第28節 自分の未来は・・・
鉱山口で一泊します。
次の日もソフトな尋問です。
ベルタさんが、鉄格子のドアを僕に閉めてと言った。
閉めておかないといざという時に魔物が通ってしまうから。このドアは外からしか開かないとのこと。出るときは反対側の右側のドアだそうだ。つまり、正面から見ると、真ん中に8メートル角ぐらいの大きな鉄格子があり、その左右に小さな鉄格子が並んでいる。外から見て、右側が出る。左側が入るだ。覚えてねって言ってくれた。優しいな、ベルタさん。
中は、篝火が四つ四隅に並べられていて明るかった。10メートル四方ぐらいの部屋だ。高い天井の部屋だ。入ってきた壁に相対する面にも、同じように大小3つの鉄格子が並んでいた。左右の壁に背中を向けるように兵士さんが二人立っている。
前後に並ぶ、大きな8メートル角ぐらいの鉄格子は、吊り鉄格子だそうだ。朝になると鎖滑車でガラガラと巻き取りながら吊り上げるらしい。反対側の壁にも同じ大きさの吊り鉄格子があった。部屋の真ん中に立っているとどっちの壁が鉱山なのか外なのかわからないですねって言ったら、ベルタさんは笑った。朝になると簡単にわかるって。そうか外は明るいもんね。
内側の大きな鉄格子は夜の間は下りたままだそうだ。
この吊り鉄格子について、ベルタさんから注意があった。この前後に格子は、閉めるときは重さで落ちてくるので、挟まれないようにとのことだ。魔物が溢れたときに急いで閉めないといけないからだ。今は静かで魔物なんて出そうにないけど。出るときは半端ないそうだ・・・
四角い部屋の奥の左右の角には、登る階段が見える。
ここでも注意があった。左側の階段は二階までしかいかない。右側の階段は三階にしか上がれないそうだ。左側の階段をベルタさんについていくと、上りきったところに宿屋の入り口にあったのと同じような木と鉄でできたドアがあった。ドアを開けると下の部屋とほぼ同じぐらいの部屋だった。ドアの前にはハルバードを持った兵士さんが立っている。ベルタさんは、兵士に目で合図して、ドアを開けてもらった。中に入ると、松明が四つ、壁に取り付けられていだ。中には誰もいなかった。
「ここが男子のお部屋ね。宿屋に泊まれない人が寝るお部屋なの。さっきの反対側の階段は女子の部屋になるから、上がったらだめよ。この街は狭いから、一旦エロ認定されるとつらいわよ。上がっただけで女兵士と女傭兵が大騒ぎだから・・・ま、君は大丈夫かな」
そうか、ここでは女兵士さんもいるんだね。そういえば、ベルタさんも昼間はしてなかったけど長い剣を下げててカッコいいかも。僕はふと我に返って部屋を見た。あっそうか。
「あのー、僕、ここで寝るんですね?」
「そうなのよ。物分かりがいいわね。ごめんね。砦で空いているお部屋は牢屋だけなのよ。でも安心して、この街は、お金がなくても寝ることはできるの。ここで寝てもらえると、砦としても助かるのよ。夜に魔物が出ても、気付いてもらえるでしょ?
大抵、ここで寝るのは傭兵さんだから、いざというときも役に立ってもらえるし。あと、この部屋の奥になわ梯子が見えるでしょ?あれを登ると建物の上に出れるし、外に階段もあって下の川までは逃げられるから慌てないでね」
ベルタさんは、奥の方に藁布団が沢山積んであるからそれを好きなところに敷いて寝るといいわって言った。僕がアーデルハイドはどうしてますかって聞いたら、砦の近くの宿屋の納屋に泊まってるって。下の街と同じようにねって笑いながら言ってた。高く積んだ藁の上で偉そうにしている姿が目に浮かんだ。
それからまた1階に戻って、水飲み場とトイレを教えてもらった。どちらも一階の、階段の下だった。 じゃねって言って、ベルタさんは砦に帰っていった。明日はラッパが鳴ったら砦に来てって言われた。
僕は、また階段を登り、大部屋に戻って、藁布団を一枚引っ張りだして、出入り口の横で寝ることにした。かなり夜が更けてきてから、何人かの傭兵さん達が泊まりに来たみたいだ。みんな疲れているようで、泥のようにマントにくるまって寝だした。すぐにイビキが聞こえ、僕は不眠に悩まされることとなった。
次の日、目が覚めたら傭兵さん達はもう居なかった。小さな窓から朝日と、朝の涼しい空気が差し込んでくる。窓には鉄格子がはまっているけど鎧戸がないので、冬は寒いだろうなと思った。よく見ると暖炉があった。僕は少しホッとした。
藁布団を片付けて、ドアを開けると、昨夜とは違う兵士さんが番をしていた。朝の挨拶をすると、ニコリと笑ってくれた。一階に降りると、鉱山入り口の鉄格子の前で、傭兵さん達が数人待ち合わせしているようだ。
ちょうどその大きな鉄格子をガラガラと巻き取っているところだった。
装置は、鎖を巻き取るドラムと、ドラムを回す棒でできている。棒の下には歯車のようなフックが付いていて、棒を前後に動かすとカチカチいって動く。このフックが引っかかって鉄格子が落ちていかないらしい。でもフックを外すと一気に鎖がジャラジャラドラムから出ていくとのこと。巻き上がって外の壁に収納された鉄格子を眺めてから、僕は砦に向かって歩き始めた。ちょうどラッパの音がする。朝が始まった感じかな。
建物をでると広くなっていて、その先が橋だった。昨日の木の床は、街側から吊り下げられた木の橋だった。魔物が溢れたら橋を巻き上げるんだろう。途中からは石の橋だ。
砦に向かって歩いていくと、鉱夫さん達や傭兵さん達の一団がぞろぞろとこちらに歩いてくる。みんな見慣れない顔なのだろう、僕を興味深く見てるので恥ずかしかった。僕は道の端を俯向いてこっそり歩くことにした。
鉱夫さんの集団をやり過ごそうと道の脇によっていると、アーデルハイドが呼びかけてきた。
「悪者くん、おはよう」
「おはよう」
僕は悪者くんじゃないといいかけて、気づいた。名前がわからないから、なんて呼んでいいのかみんな困るんだろうね。
そのままアーテルハイドと合流して、また、歩き始めた。アーテルハイドは、興味津々で聞いてくる。
「昨日、野宿したんでしょう?」
「え、野宿はしてないよ。鉱山の入り口の建物で寝たんだ」
「ああ、あそこで寝ることをこの街では野宿って言うらしいわ。あの建物ができる前は、鉱山の入り口付近で寝てたらしいから。後で行ってみたいわ。あと、鉱山内で寝ることは、塩を枕にするっていうらしいわ」
ここに昨日来たばかりなのに、アーテルハイドの情報収集能力って高いなって思った。でも、鉱山の中で寝るって想像できないや。まず、冷えるから身体を痛めるだろうし、魔物でも出たらと思うと寝てられないよね。
鉱山町は大体200メートルぐらいの真直ぐな通りだけの街だ。道の左右に店とか宿屋が建ち並んでいる。背の高い建物もある。通りの上にロープが張られていて、洗濯物が沢山干されているところもあった。通りを歩いていくと広場があり、左側に昨日の第2門があった。ここから砦の門まではすぐだ。近づくと正門警備兵の横でベルタさんが待っていてくれた。
ベルタさんは、こっちと言って先になって歩いていく。オットー様の室かな。昨日食事した部屋だった。ドアを開けると昨日のメンバーが座っていた。
「おはようございます」僕とアーテルハイドは、一緒に挨拶した。
全員が挨拶を返してくれた。オットー様が口火を切った。
「さて、二人はよく眠れたかね?悪者くんは、どうだった野宿は?」
「快適でした。夜遅くに傭兵さん達が帰ってきてからは、結構うるさくなってきましたけど、まぁ眠れました」
「あの部屋は静かにする決まりがあるのだが、騒いだ者が居たのか?」
「いや、イビキが酷くて」
皆笑った。決まりがあることに少年は驚いたが、よく考えればわかることだ。彼らは毎日戦っているのだ。寝不足は命取りに繋がる。
「恐らく、迷宮から帰るのが遅くなったのだろう。あまり遅いと街では泊まれないからな。ところで朝は何か食べたか?」
アーデルハイドは、食べたと答えた。僕は食べてませんと答えた。あとでパンでもベルタから貰えとオットー様が言うと、ベルタさんはうなずいた。
「さて本題に入るとしよう。包み隠さず話してほしい」
僕は、城塞都市の門の前で、少年達をさらった奴隷商人が処刑されるところから話した。
「大攻勢前は、処刑場だったらしいな。それより、その首輪は、商人が死んだら外れたのか?なかなか面白い話だ。こっちでは知られていないものだ。悪魔の手によるものかもしれんな。そうでなければ、神聖結界が一時的に効かぬようにされたのか。悪魔の手によるものだとすると、あちらの世界にも悪魔が強力に働きかけていることになる」ブルーノ神父は、興味を持ったようだ。「神様が折角二つの世界に分けたのに、干渉はやまぬか・・・」00
その後も僕が話し、所々で質問したい人が質問することになった。
次に修道院とドミニク神父様の話をした。これにはオットーとレオンが反応した。城塞都市に修道院は無いそうだ。公爵家は同じらしいが、どうも当主の名前が違うようだ。また、司教は教皇庁から直接派遣されているらしい。やはり、あちらの世界とこちらの世界は違うと話題になった。二つの世界になってからの年月が、両世界の違いを生み出しているのだろうとブルーノ神父がいった。今までもう一つの世界があるとは言われていたが、本当に存在する確証を掴んだようで全員が驚愕していた。
城壁の高さについて話すと、大攻勢前の高さはそんなものだったと、皆言った。大攻勢の後、増築したらしい。あちらは直接悪魔の攻撃に晒されてないようで安心したと皆言った。
そして異端審問官と火刑、気づいたら門の外にいた話をした時には、オットーが興奮していた。
「お主、それは凄いぞ、恐らくだが、お主は天使を召喚している筈だ。こちらでも召喚とか、神の勢力が直接介入してくるのは稀なのだ。精々力を借りるぐらいだからな」
カルワリオの丘に出来た、卵のような空間の穴の件では、ブルーノ神父が質問した。
「それは赤くはなかったのか?白いのだな?」
白かったというと、赤は邪悪なるものが開いた転移門である可能性が高いので注意した方がいいと言った。大攻勢の時にネウストリアやアウストラシアで数多くの赤い転移門が見られ、そこから悪魔の軍団が大量に出てきた事が文献に残っているらしい。僕は、門は白だったし、通る時に痣が同じく白い色を放ったことをいうと、やはりなとオットーが呟いた。ネウストリアは、既に存在していないらしい。ライン河から西はないとのこと。アウストラシアも、半分は地獄に飲み込まれたようだ。オットー様やレオン様の封建領地も、そのあたりにあったらしい。
あとは、こちらの世界の話なので、殆ど質問が無かった。
下の街からの移動の話は昨日したので特に何もなく、しばしの間皆黙っていた。その時静寂を破るように、僕のお腹がグゥーとなったので、みんな大笑いした。
オットー様は、ベルタさんに言ってくれた。パンでもやってくれと。
僕とアーテルハイドはパンとヤギのミルクをもらって食べた。食べ終わってから今後の話になった。
とりあえず記憶が戻るまで、何か仕事をして自分で食べるようになって欲しいということだ。砦の食事は全員に充分に行き渡っているわけでないし、余裕がないらしい。補給も不定期にちかいため、全く関係ない二人の子を扶養する事は出来ないという事だ。アーテルハイドはベルタが保証人になれば砦の文官見習いになれるかもしれない。
でも、僕は厳しいそうだ。
理由は、まずいつ記憶が戻るかわからないこと。素性がしれないので保証人になれるものがいないこと。職人の見習いは、今は空きがないそうだし、いつ記憶が戻ってやめることになるかわからないので、できれば避けたいとのこと。
この街で職人といえば、粉挽き、パン焼き、仕立屋、鍛冶屋、鎧職人ぐらいで、あとは街道の北にある人間の支配地からの輸入だそうだ。ブルーノ神父様の見立て通り神聖騎士団の末裔でなかったら、どこかの貴族のさらわれた子弟かもしれない。そうだとしたら、職人の見習として認めてしまうのはまずいことになるとのこと。
あとは、城塞都市で公爵様に保護を求める考えもあるが、前もって宮宰だとか、司教様に根回しをしなければならない。一介の騎士では荷が重いと言われた。向こうの世界で保護者だったドミニク神父ぐらいの方なら身分も高く、聖俗両方にパイプがあり、まさに味方にしたいような人らしい。もしもあちらに行くことがあるのなら、是非お会いしたいものだと皆言った。
僕の保護に関しては、打つ手が無いようで困った。そこでしばらく鉱山の傭兵隊のポーターでもして、その日の食事にありつけばいいのではないかという話になった。
なんか寂しくなってしまった。命の保証もないんだよ・・・
いかがでしたでしょうか。
次話は、いったんドミニクの世界に戻るか、このままこちらの世界をかこうか、迷っています。
今夜のアップは厳しいかもです。宜しくお願いします。




