13.北の領地(7)
作戦名『お家へお帰りいただきマウス大作戦』
その名の通り、ラット達を本来の住処である魔の森へ移動させる事が狙いだ。
作戦名は……思いついてしまったが最後、どうしても発表せずにはいられなかった。昔からダジャレを思いついては「どうしても聞いてほしい!」と俺の中に眠るおじさま心が爆発してしまって母と妹を白けさせてしまっていた俺。そしてそのダジャレを父が「うーん。普通過ぎるなあ。もう少し捻りが欲しいな」などと、評論家ばりに批評をする、というのが我が家の定番だったのだ。
うん、ほんと。思い出しただけでもくだらない毎日だったけど、それがとても懐かしくて……もうあの日に戻れないのかと思うと、とても寂しい。元気かなあ、みんな。お兄ちゃんは異国の地で推しとして、頑張っているよ。
この国の人達には伝わりづらいダジャレ(というか、ダジャレという概念が存在しているのかも疑問なのだけれど)のため、ラースには見事にスルーされて「かわいい作戦名」というフォローまでさせてしまう代物だ。ラースとは友達(?)になれたので、ダジャレもおいおい教えていこうと思う。あっ、迷惑かもしれないから、ダジャレに興味がありそうなら、にしておくよ。勿論。嫌な事はさせたくない。
作戦の流れは、こうだ。
まず、ラット達の誘導ルートの確保する。 側面を壁や魔術障壁で塞いで、領地外へ続く一本道や漏斗状の通路を用意する。今のところ、領地内に発生しているラットの数は多くないため、今いるメンバーで怪我を負わせないように、丁寧に誘導してもらうのがポイントだ。
シャドウラットは影・静かな移動を好むので、暗いルートを選ぶ。っていっても、今はまだ明るいから魔力部隊に暗黒魔法をかけてもらい辺りを暗闇に染めてもらう。
スウォームラットは動きが波状なので、幅広の道で流す。土魔法で溝を意図的に作り、獣人たちに油を撒いてもらう。そこへ誘い込み、端だけを燃やして「逃げ道」を作り、領地外へ追い出すのがスウォームラットを追い出すための定石で、その方法は俺のアカデミーでの成功率は70%。勝率を上げるには、そこに猫型魔獣や猟犬の投入が必要なのだけれど。
「——ふむ。それでは、俺が獣型になってラットに追い込みをかけよう」
「えっ!ラース、獣型にもなれるの……?!知らなかった……!」
「?知らなくて、当然だろう。俺たちは今日初めて会ったばかりだぞ?」
「へぁっ?!そ、そう、だよね……!」
「獣型になれる獣人は個体数が少ないんだ。能力値が高くないと、本能に抗えず獣化して獣人へ戻れない可能性があるからな。この事は、一般的には知られていない事で、知らなくて当然。決して君が勉強不足だから、という訳じゃない事だけは理解しておいてほしい。この能力がディルクの力になるなら、惜しみなく利用する」
「……っ、ありがと。じゃあ、よろしくおねがいします!」
ざま婚本編でも描かれていなかったラースの事をまたひとつ知れて、「これどんなスピンオフ?」状態の俺は嬉しさで胸がじわじわ暖かくなっていた。騎士の誓いに、獣化、それに悪役令息である俺と友達にまで。やっぱり目の前のラースは、ちょっと変わり者すぎる。
通信機器をラースに借りて、全動員に指令を出した。ラースも「では、のちほど」と移動をする。
スウォームラットの扱いには慎重さが必要だ。そのため、この作業は魔物との対峙経験が豊富な公爵様、父上、母上、アルフレッド様、ラースを中心にスウォームの誘導をお願いした。
「『——ということで、今からラット達の誘導を開始します。よろしくお願いします』」
『……ディルク』
俺の指示に『御意』と聞こえてきた数秒後に、通信機器から聞こえてきたのは、久し振りに聞いたアルフレッド様の低く、神妙な声。
離れてから1時間も経過していないのに、ずっと聞いていなかったように感じた。
そして。相も変わらず、推しは彼が大好きなようで、声が響くだけで心臓の高鳴りがヤバい。全身が心臓なのかと勘違いするくらい爆音を搔き鳴らしている。これ、今晩泣いただけで吹っ切れるのか……?かなりの激重感情過ぎて、何故彼が将来、悪役令息ムーブをかますのか痛いほどよく分かってしまった。俺は呼吸を整えて、アルフレッド様へ返事をした。
「『っ、アルフレッド様……、お身体、大丈夫ですか?』」
『ああ。休息させてもらったからな……問題ない。それより——君は、これからどうするんだ。君の事だから最前線に向かうのだろう……?君が心配でしょうがない。叶うなら……私は、君の傍にいたい』
( ……ッ!し、んぞう、いた……っ!胸が、苦しい……アルフレッド様は、ただ公爵令息らしい行動を、されているだけで俺に何の感情もないはずなのに……あ。そういえば、ペットの様に可愛がってはくれている。心配、してくれてるんだ——嬉しい。やば、泣きそう )
「『……っ、ご心配、お掛けしてすみません。俺は……領地外へ、行きます』」
『——ひとりで、向かうのか……?』
ラット達を引き寄せるために、前方——領地外側に強力な餌や匂い……腐敗物やスウォームラットが暴走しない程度の血の匂い、そして特定の草木の匂いを配置して、領地外である北の門周辺、魔の森側に「巣らしい環境」を作って自然に戻りやすくするのだ。
「『ここへ来る前に、アルフレッド様に伯爵邸にも寄っていただきましたが、あの時に必要なモノは持ってきているので……!後は配置するだけなので大丈』」
『私は……頼りない、だろうか』
「『へっ』」
『君を守る盾となるには、私は——力不足、だろうか』
「『そういう、わけでは……!』」
『——早く君に、逢いたい』
「『ッ!』」
( う、ぁ……嬉し……!どうしよ。こんな、こんなこと、言われたら…… )
どばどばと、アルフレッド様を愛しいと思うディルクの感情が溢れて。
その感情に飲み込まれた俺は、気付いたら——口を、開いていた。
「『俺も——逢いたい、です』」
『いま、行く』
「へっ」
ものの、数秒。
目の前に青白い光が灯って、そこには。
「——!アルフレッド、様……ッ!」
「ディルク……!」
腕を引き寄せられて、気付いたら。
——俺は、アルフレッド様の香りに包まれていた。




