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大好きなBL小説の悪役令息に転生したので改変せずに、ふたりの行く末を見守りたいと思います。  作者: 燈坂 もと


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20/30

18.ローゼンフェスト公爵邸にて(3)



 

 おずおずとアルフレッド様の部屋の中に顔を覗かせると「話があるからおいで」と言われてしまった。

 着用していた衣服もまだ整っていないこともあって「失礼します」と俺はアルフレッド様の部屋の中へ足を踏み入れる。

 入った瞬間に彼の香りに包まれて堪らない気持ちになってしまった。

 ディルクのこのアルフレッド様に対する苦しくなる様な気持ちは恋をしたことがない俺でも、これが恋なのだ、とハッキリ分かるほどに切なくて。

 その気持ちに飲み込まれそうでドアの前で止まってしまった俺に気付いたアルフレッド様が俺の方を見遣ったの、だけど。


「ディルク、どうした……?ソファに、掛けて——」

「ありがとうございます。あの……アルフレッド様。夜着をお貸しいただき、ありがとうございました」

「——————」


 俺を見て、今度はアルフレッド様が固まってしまった。

 どうやら、夜着がぶかぶかすぎて、あまりにも格好悪かったんだろう。俺を見て固まってしまったアルフレッド様に夜着を貸していただいたお礼を言ったが返す言葉もないのか返事はない。

 アルフレッド様は先程までとは違う出立(いでたち)だ。夜着ほど崩れておらず、それでいて堅苦しくないフォーマルな装いはあまりに格好良くて。俺の中のディルクもヒィヒィしてしまうほどの男前。

 分かっている。そんなアルフレッド様の夜着が俺にはぶかぶかすぎて似合ってないことくらい。それでも、そんなに絶句する程だろうか?ちょっと悲しくなってきた。

 取り敢えず何だか傷付いてしまった俺のガラスのハートは、アルフレッド様と物凄く距離を取りたくなってしまって彼とは真向かいのソファに腰を下ろした。


 俺を見たアルフレッド様は大きく目を見張って、その大きな手をご自身の顔に覆い被せて深い溜息を吐きながら「——なんて、目の毒なんだ……」と一言俺に向けて放った。

 なんということだ。凄いじゃないか俺。王立アカデミーでは、比喩表現の勉強はしていないが、目の毒という比喩表現くらい国語の成績があまりよくなかった日本人の俺でも知っている。

 確か意味は『見てしまうと心や健康によくないもの』という()()()()だった筈だ。つまりは、俺は今、アルフレッド様にとって悪役令息ムーブをかませている……!よし!

 存在するだけで彼の心を掻き乱せているなんて。やっぱり俺には悪役令息の才能があったようだと心の中で力強くガッツポーズを繰り返していると、気付いたらアルフレッド様が俺の前で跪いている。


( ん?へ?なに?なんで?)


「えと。アルフレッド様……どう、されました?」

「なあ、ディルク——大事な話が、あるんだ。」

「——なんで、しょうか」


 突然の改まったアルフレッド様の佇まいに、背筋が伸びた。もしかしたら、北の領地での俺の振る舞いが余りにも酷すぎたから、物申したいのかもしれない。

 頭ごなしに叱りつけるより、下から見上げて提案する様に諭してくれようとしてくれているのかも。

 ざま婚本編でも、ディルクの悪行をいきなり断罪する訳ではなく、実はアルフレッド様は何度か諭す様にディルクに注意をしていたのだ。今回もきっと、俺の行いに何かダメなところがあって、俺自身気付いていないその行為を注意してくれようとしているのだろう。

 自分では悪行をしたつもりが無くてもした事になるなんて、俺は相当悪役令息ムーブが上手いのか、それとも原作の強制力が強いのか。どちらにしても原作から逸れることはなさそうでホッと安心していると、アルフレッド様が俺を見つめながら、その形の綺麗な口唇をゆっくりと開いた。


「——最初は、何故……私なんだろう、と疑問だった」

「………………ん?」

「一度しか、逢ったことがない。ましてや、挨拶を交わした程度で……婚約などと。意味がわからなかった」

「えっと、す、すみません……?」


 訥々(とつとつ)と語るアルフレッド様の言葉の意味が分からなくて。俺は何だか責められている気になって思わず謝ると「謝らないでくれ。謝罪が聞きたい訳じゃない」と言われてしまって。これは、口を挟まない方がいいやつなのでは?と空気を察して口篭った俺に、アルフレッド様は続けた。


「今日、初めて君の気持ちを聞いて。一日君と過ごして……私は、君を——離したくないと、思った。……君の傍らにずっといたい。君と共に歩んで、いきたい。君の横にこれから先、私以外の誰かがいるなんて……嫌なんだ。——ディルク、君のいない未来なんて、考えられない」

 

 アルフレッド様が(おもむ)ろに俺の右手を掴んで引き寄せた。かと思ったらアルフレッド様の口唇が、ちゅ、と音を立てて右手の甲に——落ちた。

 

「へ……、ぇっ?!」

「——ディルク・ヴァーミリオン伯爵令息。どうか、私と未来を添い遂げてほしい。お願いだ、どうか——私の婚約者に、なってくれないか」


 

 まるでプロポーズかの様なその台詞がアルフレッド様から(ディルク)にだけ向けられている現実に、俺の中のディルクが悲鳴を上げてぐったりしたのだった。







 

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