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ぷちぷち日和  作者: 六理
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ぷちぷち、ハロウィン。

「私」と「彼」のハロウィン小話。

 秋桜子女学院は「秋桜」とついているとあってか、学校のいたるところに秋桜(コスモス)の花が咲いている。

 秋桜の原産地はメキシコで、日本にはイタリアの芸術家が明治に持ち込んだのが最初、という説があるのだそうで。


「あめこ」


 花弁の形が桜に似ているのと、秋に咲くことから和名は秋桜。

 一見すると細いのだが、台風などで倒されても茎の途中から根を出し、また立ち上がって花をつけるほどに強い花だ。


「あめこ、現実を見なさい」


「花が綺麗だなーと思って」


 窓の外はこんなにも美しいのに。

 青い空に色とりどりの花。

 気温はぐっと夏から下がって制服は中間服、早い子は冬服を着ている。

 私とカナちゃんは中間服だ。いまはそれにエプロンをつけているけど。


「同じ材料でここまで違うと凹むね」


「だからオーブンから目を離すなと」


 今日の四時間目の家庭科は生徒からの要望でハロウィンにちなんだお菓子作りになった。

 人によってはケーキやマフィン、パイとか多彩なんだけど。

 一緒にやることになったカナちゃんは「おとなしく型抜きクッキーにしときなさい」と譲らなかった。

 せっかく昼休みも使えると言われたのに。

 しかし結果的にはカナちゃんのクッキーはこんがりきつね色に焼けているのに対し、私のクッキーはカリカリたぬき色に焼けている。

 サックサクならぬザックザックだ。

 本当は白いオバケや黄色いカボチャが煤けて茶色くなったのを恨んで、こちらを睨んできている気がする。


「素人がうかつにシュークリーム作りたいとか言わないの。クッキーでこれで作れるか」


「かろうじて食べれるんだけどね…シュークリームは今度にする」


「諦めてないし」


 ボリボリと見かけは悪いが味はそこまで変わらないクッキーと、私が四苦八苦して横で焼いていた合間にカナちゃんが作っていたカボチャのプリンをつつく。

 温かいプリンってはじめて食べたけど、美味しいな。

 見かけに反してカナちゃんはとっても家庭的だ。

 しかし、うーん。


「これは、ひとに、あげられないよね」


「蝉にか」


 蝉にです。

 鳴かないほうです。

 昨日、約束しちゃったんだけどな。

 さすがに自分で食べれてもひとにあげるには、とてもとても。


「じゃあ交換するか」


 ひょいと私の前の皿とカナちゃんの皿が入れ替わる。


「えっええ!?」


「焼く前までは一緒の生地だったから、別にあんたが作ってないわけじゃないし」


 まあ確かに生地は一緒だけど。よくよく見ると厚さもカナちゃんは均等だ。私と出来上がった量が違うと思ったらそこか。


「でもね、それはね」


「元々先輩にあげるつもりだったし、ちょっとくらい見映え悪くてもいいよ。笑って食べるでしょ」


 豪放磊落なひとたちだから、そうだろうけど。

 うーん、うーん。

 同じ型抜きクッキーのはずなのにまるで違うふたつの皿を見比べる。


「それはダメだ」


 うん、なんか。それはズルいぞ私。


「半分ください!」


「…よし、それで手を打つか」


 カナちゃんはあきれたように笑った。



 成功作と失敗作を交互に袋に詰めていく。

 結構な量になるな。

 蝉くんと、叔父さんと叔母さんと余ったやつは自分のに。

 余ったやつ。カナちゃんの。

 ちらりとカナちゃんを見ると、全部先輩にあげるつもりで大きなタッパーに詰めていた。失敗作が目立って恥ずかしい。

 よしよし、こっちは見てないなと確認して私は成功作のみのクッキーを包装紙に詰めこんだ。








「Trick or Treat! やっほー」


「こんにちは! はいどうぞ」


 放課後。


 今日は私のほうがあのホームに着くのが早かった。

 包装紙はクラスの誰かが大量に格安で仕入れたとかでいくつも持ってきてくれた。

 百円程度だがハロウィン仕様でとても可愛い。


「焼きすぎてるのが私ので、上手なのがカナちゃんのです」


「あはは、黙ってたら気づかないのに」


 それは嘘をついてるようで嫌だったんですもの。

 あと、自分が焼いたのを渡さないと意味がないのです。


「大丈夫、食べれるレベルじゃないクッキーを俺は知ってる」


「どんなクッキーですか…」


 砂糖の入ってないものや炭といっていいクッキーとか序の口だよね。

 笑顔で言っているけど、食べたことはあるんですか。

 深く聞くと戻れなくなりそうだと思っていると、蝉くんも鞄からなにやら取り出した。


「お返し。本当は貰い物というか、おまえが貰うなら雨水ちゃんにって高千穂が」


「わーかわいい! 棒つき飴だ!」


 しかも三本も。

 立体的なオバケとカボチャと、あと黒猫。黒猫は赤いリボンまで丁寧に作ってある。


「あの美人さんですか」


 ちょっとカナちゃんの騒動で印象が薄くなったけど、本当に美人さんだった。聞きしに勝る美少女(本当は男だけど)だった。


「しかも高千穂の手作りらしく」


「…こういう飴って自宅で出来るんですか」


 どういうことなんだ。

 今日の家庭科でも飴細工なんて作ってる子はいなかったのですが。


「シュークリームも作って持ってきてたけど、さすがにナマモノは人伝に渡せないって言われてさ」


「シュークリーム…」


 シュークリームも作れる美人さん(ただし男性)だと。

 カナちゃんに素人が作るには荷が重いと言わせたシュークリームをさらっと作るなんて。


「乙女の敵ですね…!」


「高千穂、泣いちゃうと思う」


 ごめんなさい、八つ当たりです。



 いくつか余っていたぶんのひとつを美人さんに。

 あと、どうしたものかな。渡すべきかな。

 カナちゃん作オンリーの袋を手元で揺らす。


「十河に渡せばいいの?」


「渡していいものですか?」


 包装してはみたものの。

 黙って渡すのも、なんか悪いことをしているような、なんというか。

 カナちゃんだから、知っても「ああ、そう」くらいで済ましてくれそうだけど。

 納豆を高速で二十分くらい混ぜながら。納豆は混ぜすぎると糸が引かなくなるんだよ。


「大丈夫、捨てたりする奴じゃないから」


「仲直り、してくれませんかね」


 なにかがあったにせよ、十年前の話だとかいうし。

 カナちゃんはあたしが悪いとしか言わないし。

 向こうは(いつも)だんまりらしいし。


「十河は別に嫌っているわけではないと思うよ、勘なんだけど」


「カナちゃんもそういう感じではないんですよね、勘ですけど」


 まあ、あれだ。

 受け取り拒否されたら私が食べます。





 返却されなかったということは食べてくれたんだろう、たぶん。


 他人にかまけて自分の感想を聞き忘れたと気づいたのはしばらく経ってからだった。




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