おまけ 指先の言葉
高瀬視点です。甘いです。
「……なんか、おかしくないこの状況?」
どこか上擦った声が耳に届く。落ち着き無く身じろぎをする細い身体を腰にまわした腕で引き寄せれば、俺よりも高い体温が伝わってくる。頭を預けた首もとからは飼い猫が動くたび柔らかな毛並みが頬を撫でた。
飼い猫を引き上げた膝上から、隙間なく触れ合う肌から緩やかに伝わる体温に、ふ、と安堵の息を吐く。ぎこちなくまわされた細い腕が仕事で強張っていた身体を宥めるように撫で、俺の頭を抱え込むように包む腕は髪を梳いては流しを繰り返す。規則正しいそのリズムが消し去っていた眠欲を呼び起こし、奇妙な倦怠感が体を支配した。
「休めと言ったのは貴様だろう。責任を持って大人しくしていろ」
呟いた声は眠気に掠れ、驚いたのか飼い猫が不自然に動きを止めた。構わず額を擦りつけると柔らかな笑いの吐息が髪をくすぐる。
休みを取ったのは何日前のことだったか覚えていない。それほどまでも仕事に没頭していた俺に、少しでいいから休めと言ったのは飼い猫だ。
一度休息を取ると、それまでの集中力や仕事の流れが否応なしに滞る。スムーズに仕事を処理するためには休息など取らない方が効率が良い。
だが他でもない飼い猫の小さな願いを聞いてやるくらいの甲斐性は持っているつもりだ。目を閉じているだけでいい、という妥協案が出されたのでそれを実践してやっているのだから、提案した飼い猫を付き合わせるのは当然だろう。
飼い猫の温かさには、どうにも安堵させられる。アニマルセラピーのようなものだろう、口にすればきゃんきゃん子犬のように吠えたてるだろうから敢えて黙っているが。
それでも、悪い気はしない。甘やかすように髪を梳く指も、時折額に触れる柔らかな唇も、俺を少しでも癒そうと言葉よりも雄弁に語りかける。
「――おやすみ」
優しく紡がれた言葉に口元を引き上げて、俺は暫しの睡眠を取ることに決めた。
高瀬はいつでも姫に癒されているといいな。
***
さて、ここでなろう様版「たまゆら」はおしまいです。
諸事情あって続編は全てサイトのみで公開しています。
のんびりゆっくり更新していますので、気になる方がいらっしゃいましたら面倒ですがサイトの方へお越し下さいませ。
では「たまゆら」最後までお付き合いくださってありがとうございました!
またお会いできるのを楽しみにしています。