36.婚約の契約(6)
「ラースを……ここへ……?」
「うむ。個人的な騎士の誓いは、魂との結びつきになる。ラース・ベルグマンがディルクの魂と直接、契約を交わしている今……お主を守ろうとするラースの魔力がお主の体内で暴走し、最悪の場合、器であるディルクは暴走した騎士の魔力によって——死に至る」
「……っ、」
「ディルク自身に膨大な魔力があれば制御も出来たのかもしれんがの——まあ、でもそれは、たらればの話だ」と国王陛下は眉尻を下げながら付け加えた。
俺は俺の中にいる少しばかり、魔力がない事に対してしょんもりしているディルクに「何も気にすることはないよ」と声を掛けて、彼の頭をエアーなでなでした。心なしか悲しそうな表情をしながらも俺の行動に「ふふふ」とディルクは嬉しそうにするのを感じて、嬉しくなって胸にじわじわ暖かいものを感じていると国王陛下が「そう、そこでだ」と突然笑顔で何かを思いついたかのように口を開いた。
「ラースを呼び寄せ、婚約の契約の際に魔力を制御してもらうのだ!いやあ、ラースに会うのは、ノースユグレスシアの報告のためにラインハルトと共に王宮を訪れてきてくれた時以来だから……一か月振りだな。私の事、覚えているだろうか」
「陛下、流石に……忘れる事はないかと」
エドガー様にそうツッコまれながらも、何故だか国王陛下はニッコニコで。
目に見えて嬉しそうにウキウキしているのがよく分かって、なんで?と疑問に思っていたところで「テオバルドのラース好きもここまでとは」とラインハルト様が言葉を零されたのが聞こえて、気になって伺おうとした瞬間にアルフレッド様が「父上、どういうことですか?陛下のラース殿に対するあの態度、なかなかのものですが」とアルフレッド様も陛下の様子が気になっていたようでラインハルト様へ質問を投げた。
「ふむ。そうだな、どこから話そうか」
「——バルカノン公爵の悪政に反旗を翻したのがラース殿、ということは存じ上げております」
「その通りだ。ラースは今現在、北の領地の管理者として動いてくれているが、元々はノースユグレスシアの獣人騎士団団長だった。バルカノン公爵の悪政の証拠を取り纏め、国王へ陳情したのも彼だ。そこから、ラースは国王に大層気に入られている」
ざま婚番外編ではラースが自分の判断ミスを追い目に感じ、ノースユグレスシアを後にして、ひとり旅に出る。そして旅先で故郷を救ってくれたセシル様と、愛する故郷を想うシーンが印象的だった。
ラースが愛する故郷を守るために、前公爵から政権を奪還した事は先生の素晴らしい執筆で、ブラッドボーンボードの襲来編とは別の番外編で壮大に描かれており、俺はその話でラースの漢らしさに胸がキュンキュンしたのを覚えている。
( あんなに漢前に政権奪還したら……人を厳しく見る癖のある国王陛下ですら、ひとたまりもないかも )
「——では、ラース・ベルグマンをココに召喚する。ディルク、左手を私に」
「は、はい」
国王陛下が差し出してくれた手の上に、左手を乗せる。するとエドガー様とセシル様が俺の左手の甲に手を重ねた。
「エドガー様、セシル様」
「ディルク、突然の触れ合い、申し訳ない。アルフレッドには必要な事だと、後で説明しておく」
「い、いえ」
「実は、セシルの魔力量探知能力でラース殿の現状の魔力量を計測してもらったのだが、一か月前より増幅しているんだ。一か月前の魔力量だと、陛下だけの魔力で召喚できたんだけど……ここ数日で彼の魔力量は異常に増幅している。ほぼカンストに近い魔力量を持ち合わせている彼を、遠く離れたあの地から王宮まで召喚しようと思うと、私とセシルの魔力も合わせないと召喚は難しいと判断した」
「カ、カンスト……?!え、ま、待ってください……!五日前、ラースに騎士の誓いを立てられた時は、ラインハルト様からはラースの魔力量はそこまで多くないって……!」
「そうなのです、ディルク様!何がどうなっているのか……!本来のラース様の魔力量は公式の私よりも少し少ないくらいだった筈なのに……!今や、今の私よりも上、アルフレッド様と同等レベル……ううん。もしかすると、アルフレッド様をも凌ぐ程の魔力量で……!」
「……えっ……?!」
「ははは!これだから、ラース・ベルグマンは面白いのだ!私の想像の遥か上をいく!」
「陛下、ラース殿をお好きなのは分かりましたから、こんな近距離で大声はお控えください。耳が痛い。——だからね、ディルク。彼を召喚するために私達三人の力を使う。君のこの左手の甲にある魔石が頼りだ。君に負担はないように万全は期す。ただ、違和感はあるかもしれないから、そこはちょっと我慢してほしい。では、いくよ!————!」
「ッ!」
召喚の呪文をエドガー様が紡いだ。その瞬間に、足元に魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣がボゥ、と光を放った。
エドガー様が呪文を紡いだ後に、セシル様が。そして、その後に国王陛下が呪文を紡ぐ。
膨大な光属性と聖属性の魔力を感じる。魔力のない俺がこの状況下でも立っていられるのはセシル様の優しい聖魔法が俺を強力な魔力から守ってくれているから。
それでも、魔力の波は激しさを増しているのを魔力の無い俺でも感じた。すると、俺の横にいたセシル様が「ちょっ、これ、ほんとにヤバいかも……!」と顔を歪められて。すると辺りが眩しく光って、真っ白になった。
( ——っ!眩しい……! )
あまりの眩しさに目を瞑った。
目がチカチカして、なかなか開ける事が出来ない。
すると、ふわっと、柔らかいモフモフした感触を感じて。
安心する暖かさが、俺を包んでいる感じがした。
「——ディルク……、まさかこんなに早く、逢えるとは」
俺を呼ぶ声が聞こえて。
声のする方に向かって目を開けると、そこには。
「……っ!ラース……!」
俺に騎士の誓いを立てた張本人、ラース・ベルグマンが優しい表情で俺を包んでいたのだった。




