22.まさかの展開
俺が通っている王立アカデミーの正式名称は『王立アルカシア・ルクス・エクレシア・ヴェリタス・ソフィアリス・アカデミー』。
理事長が変わる度にその理事長が学生達に目指してほしい理想とする学生像を学園名に付け足した結果がコレだ。
やたら長い名称のため、皆こぞって王立アカデミーと短縮して呼んでいる。
あまりに長い名前に学生は面白がって一度は日本でいうところの早口言葉として遊んだりする。初回で噛まずに言える学生は数%しかいないほど、高難易度な早口言葉だ。エクレシア、もしくはヴェリタスのあたりで高確率で噛んでしまうのだ。一度よければやってみて欲しい。
「ディルク、大丈夫?しんどそ……」
「オスカー……へへ。分かる……?」
「目が、イってる。あと、目の下のクマ、ちょーヤバすぎ。折角の麗しい顔が……勿体無さすぎ。コンシーラー、貸そうか?」
俺に心配の声を掛けてくれたのは、オスカー・ブライタス侯爵令息。ブライタス侯爵家の次男坊。1年の頃から同じクラスで、家格は間違いなく彼の方が上なのに「学生だしさ、仲良くなりたいから敬語なしな?」と気さくな彼に甘えて、タメ口で喋っている。そして不思議と気が合うのもあって、気付けば一番仲がいい令息だ。
サラサラのブロンズヘアを真ん中で分けて、襟足は刈り上げている。そして少し大きめの青碧色の瞳は、沖縄の海を彷彿とさせる綺麗な色合いなのだけど、前世の記憶が戻ってから彼を初めて見た俺は、彼のその瞳を見て家族で毎年行っていた沖縄旅行を思い出して懐かしい気持ちになった。
( 沖縄の海……めちゃくちゃ綺麗だったなあ……。こっちの世界の海、まだみた事ないや……いつか、見てみたいなあ )
眠くてオスカーを見つめながらボーッとしている俺を「おーい!大丈夫?」とオスカーが目の前で手を振ってくれて、はっ!とした。いかんいかん。頭が上手く働いていない。
コンシーラーを鞄の中にある化粧ポーチから取り出そうとしてくれたオスカーに「ありがと。でも、大丈夫だから」と制してニコ、と微笑んだ俺に「そう?無理しないでよ?」と心配してくれた彼の優しさにホッコリした。
オスカーはお化粧男子だ。
ベースが綺麗だから、お化粧しなくてもいいんじゃ?と俺は思うのだけど、彼は常々「手を加えてより一層綺麗になれるならやるに決まってる」と言っているほど美に対して勉強熱心なのだ。素晴らしい。
「あんまりしんどかったら……無理しないで帰れよ?わかった?あんま俺に、心配させんな?」
「うん、分かってる……ごめんな」
ディルクは研究に夢中になると過集中を発揮してしまう性分なのだ。そんな彼を常に気にかけてくれていたのがオスカーだった事を過去の記憶を巡らせて初めて知った。
ざま婚本編でディルクが登場するのは、アルフレッド様との結婚式後の初夜。結婚式のシーンは描かれていなかったため、オスカーの存在も知らなかった。
きっと、ざま婚にもモブという形で登場していたかもしれない彼がこんなに素敵で優しい子だった事に嬉しさが込み上げる。やっぱりディルク自身、とても素敵なキャラクターなんだと沁み沁みしていると、気付いたら俺の顔を心配そうな顔で覗き込むオスカーの視線に気付いて「あ、ごめ、考え事してた」と謝罪の言葉を紡いだ俺にオスカーは溜息混じりに口を開いた。
「謝んなくていいんだけどさ……お前、いっつも自分の上限値意識しないで無理しすぎ。俺がお世話しなきゃ、生きていけないんじゃねーの」
「あはは。そうかも。——いつも、ありがと」
「んーん。別に……で?なんでそんなに眠そうなわけ?昨日は……アルフレッド様と顔合わせ、だったよな?何?上手くいってあんなことやこんなことしてて、寝不足なわけ?」
「こ!婚約もまだ正式にしてないのに……っ!そんな破廉恥なこと、するわけ……っ!」
「破廉恥て(笑)」
オスカーには、アルフレッド様を好きになってしまったと夜会で会った時に報告していたし、昨日が顔合わせなのも報告済みだったのだ。
でも北の領地の事やラースの事までペラペラ喋るのはなんか違う気がして、そこは軽く伏せつつ、婚約の報告をしようとしたその時。教授が入ってきて「予鈴なったぞー席につきなさい」との声掛けに「やべ。また、後でな」とオスカーは俺の座っている斜め前の自席に戻っていった。
朝イチのHRの後、専攻を取っている戦術学の講義が入っている。今日は実習の日で丸一日、校内を動き回る予定なのだ。
ところが、次の瞬間……予定にない予定が教授の口から発表された。
「あー、そうそう。戦術学専攻の生徒はよく聞いて欲しい。今日は校内での実習、急遽……んんっ、王立イグニス・ファルシオン・シュクリストア・ヴァルティアス・シルヴァニス学園……よし、噛まずに言えた……!んんっ。にて実習する事になったから」
その長ーい学園名が脳内に駆け巡って。
眠気MAXの脳みそが……一瞬にして、覚醒した。
「……………………へっ?!」
何故ならその学園は……結婚式まで絶対に会う筈のなかったアルフレッド様と、将来、俺を断罪した後、アルフレッド様がご結婚される筈のセシル様が通学されている学園なのだから。




