4 ……戦闘
「何だよアレ!何だよアレ!!何だよアレーー!!!」
『何してる。早く撃て。今なら動きは直線的だ。こちらに向かって来ているだけなんだからな!っておい、逃げるな!!』
「馬鹿言うな!!逃げるに決まってるだろ!!ゾンビだよ、ゾンビ!!」
無理、無理、無理、無理ーー喰われる、喰われるって!!
『ちっ、ただのグール相手にこんな様では人間相手に戦えんぞ!!……仕方が無い、仕切り直すために距離を取ることに一旦集中しろ。相手は腐り掛けだ。走る速度もお前ほどじゃないだろう。そうそう、おおっ結構足は速いじゃないか』
俺は走った。全力で走った。ガードレールを、瓦礫を、倒れたドラム缶を飛び越えて。
『おーい、もうそろそろ良いぞ。止まれ!!』
「はぁ、はぁ……」
後ろを振り返ると五十メートルほど離れたところをゾンビがこっちに走ってくる。まだ全然、距離を取れていない。
『銃を構えろ。頭に一~二発ぶち込めば大人しくなる。言っておくがな、グールなんてこの世界では珍しくも無いし、ゾンビと並んで最弱の部類だぞ。この世界にはグール以外にもオークやゴブリン、オーガにウルフ、スケルトンにミノタウルス、ゴーストにエレメンタルファントムまで存在する。だがやはり、一番恐ろしいのは武器を持った人間だ』
なんだかとんでもない事を口にしているぞ。
『でっ…でも……僕さっき初めて銃を撃ったばかりなのに!』
『でもも糞も無い。これが出来なければお前は死ぬだけだ!!目の前のハードルは幸運にも、もっとも低いハードルと言えるだろう。こんな見晴らしの良い屋外でたった一匹のグールなんてありえないほどラッキーだぞ』
ううう~~
僕は半泣きになっていた。
「くっそう~~」
それでも袖で涙を拭い、銃を構えた。
『良いか。十分に引き付けてから撃て。距離は先ほどと同じぐらいが良いだろう。ボディーじゃなく頭部を狙え。相手の動きを予測して銃口を向けるんだ。走り回るガキンチョに水鉄砲を当てるよりずっと簡単さ』
ぐっと少女は親指を突き立てて笑う。
「畜生、やってやる。やってやるよ!!」
どんどん近付いてくるそのグールとか言う奴。正直、何がゾンビと違うのか解らないけれど、僕はその存在にサイトをを合わせた。
『頭部だぞ。頭部を狙うんだぞ!』
障害物を避けながら迫ってくるグールはゆらゆらと揺れている。精神を集中させて、相手の行動を予測して狙いをつけ引き金を引いた。
パーンッ
炸裂音が響き、勢い良く薬莢が排出されると同時にグールの頭部に弾丸が合ったのが見えた。
走っていたグールはそのままの勢いで地面に倒れこむ。
『お前、やるじゃないか!見直したぞ。まさか一発で仕留めるとはな』
「はぁ、はぁ、はぁ……」
胸がどきどきと、早鐘のように鼓動を打っている。
『さぁ、行くぞ』
「行くぞって、何処に?」
『倒したグールの所に決まっているだろ。倒したなら剥ぎ取りをしないとな』
「剥ぎ取り?」
一体何を剥ぎ取ると言うんだ?もしかして死肉を食らえとでも?
『さあ、さっさと来な』
すたすたと先を歩く黒髪のツインテールの後を、付いて行くしか選択肢は無かった。
「うわぁ……」
数メートル先に倒れるグールの姿を見て、吐き気がこみ上げる。
腐りかけた身体、頭部から流れ出す脳漿。
『念のため、もう一発頭部に撃ちこんでおけ、これは他の相手でも同じだぞ。瀕死の状態でも噛み付いてくる奴は居る。そして、その傷が致命傷になる場合もあるからな』
「ううぅ……」
もう一度乾いた破裂音があたりに響いた。倒れているグールの頭部にもう一発、撃ち込んだのだった。
『さぁ、剥ぎ取りだ』
ひゃっはーっ!と少女は小躍りしてグールに駆け寄るが、その時、嫌な音が周囲から聞こえた。
「グルルルル……」
えっ?
その音は、唸り声は四方から聞こえる。
『糞っ、アタイとした事が……運が良すぎると思っていたがまさか罠だったとはな!?』
四匹のグールに俺立ちは囲まれていた。
「どうするんだよ!囲まれたじゃないか!?これじゃあ逃げて距離を取ることも出来ないし!!」
こんな、訳も解らないまま僕は死ぬのか?
『さすがにFNGにはこの状況はちときついか、残りの残弾は四発。一発も外せないしな……あまりやりたくは無いが仕方が無い』
何を言ってるんだこの子は……
ナインティーンはブツブツと呟いてから俺の方を向いた。
『少し、身体を借りるぞ。抵抗せず力の流れのままに身体を合わせろ!!』
「えっ!何!?」
その時、ガクンと身体に何かが乗り移ったような衝撃を受けた。そしてまるで自分を外から見ているような感覚が起こる。同時に、グール達が飛び掛って来た。
『来たな!……良いか、この戦闘を身体で覚えておけよ!!』
飛び掛るグールに覆いかぶさられると思ったその時、僕の身体は柔軟に身体を丸めつつまるで巴投げのようにグールの胴体を蹴り上げながらグールの頭部に弾丸を叩き込んだ。
そして、その勢いのまま後転して立ち上がり走りこんでくる別のグールの頭部をすかさず撃ち抜いた。
後二匹!
左右から同時に飛び掛る二匹のグールをロンダートで躱し、着地と同時に連続してそれぞれの頭部に弾丸を叩き込んだ。
それは、一瞬の事だった。
僕は、というか乗っ取られた僕の身体は一瞬で四匹のグールを屠り去ったのだ。
『くうぅ、流石にきついな。だがお前の運動能力は中々じゃないか、機動性と小回りだけはそこらの男に引けをとらんだろうな……少し、疲れた……眠る』
僕の口を使って、彼女はそういうとその声の調子を落とし、再び身体の自由が戻った。
「ちょっ…おい!待ってよ!こんな所で一人きりで残されるなんて!!」
そう声を掛けたが、彼女からの反応は無かった。
・
・
・
『ううん……はぁ、流石に他人の身体を乗っ取ってコントロールするのは疲れるな。おい起きろ、チンカス!!』
『?ああっ!?ナインティーン!!酷いじゃないか、急に居なくなって、僕、僕、一人になっちゃったのかと思ったよ』
時刻は解らないが夕闇が迫っていた。こんなカオスな世界でどうすれば良いのかと本当に恐かった。
『此処は?……そうか崩れた廃ビルを上って隠れていたようだな』
ナインティーンの言うとおり、僕は崩れた壁とむき出しになった鉄筋を足場にして廃ビルの高台に上って、さらに瓦礫の陰に身を潜めていた。
ここならまた、グールに見つかっても包囲されるような事は無いだろう。昇るのには多少苦労した。
『それにアタイが寝ている間に弾丸も新たに装填したようじゃないか?』
「うん」
ごついベストを着ている所為で気付かなかったが、俺は何やらリュックサックのようなものを背負っていたのだ。これに気付いたのはグールを巴投げした時だった。
リュックの中には紙箱に入っていた弾丸が入っていた。一つの箱に五十発。それが二つ入っていた。それだけじゃない空のマガジンが二つと、ナイフケースにナイフが在った。
僕はマガジンに弾丸を詰めて、ごついジャケットについていたポーチにマガジンを仕舞い、ナイフケースを特殊部隊みたいに左胸に取り付けた。
『教えても居ないのに、私の体の中に弾丸を八発装填しているとはな。チャンバー内に一発とマガジン内に七発の計八発。これからはいつもそうしておけよ、だが!』
「だが?」
『お前、私をハーフコックの状態にしているがそれは何故だ?』
「いや、何かでチャンバー内に弾丸があるときはそうしろって呼んだ事があってさ」
『意味も解らずやっていたのか……どうせ、ハンマーがファイアリングピンに触れていない状態を保持することで暴発を防いでいるつもりか、フルコックしやすくする為だとかだろうが……その状態暴発しやすいから止めろ』
「暴発!?」
『そうだ。ハンマーを固定しているノッチが壊れる可能性がある。携帯するときはハンマーを必ず落として置け。コック&ロックなんてやるのは馬鹿のすることだ。自分で自分を撃ちたくなかったら私の言うことは聞いて置け』
「はい」
『チャンバー内に弾丸が装填されているから両手で慎重にハンマーを戻せよ。暴発しても言いように銃口の向きには気を付けろよ』
こうして彼女の言うとおりハンマーを戻して、ホルスターに仕舞った。
『じゃあ、暗くなる前に剥ぎ取りと行こうか?』
「…………」
うへぇ、マジですか?またあの化け物の近くにいくの~~。
『何、泣きそうな顔になってるんだカス野郎。剥ぎ取りしなければ金を得ることも喰っていくことも出来んぞ?死にたくは無いのだろう?さっさと行くぞ、それとも此処で一人で死ぬまでマスでもかいてる気か!』
「解った。解ったよ!だから、そんな汚い言葉、使うの止めてよ。君、女の子なのに……」
『ふんっ。解ったなら早く来い』
廃ビルから慎重に降りて、僕はびくびくしながら彼女の後に続き数時間前に彼女が僕に乗り移って倒したグールの元にやって来た。
彼女に教えられた通り、全部頭部にもう一発撃ち込んだ。
『心臓のところをナイフで切り裂いて、中を探れ。魔石が入っているだろうから?』
「魔石?」
『赤い色の宝石だ。金と交換できるし、金の代わりに使うこともできる。マナグッズを持っていれば魔術を使うエネルギーに使えるしな』
「魔術?なにそれ?」
『魔術は魔術だ。ああ、お前の居た世界では魔術が無かったのだっけ?』
「まあ、そういう概念はあったけど」
僕は魔法使いが魔法とか魔術を使って不思議な事をするイメージを思い浮かべた。
『そうそう。そんな感じだよ。お前が頭の中で思っているような事が出切るアイテムがこの世界にはある』
「なんだって!?」
なんですか?そのファンタジー設定は!?
『ゴーストやファントム相手にする時は、魔術の方が一番効率が良い。魔術が使えないなら炎の系統でなければ火炎放射器でも良いが……一番手っ取り早いのはフラグを放り投げるのが良いかな。倒せない可能性も高いけど』
「僕は一体、どんな世界に迷い込んだんだ?」
『ほら、さっさと魔石を探せ。暗くなる前にな』
「ああぁ~~。気持ち悪い。それにエンガチョだし~~」
ナイフでグールの胸を裂き、拾ってきた棒切れでぐちゃぐちゃと探る。するとナインティーンの言うとおり心臓付近に赤い小さな石が在った。
二本の棒切れでそれを摘みをれを拾い上げた。
「ううぅ~~。拾ったよ~~」
『情けない声を出すな!金玉ぁ付いてんだろう!!』
がしっと、ズボンの上から急所を鷲掴みにされる。
「おおおぉ~~!!」
『アタイの前で、情けない声出してるんじゃない!!他の舐められたらこの世界ではおしまいなんだ!!』
ツインテールのゴスロリ少女(小学生風)に股間を鷲掴みにされるなんて屈辱だ!!
『解ったら。イエス、マムと言え!!』
「い…イエス、マム……」
声を絞り出してそう答えると彼女は手を離し、残りのグールからも魔石を取り出すように指示された。
『おっ、このグール比較的綺麗なナリをしているな。衣服も原型を留めている。ほら、ポケットを探ってみろ。何か在るかもしれん』
「はい、はい」
確かにナインティーンが示したグールは比較的綺麗だった。
上着そして内ポケット、ズボンのボケット、そのた色々探ると僕は以下のものを見つけた。
腕時計、腕輪、指輪、財布、そして数発のライフル弾を見つけた。
なんだか気分が重い。要は死体から装飾品を奪っているようなものなのだ。
『おおう!!なかなかの戦果になったな。丁度良い。その腕輪は、マナグッズだぜ』
「マナグッズ……たしか魔術が使えるって言う?」
『うん。まあ、グールに成り果てるような奴のアイテムだから対した力は無いだろうけどな。取り合えず付けてみろ。付ければそれが何か解るはずだ』
「はぁ……何か嫌だなぁ」
そう言いつつも、魔術が使えるようになるという好奇心から俺はその腕輪を左手に付けた。
すると、不思議なことにそれが何に使えるのかイメージが頭に沸いた。
「解る……何この心霊現象!!」
『魔石もあることだし、少し使ってみろ。道具がどんな働きをするのか、良く知っておく必要が在る。それが銃でもナイフでもマナグッズでもな』
「うん」
僕は、目を瞑り、頭の中に浮かんだイメージに従った。左手を突き出し指を銃口のように向け虚空に狙いをつけるそして魔術を発動した。
「なにこれ?」
『魔術だ。炎の魔術だな』
指先から十センチほど離れた場所に小さな火の玉が揺れている。
それは蝋燭の炎程度の規模の小さな火の玉だ。
『モクに火を付けるための炎術系のマナグッズだな』
「僕の想像していたのと違うんだけど」
もっと、炎の矢がズババンと飛ぶ物だと思っていたのに……
『そういうマナグッズもあるぞ。それ位じゃないとゴーストやファントムとは戦えないからな。まあ人間はもともと魔術に関する適正が無いからな。エルフ等はまた別だが』
「エルフ?エルフが居るの?」
『正式名称は知らん。だが人間はエルフと呼んでいるな。それ以外にも色々な種族が居るぞ』
「頭が痛くなってきたよ。僕」
『ほら、財布の中も確認しろ?いくら入ってる』
「ええっと、これはもしかしてドル?」
財布の中には二十ドル紙幣?が2枚と十ドル紙幣が一枚、それに一万円札と千円札、それと幾つかの硬貨が入っていた。
『おおっ、諭吉じゃねえか!!まあドルの方がありがたいけどな』
何なんだこの世界は?
「なんでアメリカドルが?こっちは一万円だし……これが紙幣として流通してるの?」
『ああ、大きな都市では行政は機能しているからな。モンスターを隔離するための都市防壁の外じゃあ、治安なんて在って無きが如しだが』
財布の中には彼の家族と思われる写真があった。夫婦と男の子そして女の子の姿が写っている。
『財布ごと貰って、写真は返してやると良い。それ以外は死者には不必要な物だ。全部回収しろ』
「……解ったよ」
僕は、もう既に理解していた。本当にとんでもない世界に来てしまったという事を……
魔石:5
指輪:1
腕輪:1
US$:50.60
円:10K




