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14 混沌たるこの世界


「町の中の移動もバイクだと簡単だね」


『そうだな。多少荷物があっても移動できる利点は大きいだろう。車には敵わないが、単車には単車の利点がある。少しの物陰があれば隠せるし、当分は野営の身のアタイ達には都合が良い』


「燃料ってどれくらいもつのかな?」


『さあ?だが最初に確認したらまだ半分くらいは入っていただろ。燃費はリッター三十キロくらいじゃないか?八ℓ(リッター)タンクだから百キロはくらいは行けるだろう』


「じゃあ当分燃料は入れなくても良いかな?」


『いや、出来るだけタンクは満タンにして置いた方が良いだろう。酒場で食事をしてそれから雑貨を買った後に、燃料補給だ』


「解った」


 そうこうしている間にも、酒場に到着した。いつものようにバイクを駐車して、お店の中に入る。

 

 カラン、カランと鐘を鳴らしながらドアを開け、僕はカウンターに座った。


「おっ、昨日のガキじゃねえか。お前、レイラの所にもう顔を見せてたらしいな。風貌を伝えたら知ってるって言ってたぜ」


 カウンターの男性。おそらくは此処のマスターだろう。彼は僕の姿を視線に捉えると話しかけてきた。


「僕って目立つんですか?」


「まあな。変わった格好なのは間違いねぇよ。黒いスーツの上にタクティカルジャケット着て歩いてるガキなんてお前以外に見た事無いぜ」


 スーツじゃなくて学ランなんだけど。まあこのタクティカルジャケットくび元まで隠れるから、スーツか学ランかの区別は付かないかも知れないけどさ。


「それで?今日は何か注文して行くんだろうな?行っとくが仕事はまだ斡旋するつもりは無いぜ」


「じゃあ、食事を……メニューはこのランチメニューで良いや。飲み物は水で」


 ランチメニューは鳥の香草焼きとライス、それにオニオンスープだった。料金は八ドルだ。


「水だって?此処は酒場でカウンターに座って頼むのが水かよ?」


「ならトマトジュース。ブラッディーマリー用のがあるだろう?それともアタ……俺みたいなガキに無理やり酒を飲ませたいのか?それともそう言う嫌な趣味でもあるのかよ?」


 ナインティーンがマスターを睨み付けながら言った。


「仕方ねえな。ランチ一丁入ったぞ!!後はトマトジュースか二ドルで出してやるけどそれで良いか?」


「ええ」


「待ってな」


 マスターは直ぐにトマトジュースをグラスについで僕の前にコツンと置いた。


「注文したから、何か聞いても良いよね?」


「何か?一体何を聞くって言うんだ?」


「モンスターをハンティングするのに良い場所は無いかと思ってね」


 僕は、田中銃砲店の正造さんから聞いた話をマスターにしてそれに追加の情報が無いか確かめようとした。


「俺はこの口で、お前に魔石を納品しろって言ったけどよ。そのライフルじゃ狩れるのは鼠か兎程度だぜ?昨日はそいつを装備してなかったから、どうせ持ち金の中で買える一番安い奴を選んだんだろうけどよ~~」


 「全くやれやれだぜ」とでも言うかのように、マスターは首をすぼめて肩を持ち上げた。


 それだけじゃなく、マスターとの話が聞こえたのか近くに座っていたショットガンを担いだリザードマンとその一行も僕を見て笑いながらこんな事を言った。


「見ろよ。.22LRみたいな豆鉄砲でハンター気取りとは笑っちまう。しかも注文したのはトマトジュースだぜ!ギャハハハハッ!」


『おい、ユキ。これも勉強だぜ。あいつらに気の利いた言葉で返してやれよ。舐められっぱなしは生に合わねぇ!』


(解ったよナインティーン)


「蜥蜴さん達は知らないらしいね。.22LRは軍用ライフル弾を除けば一番人間を殺ってる弾だ。だからこの銃は人間の頭を狙うためさ。モンスターを狩るのに使うのは腰の得物に決まってるだろ?」 


「がきんちょが、言うじゃねえか?」


 リザードマンの一人が睨み付けてくる。


「今週はもう7人も人を殺した。その中にお仲間入りしたいのなら、どうぞご自由に?」


 七人と言ったのは、もともと人間だったグールを無理やり勘定にいれたのだった。


 それまで半身をリザードマン達に向けていた僕は彼らに改めて正面向かいになって、腰のホルダーに手をやりながら、F1手榴弾を掴んだ。


「っ!?」


 彼らは、僕の胸にある手榴弾と腰のM1911を見て少しだけ驚いたようだった。


「そこまでだ!俺の店で騒ぐのは止めろ。……キンバー、お前が悪いぜ。笑いすぎだ」


「ちっ、初めにからかったのはマスターだろうが。冗談だ、これくらいでマジに成んなよ坊主。啖呵はまあ良かったけど、手が震えてるぜ?」


 キンバーと言われた僕をからかったリザードマンは此方を向いていた首を彼のテーブルの食事に戻した。仲間のリザードマンが彼を肘でつつき、残りの一人が俺に軽く手を上げて挨拶した。


 リザードマンの彼が言う通り、僕の手は震えていた。凄く恐かったのだ。


『アタイも良い啖呵だと思ったぜ。アタイが教えた事を活用していて気に入った。手の振るえを込みでも及第点を挙げて良い。後は慣れさ』


(恐かった。それも凄く)


 正直言って、涙も出そうだったのだ。


「ほらよ、ランチ一人前だ。お前が聞きたいのはモンスターだったな。東十二区の近くには大昔、あっちの世界へのゲートが在ったって話だからな。その所為で手付かずの場所が多い。遺跡もあるって話だしな」


「ゲート?遺跡?」


 何の事だろう?全く解らない。


『後で教えてやるから、今は流せ。ゲートと遺跡ぐらい誰でも知ってる。変に思われるぞ』


「馬鹿にしているわけじゃ無ぇがその装備じゃ難しいと思うぜ。オーガなんかに出くわしたら、アサルトライフルか後ろの奴らみたいにショットガンでも無きゃ、どうしようもない」


「…………」  


「モンスターはどれもこれも分厚い皮膚を持ってるからな。格下のオークでもそのライフル銃じゃ無理だな。あいつら銃器は使いこなさないが、鈍器や剣は使いやがる。その突進力は俺達人間種族の比じゃ無ぇ」


「そうですか。忠告ありがとうございます」


「良いってことさ。今はお前が一応客だからな。後はこの辺で最近サンドスネークが出てるって話は聞いたな。特に南の方は結構荒地になってるだろう?俺の親父が子供の頃にゲートが開いて、ドンパチやったせいでコンクリートの瓦礫と砂の荒野だ。あの辺りにからやって来てるのかもな」


 またゲートとか言う単語が出てきた。なんなだろう?


 マスターとの話の後に、ランチを食べながらナインティーンは僕にマスターが言っていた【ゲート】と【遺跡】について教えてくれた。


 彼女の話では、大昔。

千年以上前にこの地球に異世界からの門、つまり【ゲート】が多数開いたそうだ。その門からエルフや様々な獣人などの亜人。そして悪魔がやって来たと言う。


 人間種族は生存圏を守るため彼らと戦った結果、最終的にエルフや獣人とは和解する事が出来たと言う。このため現在はこうして様々な種族の人達が暮らしているらしい。だけど悪魔や魔族と言われるの種族とは和解が成立しておらず、その一部がモンスターとして徘徊しているということだった。


 ゲートは今もその多くが開いているが、当事よりはずっと小さくなっているらしい。信じられない事に日本ではその昔、天照大御神や宇迦之御魂神、それだけでなく妖怪や魑魅魍魎の類がゲートの向こうの悪魔と戦って来たという。


 まあ伝説らしいけど。


 【遺跡】と言うのは和解する前の亜人達の暮らしていた町や城だそうだ。今は無人の廃墟だ。これらの近くには今だ小さくなったがゲートが存在すると言われ、モンスターも多い。


 この世界は完全な無秩序だと思っていたけれど。そうではなく、時の政府はゲートが現れてから、治安維持の範囲を都市部に限定してそれに対応したため、それ以外では自分の身は自分で守るというのが当たり前になっているようだ。


 そして、それ以外の点ではこの世界と僕が居た世界はあまり違いが無いらしい。まあ、その違いがそもそも大きいのだけれど。

驚くべき話の中で一番驚いたのは、僕の世界と同じように、この日本とアメリカは太平洋戦争を経験し、日本は負けたという事だろう。ただし違うのは原子爆弾が投下されていないという点だ。それどころかこの世界には核兵器が無い。


 荒廃しているのか、そうじゃないのか良く解らない世界だと僕は思った。



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