ゴモラーの残骸で農業?
コンテナにみんなを搭載して帰還すると、大歓声だ。
遠くからも俺が放った稲妻は見えたらしく、
「大地から空へ昇っていく稲妻とは!」
「やはりオドマはすごい! 神の子だ!」
「オニャンコポン様のご加護だ!」
とか言う。
オニャンコポンはやめてほしい。
さて、トラックのコンテナには、仲間たち以外にちょっと変わったものを積んでいる。
それは、ゴモラーを構成していた土である。
鼻が曲がりそうなほど臭い土というのは、尋常ではない。
つまりこれは、腐葉土とか、肥料が混じった形になった土なのではないかと俺は考えたのだ。
「オドマー、臭くて臭くて死ぬかと思ったー!」
マンサがぷんぷん怒っている。激おこだ。
うむ、一緒に閉じ込めて正直すまんかった。
「でも、どうしてこんなものを持って来たの? 土が腐ってるだけじゃない?」
「そう、そこなんだよ」
ちょうど回りにメクトのみんなも集まってきていたので、俺は一説ぶち上げた。
「腐るのってさ、雨季の食べ物ばっかりだったじゃない。でも、今は乾季だよ。乾季なのに腐ってるってどういうことだと思う?」
「ほう、ゴモラーは乾季なのに腐ってるのか!」
「それは不思議だな」
一同首をかしげる。
「ゴモラーとは、土の怪物……だよねえ。きれいな土をや虫を食べて大きくなって、乾いてしまうまで動くけど……」
マンサが口伝の一節を諳んじてから、やっぱり首をかしげた。
「あのさ、腐ってるのとは違うのかもしれないって俺は思ったんだ。これって、湿ってて、たくさんの栄養を含んだ土なんじゃないかって」
「ほうほう」
「でも土は食べられないわ」
お、ママン、いい質問だね。
「うん、それはね。僕たちが食べているマロ芋は土から生えてるでしょう。あれって、乾季の間は成長しないけど、雨季に芽を出して一気に多くなって、芋の株も増えていく」
「ふむふむ」
一同、俺の言葉に聞き入っている。
「でさ。ゴモラーの土って、雨季の地面と似てないかなって思って」
「ほうほう、言われて見ると……」
「雨が降った後の地面って、しばらくすると臭くなるよね」
微生物なんかが活発になり、地面に落ちた草や生物の死骸を分解する。その過程で臭いも出てくるのだ。
「だからさ、僕たちでこの土を使って、マロ芋を育てられないかと思って」
「なるほどー」
「だけど、マロ芋なんてどこにでもあるでしょ? 乾季の終わり頃には減っちゃうけど」
「そこだよ。マロ芋がちょっと早く掘りつくされてしまったら、食べるものが無くなっちゃうじゃない」
俺の言葉に、マンサがハッとした顔をした。
「そういえば、過去にマロ芋が取り尽くされて、たくさんの人が餓えて死んだ時期があったんだって。おばあちゃんからこの間習った!」
「今は村で、マロ芋の粉を蓄えてるけど、雨季になったら腐っちゃうから、半巡りもしないうちに食べないといけないでしょ。だけどさ、マロ芋生きたままで村の中にあれば、腐らないよ」
マロ芋は水を溜め込むらしく、洪水なみの水が降り注いでも根腐りを起こしたりしないのだ。
「なるほどなるほど。それはいいな!」
「やってみよう!」
そう言う事になった。
今まで、どうして彼らが農業めいたことをしていなかったのか。
俺はこのマロ芋栽培計画を開始して初めて理解した。
とにかく、アビスの大地は痩せているのだ。
どこかに肥沃な栄養を含んだ土があるらしいのだが、それらは雨季の雨が運んでこない限りは、こちらには存在しない。
そして運ばれてきた土は表層だけを覆い、これをマロ芋を初めとした植物があるだけ吸い尽くし、囲い込む。
そして残った土地はまた痩せた大地に戻る。
もともと、植物を生産することに向いていない土地だったのだ。
「ゴモラーは定期的に現れるんだっけ?」
「うん、十巡りと少し経つとまた出ると思う」
「じゃあ、ゴモラーの土の効果を調べて、同じような土を作りたいな。あと、ゴモラーは周りの集落と一緒に狩りに行って、共有財産にしよう」
「ほえー、オドマは凄い事考えてるねえ」
マンサは目をきらきらさせた。
ふふっ、俺に惚れちゃいけないぜちびっ子。
ちなみに、ゴモラーの土を調べる具体的な方法は知らない。
こういうときこそお年寄りの知恵を使うのだ。
マロ芋を切り分けて、ゴモラーの土だけのところ、ゴモラーの土とこの土地の土を混ぜたところで育てたものの二種類を用意する。
これを毎日観察しながら、日記をつけるのだ。
「あら、オドマ、何を書いているの?」
俺が石の板に、尖った石で日記を書いていると、ママンが尋ねてきた。
横に座って覗き込んでくる。
うーむ、まだ十代の肌の張りつやである。まあ外見も十代の頃からほとんど変化してないわけで。
「それは模様?」
日記は日本語で書いているから、読めないのだろう。
というか、この部族は文字がない。絵文字みたいなものはあるが。
「まあね。ちょっとマロ芋の記録をつけてるの」
「へえ……オドマは頭がいいのね。素晴らしい息子を持てて、私は鼻が高いわ」
実に嬉しそうにいうのである。
俺はマザコンではないがキュンとくる。
ということで、俺は日々、熱心に日記をつけた。
雨季が近づいてくる。
試した結果、ゴモラーの土だけで育てたマロ芋は、でかくなった。
とんでもなくでかい。
「うおー!」
バーコが喜び勇んで収穫し、さっそく粉にして食ってみた。
「……」
「うえー」
「なんだか、味がしない……」
そうだ。
栄養がありすぎるせいか、実が肥大化する方向にエネルギーを使ってしまい、中身がなんだか水っぽくて味が薄くなってしまったのだ。
それに対して、ゴモラーと普通の土を混ぜたものは素晴らしかった。
ギュッと身の締まったマロ芋だ。
この粉ならパンにしても美味いだろう。
「ほー、この土、見たことがあるのう」
土の分析についても進展ありだ。
族長の友人だと言うじいさんが、証言したのだ。
「わしが昔、外で糞をしての。しばらくほっておいたのだけど、ちょうど日陰でな。毎日見るたび、ちょっとずつほぐれて行っておったな。で、土と一緒になったら、その巡りでそこで取れたマロ芋が美味くてなあ」
「なに!! ありゃお前が糞をしたところの芋だったのか!! ぺっぺっ! とんでもないもん食わせおって!!」
「うわあ、やめろ族長!? 十巡りよりもずっと前の話じゃろう!?」
じいさんたちが殴り合いを始めたぞ。
そうそう。
アビス人、数を十までは数えられる。
それから先の数は、十を束ねていく感じだ。
十が十あると、その先はいっぱいである。
だがいいことを聞いたぞ。
恐らく、この土地の土は痩せているだけではなく、何かしら特別な成分を含んでいる。
排泄物を混ぜて、じっくり日陰で発酵させるといいのかもしれない。
俺は日記に書き加えた。
これで、ゴモラーの土を量産できるかもしれない。




