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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第58節 森の中の修道院

いよいよ、黒い森の森林地帯に足を踏み入れます。





僕らは、カールさんが率いる戦闘馬車を見送った。

しばらくして、決意のこもった声で、オットー様が言った。


「さて、では我らも参ろうか」


オットー様を先頭に、ブルーノ神父様、僕、レオン様の順に進むことにした。


どこかで鳥が鳴いている。とてもだが、魔物が跋扈するデーモンの支配地とは思えないな。天気も良くなってきて、日差しが暖かい。


まずは、大曲がりのところ、荷車が乗り上げた低木のところから、森の中に入っていった。このあたりは黒い森とよばれる地域だそうだ。針葉樹ばかりだが、森というより林に近いなと僕は思った。


オットー様は、ひしゃげてしまった低木を跨ぎ、地面を見ながら足跡を追いかけていく。そしてブルーノ神父様は、すこし横にずれて前方を警戒する。レオン様が後方を確認しつつ、左右を警戒。僕は、ただ歩いているだけだ。なんか浮いてない?せめて短剣とか弓矢とか持ちたかったよ。こんど砦の何でも屋で調達しようっと。


オットー様が前を向いたまま、小声で皆に話す。


「荷車は全長2メートル以上あった。確かに8人なら担げるだろう。解せないのは、最初から奴隷が8人居たのか、それとも、予め担げる様に人数を揃えて、取りに来たのかだ?」


「気にする必要があるのか?」ブルーノ神父様が尋ねた。


「いや、斥候が発見して、本隊に戻って人を揃えて来たのなら、彼らの拠点は近いのではないかと思うのです。足枷や鎖の跡から考えるに、8人は、当然、奴隷でしょう。遊撃隊や小さな旅団なら、そんなに奴隷を連れているはずがない。荷車を持ち帰るとするなら、やはり彼らの拠点は近いと言えるのではないかと思うのです」


ブルーノ神父様は、少し考えてから言った。

「卿の言いたいことはわかる。馬車道を押していくのなら、荷車の利用価値があるだろうが

彼らは山の中を、しかも斜面を歩いている。荷車を持ち去ってどうするのだろう。そもそも無理がある。まぁ、拠点陣地内の平場で使うなら論理的だから、卿の推論の通りだろう」


 僕は思った。ゲルマン人って理屈っぽいよね。何も考えてなさそうなレオン様だって、かなり論理的だもん。


「お、ここで転んだか?」


足跡が激しく乱れ、土がえぐれているところがある。この辺りは人による木の間引きがあるので、荷車を担いだ人の誰かが、切り株に躓いたようだった。間引きは、材木の確保もあるが、街道を通る際の安全確保もある。見通しが取れないと襲撃に備えられないからだ。


「おい、左下に何かあるぞ。下の斜面だ。車輪のようだな・・・」レオン様が後ろから小声で皆に言った。

山の中腹で比較的平らな所を歩いているのだが、左右は斜面だ。その左斜面、下方に何かあるようだ。僕にはよく見えない。


「ちょっと待てくれ。これの地面のえぐれは、ははん、荷車を落とした感じだ」オットー様は納得したように言い、また一言付け加えた。

「皆はここに居てくれ。私が見に行くから援護を頼む」


レオン様は右上をしきりに気にしている。ポールアームのような斧を構えている。あとで教えてもらったが、左下の落下物が囮であった場合、上からの襲撃がよくあるケースだそうで、この場合、レオン様の行動が理に適っているらしい。

ブルーノ神父様は、もっと下の方や、オットー様の左右を警戒しているようだ。背中に回していた盾を構えている。司祭が盾を持っているなんて、初めてみたよ。でも、そうだわ。ブルーノ様は、従軍神父様で、教区に属さない。公爵軍に属しているのだった。


オットー様は、手斧を片手に、盾を構えて、斜面下に降りていった。そして、すぐに、左右の警戒を怠らずに、戻ってきた。


「車輪が捨てられてあった。斧で壊されている。もう荷車としては使えないな」


「奴ら一体どうしたいんだ?」レオン様が不思議そうに答えた。

ブルーノ神父様が、眉を顰めて、「車輪は全てあったのか?」と聞く。

「上から放り投げた様に点在していますが、四つありました。想像ですが、奴隷が荷物を落としたので頭にきたオーガが、荷車の重さを軽くする為に壊し取ったのかという感じがします」


「ふん、オーガは、気が短いらしいからな」レオン様が鼻で笑った。


「レオン卿も大概気が短いぞ、お主も人間の皮を被ったオーガではないのか?」

「神父様も口が悪うございますぞ。そのようなことは、ワシの縁談に差し支えます」

「おいおい、お主の口から縁談だなんて、ワシは耳を疑ったぞ」

「神父様も、先祖はドワーフでしょう?人のことはいえませんぞ」

「わはははは」二人で笑っている。


二人のやり取りに、オットー様は、笑った。しかし釘をさすのを忘れない。

「さて、その続きは、無事に帰ってから、エールを飲みながらにしませんか」


注意された二人はお互いに見つめ合って肩をすくめた。いいコンビだね。


僕らは、また元の陣形に戻り、先に進んだ。


「あ、オットー、オーガはどんな壊し方をしていたのか?」

「車輪を留めている楔を、車軸ごと斧で叩き落としています。車輪から車軸が飛び出していますよね。あの先端を車輪の中心の輪ごと破壊したようです。だから、回収しても直すのは大変でしょうね。車輪屋もお手上げな感じでした。もしも回収するなら、別に部隊と共にという感じです。車軸は見つからなかったので、まだ荷車についているかもしれませんね」


なんか回収しない感じだな・・・僕は荷車に対して責任を感じていた。もしも回収するなら、浮遊でお手伝いしたいと思っていたのだが。車輪か・・・僕は、城塞都市の門の前で、車輪刑に処されていたあの男のことを思い出して、ぞっとした。そういえば、何で車輪に磔なんだろう・・・不思議だね。

 そういえば、車輪屋という職人がいるのか。せっかく作った車輪が、死刑の道具なんて、僕だったら辛いな・・・


ブルーノ神父様が、オットー様に話しかけた。

「これは、元は道だな。ずっと斜面なのに、ここだけずっと平たくなって進んでいる。これは、もしかして・・・」

「神父様は、何か思い当ることがおありですか?」オットーが尋ねる。

「大攻勢前の話なのだが、この森の中には、修道院があったはずなのだ・・・修道士達が森を切り開いて・・・祈れ、そして働け、というやつだよ。3か所ぐらいはあったと聞いておる」

「もしかして、この道が・・・」

「そうなのだ。修道院に繋がっているかもしれぬ・・・まぁ、想像だが・・・」


しばらくは、全員の足音だけが聞こえていた。時々、鳥の鳴き声が聞こえる。森は段々深くなってきた。下草は殆どないので狼なら楽々駆け抜けることができる。


オットー様が、魔物や野生動物の急襲に気を付けようと小声でいった。狼でも魔物でも、一番狙われるのは小さいとか弱そうな個体だそうだ。


え?・・・狼のターゲットって僕だよ。レオン様が後ろから呟く・・・狼は最初から首を狙うぞ・・・


首筋が急に寒くなってきたよ。怖いよ・・・


「おい、レオン、少年を脅かすな・・・聖波動が強くなってきて堪らぬ」

オットー様は聖剣を押さえている。細かく振動しているようだ。


「それで聖剣を使わぬのか?」ブルーノ神父様が訊いた。

「いや、木立の間は長剣は使いにくいですから」

「ワシなら、木ごと打ち倒すぞ」レオン様が胸をはって自慢してるけど、やりそうだ・・・


段々と道は下っていき、しばらく平らになって、歩くのも楽になってきたところで森が急に開けた。

その先には川があるのが見える。この川って、鉱山と鉱山街の間に流れている谷川だったりして。するとだよ・・・トイレもその上にあったから・・・水飲めないよな・・・


川には石とコンクリートの美しいアーチ橋がかかっていた。ブルーノ神父様が、やはり道だったかと感慨深げに呟いた。ローマ風ではあるが、もっと新しく、ゲルマン人が作ったものだろうとのことだ。やはり修道士達が開拓したところなのだろう。


オットー様が森からは出ないで、開けた土地の手間で止まっている。そして振り返り、皆に聞いた。


「待ち伏せがあると思うか?・・・落とし穴はどうだろう?そして、飛び道具がくるだろうか?他にどんな可能性があるだろう?」


そ、そんなに多くのこと僕は処理できません。一度には無理です・・・


でも、僕以外の皆はうんうんとうなずいている。


レオン様がニヤニヤしながら、僕を横目で見て言った。


「ワシは、落とし穴があるのではないかと思う。迂闊に落ちると、串刺しになって、全身から血を流して死んでしまうのだ・・・」オットー様があきれ顔だ・・・


 結局、僕のことを驚かしたいのね。もう、いじめっ子だよ・・・

そう思っていたら、急に真顔になって話を続けた。

「落とし穴が沢山あるなら、散開もうまくないだろう。橋がそのまま残っているということは、奴らも使うから残しているのではないか?」レオン様も意外とまともな答えを言った。


「となると、意外と正攻法で真ん中をいくか?」オットー様が提案した。


「クラウディアがいてくれたらよかったな・・・」レオン様がボソッといった。

「確かにな、こんな時に役にたつな、あの弓の腕は・・・」オットー様も同意した。


僕たちは、時間差で前進した。


落とし穴もなく、矢も飛んでくることもなく、本当に何もなく橋のたもとに着いた。


橋も全く問題なくわたることができた。


肩透かしだったが、レオン様が、橋を渡りきった直後に、橋が落ちて逃げ場がなくなり、大軍勢に攻められて全滅というのはよくあると脅すが、何事もなく続く道を歩いていった。


また森が始まり、森の中の道を僕らは歩いていく。ここは、本当にデーモンの支配地なのだろうかと疑うほどなにも起こらない。森の中は、切り株がいくつかあり、明らかに最近切られたものもある。1000年前は、かつて鬱蒼としたガリアの森の一部だったこの一帯も、修道士たちが切り開いていった過去がある。あきらかに大攻勢以降の切り株がある。また、あちこちに開墾の跡が見受けられると皆言っていた。僕には全くわからなかったけどね。


しばらく行くと開けた場所にでた。畑だ。明らかに畑だ。



ブルーノ神父様が、珍しくきょろきょろして言った。


大麦だな。あっちは小麦だろう。絶対、人の手が入っているよな・・・もしかしてゴブリンが農作をしているのか?といって笑っていた。


緑の野原を、道は高くなったり、低くなったり、曲がったりしながら続いていく。左右に切れることのない畑をみながら、少し行くと、塀に囲まれた建物が見えてきた。


石の塀に囲まれた、石造りの建物だった。ブルーノ神父様が、修道院だった建物だろうと言った。門まで近寄ってみる。文字が刻まれた石があったが壊されていた。


二つの小さな塔を持つ建物に入ってみる。ブルーノ神父様が教会だった筈だと呟く。木でできて扉は壊されて外に転がって朽ちていた。


「さて、悪者君、これから辛いものを見ることになるかもしれないが、慣れるしかないぞ・・・」

ブルーノ神父様は、からかうとかではなく、真剣に僕に言った。

「大攻勢の時だが、デーモンが執拗に狙って殺しまくったのが、聖職者であり、教会施設だったのだよ・・・」


 僕は覚悟を決めた。逃げないようにしないとだめだよね・・・


お読み頂きまして、ありがとうございます。

いかがでしたか?


次話は、いよいよ、修道院跡に先入します。

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