27.まさかの展開(6)
目の前には、この国の国王陛下、テオバルド・シルヴァン・アッシュフォード様。その傍には王妃である、ルクレツィア・シルヴァン・アッシュフォード様。
そして、俺が行方をずっと気にしていたセシル・アストラル子爵令息が……既に聖女になって、そこにいた。
( 何が、どうなって……?!この国に聖女が爆誕したなら、凄い騒ぎになってる筈なのに……ディルクの記憶をどれだけ遡っても、その事が思い出せない…… )
固まってる俺を心配して声を掛けてくれたオスカーに「聖女なんて……いつ……?」と問いかけると「ああ、そっか。ディルクは知らないのも無理ないよ」と俺の頭を撫でた。
「どういう、こと……?」
「2週間前かな。ディルク、急な高熱で1週間くらい寝込んだの、覚えてない?」
「高熱……、あ。」
2週間前。突如の高熱を発症した。1週間魘されて、1週間で熱は引いたけど、それから数日、意識はふわふわしていた。
この国のデビュタントの予定は国が管理をしていて、余程のことがない限りは変更できない。ディルクはそんな状態で参加をしたためダンスは父上とだけ。あとは、挨拶を交わしたのみで帰宅したのだ。
アルフレッド様の事は昔から知っていたし、彼の活躍を耳にしていて、ずっと尊敬していた。彼と出逢った時のディルクの衝撃は凄いもので……今、本人が近くにいるのに当時を思い出しただけでも呼吸がおかしくなりそうだ。
こんな状態でも、アルフレッド様と出逢って恋に落ちるなんて……原作の強制力は凄まじいのだろうと感じる。
前世の記憶が完全に戻ったあの日。やっと意識がハッキリしたのだ。靄がかかった状態がスッと消えた感覚。もしかしたら、その突発的な高熱が、俺の前世の記憶を呼び起こさせるためのモノだったのかもしれない。
「そっか……あの1週間は、確かにずっと伏せっていたから……その間だったら、分からないかも」
「セシル様が聖女として認定されて王都中お祭り騒ぎだったんだよね。聖女様に関する事は、ディルクが落ち着いてからにしてほしい、と伯爵夫妻からも頼まれていたんだ。きっとディルクは聖女なんて存在を知ってしまったら研究したくてしょうがなくなるだろうからって」
言われて、聖女という未知の存在に出会ってしまったら研究厨であるディルクは絶対に優れない体調をおしてでも調べ尽くしてしまうだろうと納得してしまった。さすが父上と母上だ。ディルクのことをよく分かっている。
そんな事を考えていると司会進行担当らしい学園の先生がマイクを手に口を開いて、みんなの意識がそちらへ移る。
『王立アルカシア・ルクス・エクレシア・ヴェリタス・ソフィアリス・アカデミーの諸君、よくぞ我が王立イグニス・ファルシオン・シュクリストア・ヴァルティアス・シルヴァニス学園へお越しいただいた。本日お越しいただいたのは他でもない。王立アカデミーにて軍事戦略を専攻——中でも戦術学を学んでいる諸君らと我が学園の生徒がこの学生の時分から実習を通して未来共に戦うであろう者達と力を合わせるという素晴らしい試みを……聖女であるセシル・アストラル子爵令息様が考案なされた。先ずは、国王陛下からお言葉を頂戴する』
「——陛下、よろしくお願いいたします」と司会進行の先生は言いながら、恭しくマイクを陛下にお渡しすると「うむ、ありがとう」と、陛下がマイクを受け取った。
エドガーのお父上であらせられるテオバルド様は、エドガーと同じ蜂蜜のような黄金色の美しい髪を後ろで結え、ルビーの様なキラキラとした赤色の瞳を細めると目尻にくっきりと年輪を感じさせる皺を刻まれ、その表情は威厳と風格、そして男らしさが滲み出ている。
我がアッシュフォード王国にイケおじランキングなるものがあるとすれば、妹の言っていたシグルド騎士団長共々、確実にトップ5には入るであろう。
そして、エドガー様のスカイブルーの瞳は王妃様の瞳の色と完全一致のため、瞳の色は王妃様譲りなのだなと国王陛下の横にいらっしゃる王妃様の見目を拝見して実感した。
『——此度は、突然の招集にも関わらず迅速な対応、感謝申し上げる。本来であれば計画的に進めて、来年を目処にした方がいいかとも思ったのだが、取り急ぎ顔合わせをし、取り掛かりだけでもと思い、本日急遽集まってもらった。定期的に小規模模擬戦を実施し、将来的に施設全体を使った大規模演習や専門テーマ特化演習なども実施していきたいと構想しておる。実施していく内に気付きもあるだろう。どんどん、意見を出してもらえると助かる。よろしく頼む』
国王陛下の発言を聞いて、思い出した。
( コレは、ざま婚本編でアルフレッド様とセシル様が同じ班を組み、力を合わせて実習をこなしたイベントだ……!でも、コレって確か、アカデミーから転校してきた生徒数名が学園で実地実習をしてみたいと発案したやつの筈……それを、セシル様が。しかも聖女になった状態で発案だなんて……もしかして、セシル様は——転生者、なのか……? )
ざわざわする胸を抱えながら、俺は国王陛下と王妃殿下の横にいらっしゃるセシル様を見つめ続けたのだった。




