第27節 はじめての・・・野宿?牢屋?
アーデルハイドはどこかに連れていかれました。
今は第2門の横にある面会室で、知らない兵士さんとベルタさんが戻ってくるのを待つ少年でした。
休憩中の兵士は、武器の手入れをしている。
兵士の武器の名前を少年はよく知らない。槍のように先端の金属部分がとんがっていて、その少し下に斧のような外にいくにしたがって広がるような刃物がついている、その反対側には敵をひっかけるのに使うような長めのフックがついているが、途中で折れている。長い棒の一番下には石突がついている。少年の視線に気づいた兵士は、話しかけてくれた。
「なんだ、坊主、興味があるようだな。これなんていうか知ってるか?」
「存じません」
すこし兵士は驚き、
「坊主、貴族様なのか・・・そんな話し方はここいらのちびっこはしないぞ・・・これは対応を気を付けないとな・・・」
兵士は気を取り直し、言った。
「これは、ハルバードといいますです・・・」
「教えていただいてありがとう存じます」
兵士はますます困った。どう話を続けていいものか・・・兵士は最近兵士に成れたばかりだった。守備隊の人数が欠けるのは、死んだときと、都市をとり、激務に耐えられないと判断された場合だ。
大抵、守備隊の隊長の人事異動に合わせて1年に一回ほど見直しがある。何人かの事務職が引退し、城塞都市に隠居した。家族がいて子供が兵士になっている場合は、砦に引き続き住むが、身寄りがない場合は城塞都市で死ぬまで過ごすことができる。少ないが恩給もでるそうだ。食事は城塞都市で兵隊に出されるものを一緒に食堂で食べる。
兵士たちは、死ななければ、一応、楽ではないが生きることができるということに救いを感じている。兵士になってよかったということがないと、やはり、軍は成り立っていかないらしい。
手柄をたてると金一封も出るらしいし・・・で、隠居した事務職が務めていた席に、もう年を取りすぎた兵士が就く。すると兵士に空席がでる。通例は兵士見習いがそのまま穴を埋めるが、戦闘で失われる兵士が多いと、穴があいたままになる。その時は、傭兵から選抜されるのだ。その選抜に勝ち残ったの自分だった。
傭兵の暮らしは、いい時と悪い時の差が激しい。装備は自腹だ。腕のいい鉱夫の一団につけるといいが、腕のよくない一団では、警護費が安い。場合によっては現物支給だ。
鉱山の中は、鉱山労働者の親方が加入するギルドで、掘削できるエリアが割り当てられている。いい抗道は、腕のいい組が優先的に割り当ててもらえる。産出量、組の人数、事故や死者が少ないことなどが考慮されているらしい。なにしろ、労働者も簡単には補充できない。公爵様の領地はすべて悪魔軍の支配下にあり、人が支配しているのは、城塞や砦だけだ。強固な柵をもたなかった村や町はすべて大攻勢の時に滅んだ。人だって増やしていかないと、次にくる大攻勢に生き残れないし、鉱山だって死活問題だ。事故を起こさないで労働力を消耗させないことが望まれている。
だから、いい組ほど、いい傭兵を雇う。もう、大抵の組は馴染みの傭兵を抱えてる。坑道へ魔物が紛れ込むのは少ないので、いい組の傭兵ほど実戦が少なくなりやすい。そうすると戦闘力が劣化するのだ。
したがって、いい傭兵ほど、護衛勤務とは別に、鉱山の更に地下にある、迷宮に討伐にでかける。そこで名をあげることができれば、いい傭兵隊に声をかけてもらえるし、名声のある傭兵がいる隊は、いい組に取り上げてもらえる。
そして、砦の守備隊に欠員ができれば、模擬戦で兵士になることができるのだ。
自分の来し方を思い出しているうちに、ベルタが戻ってきた。兵士は立ち上がって挨拶した。女刑吏のベルタは、兵士のように勝ち上がって刑吏になった強者らしい。彼女は、今夜は剣をさしている。長いエクセキューショナルソードだ。つまり処刑刀だ。夜に出歩くので、用心しているのだろう。
「お疲れ様です。ベルタさん」
「えっと、兵士の・・・」
「グラントラムです」
「すみません。失礼しました。少年を見て頂いてありがとうございました」
グラントラムは、刑吏の礼儀正しさが好きだった。同じ下の中継都市出身ということもある。しかし、グラントラムは、ベルタの実に恐ろしい一面も知っている。女刑吏は、ふつう処刑まではしない。しかし、ベルタは処刑が得意なのだ。重い剣を円弧を描いて素早く振りおろし、慣性の力ですぱっと首を切り落とす。角度が悪ければ、上手く切れないし、相手が苦しむことになる。高度な技術が必要だ。通例は斧を使うのだ。剣で切るなんて普通の剣士にはできない。
下の街で募集されていた傭兵隊に応募して、やっと鉱山街に来たころ、ベルタが砦にいることを知り、会えないか機会を狙っていたところ、第2門広場で行われた公開処刑でベルタの実力を見てしまったのだ。
迷宮の浅い層で、狩場争いをしていた二つの傭兵集団がいた。狩場を独占したい集団の男の一人が、さらに下の階から魔物をつって浅い層で討伐をしていた傭兵達にぶつけたのだ。ぶつけられた集団が全滅していれば、事故として片づけられただろうが、その男にはとっては不幸なことに、荷物持ちの体の小さな少年が、岩の割れ目に落ちて生き残り、悪事が露見してしまったのだ。
この街では最も忌み嫌われる犯罪を犯した男は、裁判で死刑となった。裁判が開かれなければ、もしくは死刑以外であったなら、街は暴動となり、男はリンチされただろう。それくらい嫌われる犯罪なのだが、同じことをしようとするものは絶えないらしい。その男は、重装歩兵装備の盾使いだったので、大柄で太くて短い筋肉でつつまれた首の持ち主だった。処刑の日、街中の憎しみの視線にさらされながらも、男は観念しきれないようで、暴れようと、剣を逃れようとしていた。
ベルタは、右手を男にむけて何かつぶやいた。その瞬間に男は硬直した。ベルタは魔法も使えたのだ。
ベルタが両手に剣をもった瞬間、剣が閃いた。一瞬で男の首が前に置いてある籠の中に転がっていったのだ。グラントラムは歯の根が合わなくなった。膝もがくがくしている。宿屋のねえさんの妹はとんでもねぇ・・・話しかけて、色々便宜をはかってもらおうなんて気がさらさらなくなった。兵士となった今も、下の街出身だなんて言わない。宿屋のねえさんに、うちの妹。砦で文官の仕事してるんだけど、バツイチで子持ちなのよ。旦那は死んじゃってるけど、まだ妹は若いのよ・・・よかったらもらってやってよ・・・と言われてたが、冗談じゃねぇ・・・どこが文官なもんか・・・速すぎて剣が見えなかったじゃねえか
「では、失礼します。少年をつれていきますね・・・遅くまでありがとうございました」
グラントラムは、硬直した、貼り付けたような微笑みで敬礼していた。
ここから少年視点です。
「グラントラムさん、なんか固まっていたわね・・・どうしたのかしら。ねぇ、なんかあったの?」
「いえ、なにもありません。僕に、磨いていた武器がハルバードって教えてくれました。」
「どうしたのかしらね・・・私のねえさんが、「グラントラムは同じ街出身で独身だから、あんたにぴったしかもよ」っていってたけど。まぁ私子持ちだから、最初から選択肢に入ってないわよね・・・」
僕は、なんとも言えなかった。これ独り言だから、答えないほうがいいよね。
「こっちにきて・・・」
ベルタさんは、暗くなった鉱山街の中心の通りをどんどん鉱山のほうへ進んでいく。中心の通りっていったって一本きりのようだけど・・・
ところどころに篝火があるけど、基本的には暗い通りだ。通りの左右には、宿屋や食堂が立ち並んでいる。もうほとんどの店が扉を閉じている。魔物が襲ってきても、石造りの建物に、鉄板で補強した扉なので、多分閉めておけば大丈夫なのだろう。ベルタさんはどんどん奥へ歩いていく。左右の建物がなくなった。暗闇の中で辛うじて左右が谷のようになっているのがわかった。これは橋みたいだ。橋の終わりが木の床の様だ。
橋が終わると、広場になっていた。正面に左右二つの篝火が見える。暗がりの向こうに暗く山のようなものがみえる。山の前に石造りの建物があるようだ。
「ここが鉱山口よ」
建物の正面には鉄格子の大きな門があり、閉じられているが、ベルタさんは左のほうへ歩いていって、小さな鉄格子の扉をあけた。
「こっちが入り口ね。反対側が出口だから気を付けてね。さあ、行きましょう。今夜のあなたの宿よ」
え・・・これって牢獄じゃないんですか?
いかがでしたか?
お腹は一杯だけど、心が寒くなってきた少年です。
鉄格子のドアの先には何があるのでしょうか。
今夜また投稿するつもりです。宜しくお願いします。




