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大好きなBL小説の悪役令息に転生したので改変せずに、ふたりの行く末を見守りたいと思います。  作者: 燈坂 もと


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35.婚約の契約(5)




 ほのぼのとした空気の中、その台詞は突然、放たれた。


「ふむ。しかし……困ったものだな。このままでは、契約は阻害されてしまう……どうしたものか」


 それまで和やかに談笑していた筈の面々は全員、ピタっと固まり、国王陛下だけが口元に手を当てられて「むーん」と考え込んでおられた。

 ざま婚本編で、婚約の契約が阻害される、なんてストーリーは存在しなかった。

 意にそぐわない婚約に対して反発しつつも、家格の繋がりのため、しょうがなく契約を交わしアルフレッド様はディルクに目もくれず、右手の薬指に刻まれた紋様を見つめながら、溜息を吐きながらその場を去ったという描写だった……はずだ。

 このシーンは、ディルクが断罪される時、アルフレッド様が如何にディルクに対して冷たかったのかをディルクが訥々と語るシーンで登場する。

 それでも、そんな貴方でも一生を添い遂げたいと思っていたと。やつれた表情で語るディルクが印象的なシーンだ。


( 婚約の契約が阻害って、どういうことだ……なんか、俺が転生してしまって……もしかしてめちゃめちゃ改変されてしまっていないか……いやいやいや。もしかしたら、原作に登場していないだけで、こんなシーンを乗り越えて契約したのかも……っていうのは、流石に無理があるか…… )


 どういうことか直接確認したくて、俺はアルフレッド様へ、国王陛下に挨拶をさせて欲しいと懇願した。

 俺は、ここ最近の俺の行動を思い起こしてみた。アルフレッド様は、俺が真剣に見つめながら目線を合わせて必死にお願いすると、俺の望みを叶えてくれるという傾向にあるのだ。

 その時は決まって俺の思いが伝わるように心を込めながら、彼に向かって上目遣いをして、瞳を潤ませるのがポイントだ。

 そして、毎回のように決まって「……っ、私はまだまだ精進が足りない……!」と俺に聞こえないように言っている(つもりだろうけれど俺にはバッチリ聞こえていて、なんのこっちゃ?なのだけど、よく分からないし突っ込むと面倒くさそうなので放置している)のだけど、その台詞が出た時は確実に俺の願いが叶う時。確信をもってグッジョブ俺と心の中でガッツポーズをかますことが出来る。

 先程みたいに、力ずくで無理矢理行こうとすると、力量の差は歴然なため絶対に解放は困難。押してダメなら引いてみろ作戦を今後ちゃんとモノにしていかないといけない。俺に足りないのは、吃驚する事態が突然発生した時に慌てることなく冷静に対処するための力なのだ。

 今回も上手くいったようで、(くだん)の台詞がアルフレッド様から放たれて、俺はその身を解放された。

 そして、国王陛下やエドガー王太子殿下、そして聖女であるセシル様にご挨拶をするため、恭しく深の礼を行う。


「ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません。テオバルド・シルヴァン・アッシュフォード国王陛下、並びにエドガー・シルヴァン・アッシュフォード第一王太子殿下、セシル・アストラル子爵令息。ご機嫌麗しゅうございます。お変わりなくお過ごしのことと存じ、なによりに存じます。セシル様におかれましては、お初にお目にかかります。ヴァーミリオン伯爵家嫡男、ディルク・ヴァーミリオンにございます。こうしてお目にかかれて光栄です」

「ふむ、ヴァーミリオン伯爵令息……いや、ディルク。其方のデビュタントに参加できず申し訳なかったな」

「いえ、ご多忙中のことと。そのお心遣い感謝痛み入ります」

「お主とは……いつぶりか。生まれたばかりのお主に加護を齎すべく、当時の司祭と共に神殿でお主を迎えた時以来と記憶しておる。——そうそう、その時ロウエンが『外は悪い虫しかいない。早くこの宝物を家に連れて帰りたい』とピリピリしておったな。ははは!あの時が昨日の事のようだ」

「あらまあ。懐かしいわね、ほんと昨日のことのよう」

「……やめてくれ、テオにシルヴィ……しかし、今もその気持ちには変わりない。実際、悪い虫がついてしまった」


 父上の台詞を受けて、みんなの視線はアルフレッド様に注がれた。

 アルフレッド様は「陛下や皆様には、後程ご挨拶させていただく。先に、ディルの質問を」と言いながら、恭しく深の礼をした。俺は質問をしたいともなんとも彼には伝えていないのに、勘が鋭いのはざま婚本編でも描写されていて、彼は本当にアルフレッド・ローゼンフェスト公爵令息なのだと実感した。

 

「——アルフレッド様、ありがとうございます。……国王陛下、発言、よろしいでしょうか」

「構わぬ。何なりと申しなさい」

「ありがとうございます。——婚約の契約が阻害されるとは……どういう、ことでしょうか」

「ふむ。このようなことは初めてでな。私も困惑しておるのだが。……ディルク、お主の左手の甲にある、騎士の誓いの紋様だがラース・ベルグマン個人に忠誠を誓われたという認識で合っておるか」

「は、はい……私も、そのように認識して、おります」


 俺の返事を受けて、国王陛下は「ふむ。やはりそうなると……」と言いながら悩み始めた。

 国王陛下にエドガー様とセシル様が話しかけて、三人は何やら考え込んでいる様子だ。


( えっと……それって、つまりは……。この質問の流れでこんなに相談しているということは、ラースの騎士の誓いがあるせいで、契約が成立しないということなのか……? )


 確かに、ざま婚本編のディルクはラースに騎士の誓いを立てられていなかったのか、婚約の契約のシーンの挿絵では左手は真っ新で綺麗なままだったと俺の記憶も一致している。

 つまりは、俺は本編の話を少しばかり変えてしまったということなのか。


 俺がまさかの現実に衝撃を受けている中で、三人は話終わったようで、輪を作っていた状態から元に戻り、国王陛下が口を開いた。


「——ディルク、お主は魔力を持ち合わせておらんかったな」

「は、はい」

「ふむ。相分かった。では、今から私の魔力で……ラース・ベルグマンをこの場へ——召喚する」

「——え……っ?!」


 突然の出来事には、冷静に対処をする力を持ち合わせる必要があるのだ。

 

 いつ、いかなるときも。




 

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