第71節 街道の探索と戦闘 その3
今回は戦闘はありません。事後処理と伏線を仕込みました。
エーデルヴァイスの丘で食べたお弁当は美味しかった。カールさん達は、死んでいたけど、生き返ったから、不吉な丘じゃないよね・・・
さて、進むか戻るか考えなければならない。フィリップさんはまだ精神的にダメージを受けていて、決定は慎重にしたいと言っている。
とりあえず、少し先の戦闘があったところに行ってみることになった。僕らは、エーデルヴァイスの丘の、花が咲き乱れる野の、真ん中を走る道を進んでいった。
「この辺りでしたね」カールさんが言った。
「たしかに」フィリップさんが答えた。
「これだ。魔道士の死体だ。死体とは言えないと思うが、他に適切な言葉がないからな」
地面を見ると、黒い厚手のローブが落ちている。フィリップさんの話によると、かき消すように中身がなくなり、ローブは真下に落ちたらしい。死体というよりは抜け殻じゃないかと僕は思った。
黒尽くめの剣士も同様に真下に崩れるように消えたらしい。彼らは皆、フードを深く被って、顔がうかがい知れなかったと聞いた。ただ、目だけがギラギラと赤く見えていたらしい。
そして一定のダメージを受けると溶けるように消えてしまう。ローブ以外は身につけていないのか?肉体はどこに行ったのだろう。
「迷宮で倒した死霊術師と同じ感じだったな」傭兵達はカールの言葉に頷いた。
「神聖騎士団の具足を操っていた魔物か?」
「そうです。フィリップ様もご存知でしたか」
「オットー卿から聞いたよ。こいつらも肉体があるような反応なのだ。刺したら手ごたえもあった。しかし、いきなり肉体がなくなるのだ。この世のものではないのだろう・・・気味が悪い。宮宰様も、悪魔の眷属か、もしくは悪魔が創りだしたものかもしれないと仰っていた」
「あ、剣見っけ!」クラウディアさんが少し離れたところで叫んだ。黒い剣士が落としたと思われる、長剣を拾おうとしている。
「触らないで、危険よ」アポロニアさんが警告した。
「あっ、そうか。そうよね。ごめん」
「ううん、いいのよ。呪いの剣かもしれないし、場合によっては、剣士の本体が、実は剣だったりすることもあるらしいから、用心するに越したことはないわ」
この間の、ザクセンの戦士さんの一件があって以来、皆、警戒するようになってきた。
「ありがとう。どうしたらいい?」クラウディアさんが、不安な顔をしている。
「待って、使徒様、背中の箱を下ろしてくださいな」
僕はリュックのように背中にくつけている箱を下ろした。観音開きのチェストといったほうがいいだろう。予備の武器や矢、ジャベリン、盾、ヘルム、斧、なんでも入っている。この箱は立てて使うとのことだ。いや、実はこれは物置をそのまま背負ってきたんだよ。傭兵寮の裏庭に置いてあった、空飛ぶザクセン人の専用物置だったのだが、これを持って行こうってカールさんに言われた時は正直ビビった。フィリップさんの手前物置を持ってきたとは言えないものね。恰好悪いから。
アポロニアさんは、物置の中から、細長い箱をだしてきた。鍵付きの厳重な箱だ。あれ、これは、ダミアーノ神父様が使っていたのと似ている。
アポロニアさんは、その箱を地面において、蓋を開けると、中から大きなペンチをだしてきた。鍛冶屋さんが赤熱した鋼を掴むようなペンチだ。なるほど、そのペンチで剣を掴むのか。果たしてアポロニアさんは、僕が想像していた動作で、剣を箱にそっと入れた。
「クラウディア、他にも落ちていると思うから、探そうよ」
「はい、はい。任せて~」
二人は年が近いのもあって、仲がいい。二人は、残り三本を見つけて同じように箱にしまった。それから、重くなった箱を二人掛かりで、ウンショ、ウンショと、変な掛け声で運んで、物置にしまった。
「はい、お待たせ。使徒様、お願いします」
「はい、浮遊」僕はまた実は物置の箱を背負った。背負ったっていうけど、実際には荒縄を物置につけて、それを両肩に通しているだけだ。
クラウディアさんが、ニコニコしている。そうか、さっきの剣、溶かして矢じりにしようとしているのか。さっきまで周囲を観察する余裕がなかったけど、やっと、落ち着いて見回すことができるように精神的に落ち着いてきた。あ、ゴブリンの剣というか、刃の欠けた包丁みたいのがあちこち落ちているけど、皆見向きもしない。アレクシスさんに訊いたら、ゴブリンの金属は質が悪くて、すぐ錆びるし、欠けるし、とても使えないらしい。まぁゴブリンの死体も沢山あるのだけど、視界に入れないようにしておいた・・・緑色なので、意外とお花と色があるように思う。40匹ぐらいいたらしいけど、あっけなかったね。可哀想だけど。まぁ離れてみてた時はゴブリン優勢だったらしいよ。でも、どんどんまとめて倒れていったらしい。多分、毒霧使ってたのかもね。
ここはかなり広い丘だ。さっきまで街道として通ってきた道が急に開けて、広場のようなところに出たわけだけど、北側は、崖になっているようだ。ずっと白と黄色のエーデルヴァイスが絨毯のように続いている。その中央を真っすぐ西のほうへ道が延びている。
僕らはすこし先まで歩いてみることにした。10分も歩くと丘は終わり、急に山が迫ってきた。丘の先の崖もなくなり、南北を山に挟まれるように、細い道になってきた。
細い道は、そのまま谷間の底のようなところを進み、その北側に連なる山の一つに、城があるのが見えてきた。塩砦に大きさ的には近いようだ。四つの丸い塔を持っている。そしてその4つの塔の間に城壁がある。城壁の上部はよくある、凸凹の形だ。
ぱっと見、どこから上っていくのか分からないようにできている。しかし、関所を設けて、通行料を取っていたというから、この街道から上れないということはないだろう。しばらく歩いていくと、何回かのアップダウンを繰り返し、道は少しずつ高くなってきた。谷底のようなところに道があるので、左右は完全に山になっている。横道もない。
一番高くなってきた峠と思われるところに、壊れた門があった。
門の構え自体は石造りなので残っていた。しかし、木造だったと思われる門は跡形も無くなっている。門の横には屯所だったところがあった。ここの扉も壊されて無くなっている。中には、机や椅子が倒れて散らばっていた。羊皮紙のような書付も落ちていたが、劣化が酷く、読めなくなっているようだ。
「さて、とりあえず、今日の目標は達成できたので、帰還することにしよう。無理は禁物だからな・・・」みんなフィリップさんの言葉に深く頷いていた。今日は色々と身に染みたはずだ。
本当は、山城への入り口を探す予定だったらしい。想定外の出来事ばかりだったからね。仕方ない。
もともと、公爵家の領土なら、わかるのだろうけど、ここの元領主の一族は悪魔軍の大攻勢の時に滅んでいた。仕方なく諦めた。いざとなったら、フィリップさんは、城壁を登るっていってる。
僕たちは、峠から元来た道を戻っていった。エーデルヴァイスの丘までは何もなかった。
僕が魔法で滅茶苦茶にしてしまったところに来ると、皆がひえーって言っていた。
「怖ろしい。使徒様はどんな魔法を使ったのか?」カールさんが訊いた。
「そうそう、私も訊きたかったのだが、さっきは余裕がなかったからな。教えてくれ、使徒殿」
えっと、あれ、魔法書がない・・・あ、持っているわけないよ。あれは、部屋に置いてきたんだもん。皆魔法魔法っているけど、あの本は博物誌なんだよね。しかし、あの時の、あの本はどこから来たのだろう? というかどこへやっちゃったんだ?
あ、皆、僕の答えを待っているみたい。急がなきゃ。
「あ、あの、ミティオリットゥンシュヴァルムっていうんですけど・・・」
皆、聴きなれない言葉のせいか、ぼーっと考えている。カールさんは、言葉の意味を確認するような感じで呟いた。
「ミテオリットゥンって、なに?」周りの人がガクってなった。
「彗星とか隕石とかでしょう?それがシュヴァルムだから、結構な数の大きな石がおちてきたのね・・・」
流石アポロニアさんだ。空飛ぶザクセン人の知性であり、頭脳だね。カールさんは筋肉だな・・・体でいえば、太ももだよ。
「私が確認できただけで、9個は飛んできていたぞ。しかも赤く燃えていた。しかも着地したら爆発してたしな・・・」そうだ。フィリップさんは目撃者だった。
「でも意外だったのは、すぐに爆発がおさまったところだな・・・ソドムとかに落ちたやつに比べると小規模なのだろう」フィリップさん、聖書の話まで出してきたよ・・・しかも見てきたみたいな言い方だ。ソドムもゴモラも神の怒りで滅ぼされたって聖書にあるよね。
「さすが使徒様ね。聖ミカエル様を呼んだり、彗星を呼んだり」
クラウディアさんが感心しているけど、僕だって納得しているわけでないし、そう簡単に呼べたわけではないんです。きっと目はまだ赤いと思う。アーデルハイトなら、今日一日はウサギさんって呼ばれるに違いない。帰ったら会わないようにしようっと。
フィリップさんが、困った顔をしている。どうしたのだろう。
「こんなにガタガタだと、馬車では通れないよな・・・あ、いや、使徒殿を責めているわけではないのだよ・・・でも、しばらくは砦からマエストロ達と毎日通ってもらって、土木工事してもらわないとだな」
「修理するんですか?」クリスタが訊いた。
「仕方あるまい。レオポルド様と話してみる・・・」
なんだか落ち込んじゃったよ・・・僕のせいで・・・工事費かかるよね・・・うわ、お金請求されても払えないよ・・・
「ま、いこう。気を付けて歩いてくれ」
「すみません」
「いや、いいんだよ、なにしろ命の恩人なんだから」
しかし、あちこち穴だらけで歩きにくかった。僕のせいだけどね・・・
すぐに塩街道の手間の橋についた。魔法の衝撃で壊れてなくてよかったよ。塩街道に戻って、砦に向かって歩いていると、馬にのった騎士を先頭に、長い槍を持った兵士たちが十数人やってきた。
オットー様だ。オットー様は僕たちを見つけると、兵士達に待機を命じ、こちらに走ってきて、馬から下りた。カッコイイ!
「フィリップ殿、もう数時間前だが、すごい振動があって、北の空に煙が上がったようでした。心配になって探しにきたのです。ご無事でよかった。皆も無事でよかった」
「オットー卿、ありがとう。心配ご無用ですぞ。あの爆発の衝撃は、砦まで届きましたか。凄かったでしょう」
「山のような大きな巨人が、尻もちでもついたのかと思いました。いや?ご無用とは?それに爆発とは?一体どういう意味ですか?・・・そうか、なにかご存知なんですね?」
「いかにも。ふふふ、使徒殿から、ご説明申し上げますか?」フィリップさんは僕に話を振ってきた。
こまったな。僕は口ごもってしまった。オットー様は僕をジロリとみると、フィリップさんに向き直って口を開いた。
「いや、フィリップ殿からご説明いただきたい。お願いします」とニヤっと笑った。
「まぁ、説明するのはやぶさかでないが、戻りながら話ししますか?」
「なるほど、わかりました。帰り道でお聞きしましょう」
オットー様は、兵士たちに砦に戻るよう命じ、従者に馬を預け、フィリップさんと並んで歩きはじめた。今回の遠征で起きた二つの大きな事件を説明している。オットー様の顔から次々と驚きの表情が浮かんでは消えている。
帰り道は下りだったこともあり、歩きのわりに早く着いた。解散前に、オットー様に、荷物を片付けたら、執務室にくるように言われた。僕はクリスタを送りつつ、背中の大荷物を、傭兵独身寮の裏庭の所定位置に置いた。さてと、あ、アポロニアさん達だ。剣を取りにきたのかな。
「使徒様、今日はお疲れ様でした。これから例の箱を持って、ブルーノ神父様のところにいくんだけど、一緒にいかない?私達もオットー様に呼ばれてるし。お話しが終わったらみんなでご飯食べようよ・・・あ、そうそうクリスタも誘わないとね」
なんか気が進まなかったんだけど、ご飯と聞いて元気とヤル気がでたよ。
いかがでしたでしょうか。
前回と、前々回が、派手すぎたので、今回は大人しいです。
次話は、執務室での会議と、道路普請です。おじいちゃん来る予定ですよ。




