28.まさかの展開(7)
実地実習の小規模模擬戦。
形式的には10~20人規模の小隊戦を作って複数回実施する。内容は、王立アカデミー生が作戦立案・指揮を担当する。事前に担当教授に計画書の提出が必須で、その計画書が基準を満たせば遂行可能になる。
模擬戦では王立学園生が部隊として行動する。小隊長は基本的に王立アカデミー生が務めるが、対応が困難な場合は王立学園生が基本は務めても可となっている。
演習テーマはさまざまだ。
例えば、地形利用の演習で「森と川を挟んだ丘陵地帯での遭遇戦」、兵站・補給の演習で「限られた魔力と食料での3日間防衛戦」、陣形・心理戦のための演習で「夜間奇襲 vs 警戒陣形」など。
実際、騎士団の演習でも使用されているものから、わっ!これはさすが学生が考案したんだろうなぁ!くすくす!というショボイものまで多種多様な実地実習が原作でも紹介されていた。
この小規模模擬戦のポイントは、王立アカデミー生は実際に命令を出し、結果を振り返ること。
失敗しても「死なない」模擬戦なので学びが深い事だ。
『——つまり、こういう模擬戦を繰り返す事で学びも沢山あり、絆も深まって……間違いなくwin-winな関係が築けるっていう算段です。言うなれば——イェイ!めちゃんこホリディ♪です!』
マイクを通して美しいセシル様の口から、この異世界の貴族社会を生き抜く令息らしからぬ言葉が沢山飛び出して、学生達がざわついている。そんなセシル様の横では国王陛下と王妃様がセシル様を見てニコニコしていて……あの3人を見ていると何だかほほえましい光景だ。
すると、俺の横からズモモモ……とおどろおどろしい空気が流れてきたのを感じて、おそるおそる横を見遣ると、まさかのこの国の第一王太子だった。
エドガー様は「あンの、問題児が……っ!」と頭を抱えながら、苦虫を噛み潰した様な顔をしていて。ああ……まさかあの、エドガー様の綺麗な御尊顔が歪むところを見る事が出来るなんてと感動してしまった。
でも、そんな表情でも作画は綺麗なままで、エドガー様の生まれ持った美しさに心の中で拍手を送る。
エドガー王太子殿下は原作では温和な人柄で、どんなに大変な状況であっても、どんなに心を搔き乱される事態であっても、常に冷静に物事を対処される方だった。それがあのセシル様の発言に、心を取り乱されて荒れまくっている。まさか、エドガー様のそんなお姿を拝見する事ができるなんて……エドガー様のお言葉をお借りするのならば「いいものが見れた」状態だ。
それも、これも。あの美しいセシル様から日本特有の言葉が、容易に飛び出た事が原因に違いない。
( あの喋り方……間違いない。セシル様は——転生者だ……!しかも、あのセンテンスにあの歌詞を知ってるなんて……多分、間違いなく。俺と同じ時代を生きてたひと……!そして、このイベントの詳細をここまで知ってるってことは……ざま婚本編の大ファン。——と、いうことは……アルフレッド様と恋をしたい、ひと……って、こと……? )
ざま婚の一番人気は常に主人公であるアルフレッド様だった。読者の声は「セシルになってアルフレッド様と恋したい」とか「アルフレッド様とセシルのエッシーンを壁になって見守りたい」とかその他多数。
つまり、ざま婚ファン=アルフレッド様大好き=セシルに転生した=アルフレッド様と恋したい、という方程式が成り立つだろう。
セシル様が、アルフレッド様と出逢えば、本編通り。アルフレッド様がセシル様の見目に目を奪われ、淡い想いのやり取りが始まるのだ。
( ——?んむ……?なんだ……?なんか、もにゃもにゃ、する……。むむむ?あんまり寝てない、から……かな )
その時、なんだか急にアルフレッド様の表情が見たくなって。何だかアルフレッド様を見たら、この変な感覚が、解消されるような気がして。
アルフレッド様を見ようと目線を上に上げようとしたその時、視界が揺らいだ。バランスを崩したのかと思った俺は慌てたけれど、すぐにそうじゃないと分かった。何故なら、俺の目線の先には——アルフレッド様が、いたから。
「う、……わっ……!ア、アルフレッド様、ど、どうし」
「——君は、無理をするきらいがあるな。顔色が悪い。私が心配で気が気じゃない。医事室へ連れて行く」
「へ……っ?!」
「エドガー、私とディルクは今日の実地実習は欠席だ。ディルクの体調を優先したい。昨夜は無理をさせ過ぎたからな……これ以上この子に無理をさせたくない」
「ア、アルフ、レッド、様……?!だ、だいじょぶ、で」
「——ディルク。休むんだ」
「……っ!——わ、かり……まし、た」
「いい子だ。危ないからしっかり掴まって」と言いながら俺を横抱きにして、アルフレッド様はエドガー様の返事を聞く前に歩き始めた。
アルフレッド様の腕に包まれて、俺の腕を彼の首周りにぴっとりとくっつけると、自然と彼の首元の温かさや香りを感じる位置になって。
すると、さっきまで、なんだかもにゃもにゃしていた胸のつっかえがスッと消えていくのを感じた。まるで、魔法みたいに。
それと同時になんだか目頭が熱くなって、涙が零れてしまいそうで——胸が、苦しい。
これは、ディルクの苦しさ……?
それとも……俺の……?
( ——こんな、優しくされたら……誰だって、好きになっちゃうよ…… )
アルフレッド様の香りに包まれて安心した俺は、重い瞼をゆっくりと閉じたのだった。




