12.北の領地(6)
ラースが " 騎士の誓い " を宣誓した後に、俺の左手をゆっくり自身へ近付けた。
俺の手の甲とラースの口唇が、軽く触れ合うのを感じた瞬間に、触れ合ったそこからじんわりと温かさを感じた。
( なんだ……?カイロを当ててるみたいな、あたたかさを感じる…… )
じわじわと手の甲に感じる暖かさを確認したくて左の手の甲を見遣ると、銀白の紋様がゆっくりと刻まれているところだった。
その紋様は、八角形の雪結晶のようで、美しさに思わず息を呑む。
そして、その紋様の中央には北極星の様な眩しい銀白の小さな魔法石があしらわれていた。
「これは、一体……?」
「騎士——中でも、選ばれた騎士のみが、その人生で唯一ひとりにだけ立てられる誓いの証だ。北の騎士の紋様は『寒冷・不屈・守護』を表している。別名『凍てついた忠誠』だ。例え、どんな状況化であっても。その銀白は、決して消える事はない」
そしてラースは、自らの剣を抜き、跪きながら俺に両手で剣を差し出した。
「ディルク・ヴァーミリオン伯爵令息。吾身、その穢れ無き御心と共にありたい」
俺は差し出された剣を受け取り、両手で剣先を持ち上げ、跪いているラースの右肩にゆっくり下ろした。
そして、もう一度ゆっくりと持ち上げ、次は左肩へゆっくりと下ろす。
「——北の騎士、ラース・ベルグマン。今、この刃と共に其方の忠誠を認めた。汝の誓いを、認める」
「ありがたき、倖せ」
騎士は、その唯一の誓いを『この人だ』と思った人にしか宣誓できない。
そして、その宣誓を受け入れられなかった場合は、与えた紋様は消え、その騎士自身に黒い紋様が刻まれてしまう。
拒否されてしまった事によって忠誠心は行き場を失い、喪失感は計り知れず、騎士を辞する人もいる。
過去の文献でそのような騎士の記述を見ていた俺は、ラースの誓いを受け入れるしかなった。
(と……っ、友達に、なりたかった、だけなのに……!それにしても過去の文献を調べ倒してたの、本当に偉いぞディルク……!騎士の誓いの受け方、イケるか不安だったけど、あの文献のやり方で合ってたみたいだ……!ディルクの記憶力、恐るべし……! )
ホッと胸を撫で下ろした俺は、跪いたまま立とうとしないラースに手を差し出して、口を開いた。
「えと、ラース、で、いいのかな。もう宣誓も終わったから、跪くの禁止ね。立って?」
「……しかし」
「俺は!ラースと、友達になりたいんだよ。主従関係は求めてない!」
俺のその言葉を聞いて、ポカンとした後に「はははっ」と大笑いしたラースは「やはり、其方は素敵だ」と言いながら立ち上がった。
そしてゆっくりと俺の左手を持ち上げて、そこに刻まれた紋様を見つめている。
「誓いは……拒否、出来なかったから受け入れちゃったけど……その。ラースは、誓いを立てるの……俺なんかで、よかったの……?」
「ふむ。其方なら、俺を慮って、絶対に拒否しないだろうと踏んで宣誓したからな。受け入れてくれて——嬉しい。ディルク様」
「ううん?今、不穏な台詞が、聞こえた気がしたけど……それよりも!友達だから!敬称禁止で!」
「っ、ディル、ク。——ディルク。俺は、其方……君がいい。君を守りたいと思う。その紋様の中心には魔石が入っている。君の生命が脅かされた時、俺が君の元へ行ける仕組みだ。例えどれほど遠く離れていても——君の危機には必ず駆け付けて、君を守ると誓う」
俺を見つめるラースの、その真剣な表情に……俺は胸がじんわりとあたたかくなった。
こんな展開、今まで見てきたどの同人誌にもなかった展開だ。俺はただ、俺の頭脳をフル活用してるだけだし、なんならラット騒動で身体が疲弊しているラースを無理させて行動している。
いうなれば、めちゃくちゃ悪役令息ムーブをかましている。それでも、そんな俺に唯一の誓いを立ててしまったラースは原作とは違ってちょっと変わり者なのかもしれない。
「……俺なんかに唯一の誓いなんか勿体ないって思ってたけど……友達になれて、嬉しい。ありがと、ラース」
「——これはどうやら……長期戦になりそうだな」
「へ?」
「いや。こちらの話だ。さ、ラット達を誘導しよう。コレからの必要な動きと道具の指示を頼む」
ラースの言ってる事がよく分からなくて、俺は小首を傾げたけれど、首を横に振って流したラースに「ラット誘導が先決だ」と指導されてしまった。確かにそうだな。騎士の誓いなんてイレギュラーイベントをかまされたせいで、本来やらなきゃいけないことを疎かにしてしまった。
やっぱり俺は、悪役令息ムーブが上手なのかもしれない。




