていない。

 理解できてない相手にわかりやすく説明するのが苦手なのだ。


「まあなんていうかさ、見ててくれればいいよ」


「ふーん」


 つまらなそうに、マンサは膝を抱え込んだ。

 それを見てたママン、編み物をしてたんだが、急にこっちにやってきた。

 ああ、この世界の編み物は、乾いた硬い草の繊維を使って、俺たちの腰ミノやら装飾品を編むやつだ。

 藁を編んだ座布団のようなものや、細工ものもあって、なかなかこれが馬鹿にできない。


「ねえマンサちゃん、だったら、オドマのお手伝いをしてみたらどうかな? オドマ、ずっと一人でぶつぶつ言いながら、絵を描いているばかりなんだもの。おかしくなってしまうわ」


「えっ、ママン、俺は別にそんな」


 むおー。

 ママンの指先でお口チャックされてしまった。

 俺を手伝ったら、と提案されたマンサ、その表情がパッと輝く。


「そう……そうね、そうだよね! うん、口伝の勉強も大事だけど、オドマをちゃんと見ててあげるのも大事だもんね! 私、勉強が終わったらオドマを手伝いにくるよ!」


 なにいっ。

 なんだかフラグが立てられてしまった気がする。

 まあ、助手がいるのは助かるし、これはこれでいいか。


 雨季に入ると、マロ芋は勝手ににょきにょき育つようになるため、栽培をする必要がなくなる。

 俺はここから乾季まで、しばらくの間は他の子どもたちと狩りの練習なんかをして過ごす。

 雨季に入ると、集落の近くには背の低い森のようなものができる。

 乾いた土の中に潜んでいた植物が顔を出し、一気に大きくなるのだ。

 そして、花を咲かせて実をつける。

 この花や実がまたご馳走なのだ。

 人間たちばかりでなく、動物たちもこの恵みを求めて現れる。

 雨季の季節は、狩りの季節でもある。


 雨季の森の中、この季節しか出会えない、サルや大型のげっ歯類といった獲物を狩り、月日が過ぎていった。

 ちなみにこの間、俺が何もしていなかったわけではない。

 とりあえず、集落のみんなの協力を得て、例の土の大量生産にとりかかっていたのだ。

 雨漏りが届かない、家の下に土を収納する。

 雨季には女達はあまり出歩かないので、編み物以外は退屈している事が多い。

 ということで、ゴモラーの土作成と管理は、彼女たちのちょうどいい暇つぶしになったようだ。


「ええとね、ドメスさんの家でも準備できたって。ングルさんのところはもう少しでいっぱいみたい」


「おお、順調じゃん。助かるよマンサ」


「えへへ、どういたしまして」


 マンサは近所の家々の進捗を聞いては、俺に伝えてくれる。

 俺はそいつを石版に刻み込んでメモする。

 石版は雨ざらしにしているんだが、家の中には収めきれないほどの量になっていた。

 そろそろ結果を出す時だな。


 やがて、雨季が明けた。

 俺とマンサは十一歳になった。

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