第8話 ギルドの職員になっちゃった!?
部屋の空気が一瞬止まったなって、私でも分かった。ギルマスさんも意味が分からないって顔してるし。
「……ひとまず一から説明しろ」
ごもっともな意見ですギルマスさん。ギルマスさんに指摘されたサラサさんは、私のこれまでのことを説明してくれた。やっぱ受付嬢をしているだけあって、説明が凄くわかりやすい。
「今しがた彼女が作った料理をいただきましたが、とても素晴らしい出来でした。凄く安心する味で、なにより美味しかった。あ、言い忘れてた。カエデ、ごちそうさまでした」
「ああ、はい。お粗末さまでした」
丁寧にありがとうございますサラサさん。とはいえ話が全く見えないんですが。
「……それで?」
「はい。食べ終わってから、思ったんです。こんなに美味しい料理を作れる彼女をこのまま手放すのは、ギルドにとって大きな損失になると」
「だから雇ってくれと?」
「おっしゃる通りです。彼女はこのギルドの食堂がこれまで背負わされてきた、負のイメージを消し去ることができる、またとない人物です!」
なんか、とんでもないこと話してる気がするんですが。というか私、まだ半日も働いてないんですけど!?
「サラサ! 急にカエデさんを連れて行くなんて、どういうつもりなんですか」
パティさんも慌ただしい様子で部屋に入ってきた。
どうのこうも、私もイマイチよく分かってないです。
「どういうって……カエデを食堂に雇ってもらえないか、直談判しているところよ」
「カエデさんを!?」
「そうよ。カエデの料理、すっごく美味しかったでしょ? あんなに美味しいご飯を食べたのは、久し振りってくらいにね。だからカエデがいれば、また食堂が盛り上がるって思ったのよ」
おにぎり一つでここまで持ち上げてもらえるとは。そんなに衝撃的だとは思わなかったよ。
それにしても、背負わされた負のイメージだなんて、思ってた以上にワケありっぽいな。そんな場所にこれから就職するかもしれないってこと? マジで言ってる?
「カエデはどう? 食堂で働いてみる気はない?」
「へっ? あーえっと、それは……。でも私、この街に来たばかりで、仕事はおろか住む場所も身分を証明するものも、なにもないので……」
「そのことなら大丈夫。ギルドの職員になれば、職員の証明書も発行されるし、職員用の共同住宅もあるわ。私もパティも、そこに住んでるの」
どうしようそんなこと言われたら、めっちゃ悩むんですけど!
異世界に転生されてきて、まだ数時間。右も左も規則も世界観も分からない状態から、衣住食を確保できるのなら、すごくありがたい話ではある。今の私には、自分の身分を証明する手立てもないからね。
確かにね、料理するのは大好きだよ。それなりに作れると豪語はできる。でも異世界初心者の私が、こんな大きなギルドの食堂を立て直せるとは思えないよ!
「うぅ〜ん、私なんかがお役に立てるでしょうか?」
「そんな難しく捉えなくてもいいの。ただ、また食堂を利用してくれる冒険者が来てくれたらいいなって、軽く考えてもらえれば」
「サラサさん……」
それ、軽い考えで合ってます? ゼロからイチにするって、結構大変なことだと思いますよ?
「それになんとなくだけど、カエデの料理があれば大丈夫かもって思うのよ。パティもそうでしょ?」
同意を求められたパティさんが、少し考えるような仕草をしてから「はい」と頷いた。
「カエデさんの料理はとても美味しくて、心から感動しました。我儘になってしまうかも、とは思うのですが……カエデさんから、料理のことを色々と教わりたいです」
そんなこと言われたらもう引き返せないじゃないですかー!! そんな、ちょっと困り眉のかわいい顔で言われちゃったらさー!
いやでも普通の食堂じゃないんだよ? ギルドの! 冒険者も利用する! 食堂! だよ!? 下手なもの出しちゃった暁には、機嫌を損ねた冒険者に切り刻まれるとか魔法で炙られるとかされそうじゃん!
うわーうわぁあどうしよう! でもこのまま放り出されるのはもっとどうしよう!
「オーナーは、この者なら食堂を持ち直せると信頼できるか?」
「……はい、ギルドマスター。信頼に値すると、私も思います。ですが押し付けるのではなく、私も精一杯支えて、彼女の力になります」
あのちょっと待ってください本人目の前にして話を進めないでください。いや断るかどうかはまだ決めてないですけど、もう少し猶予をですね?
……なんて言える空気感じゃなくなってた。
連れてこられたギルドマスターの部屋が、しばしの静寂に包まれたあと。部屋主のギルドマスターである男は、一つだけため息をついた。
「いいだろう。そこまで言うのなら、止めはしない」
「それでは……!」
「ああ──カエデ、ギルドマスターとして命令を下す。今日からお前はこのターガイニのギルドの食堂で、料理長として働くように」
「はい……?」
突然の命令、急展開な出来事。
なにがどうなってるんですか?
「オーナー、あとは任せたぞ」
「はい。カエデさん、これからよろしくお願いしますね!」
「へ……?」
どうして急にこんなことになったのか。
私の頭は理解が追いつかないのでありました。
******
「ではこの書類にサインを」
「え、あ、はい」
ギルドマスターが契約書と、「新入職員証明書」と書かれてある書類を差し出してきた。
やっぱり目で見ると異世界語なのに、脳が日本語として訳してくれてる。変な感じだなぁ。
「あの、名前を書く前にちょっといいですか?」
「なんだ」
「一度、契約書を読んでもいいですか?」
「ああ、構わん」
許可をもらったことだし、契約書に目を通すことにした。こういうのはしっかり読んでおかないとね。
知らない間に違反してましたーだとか首を切られたとしても、名前書いたよねって自己責任にさせられることとか普通にあるもんな。
ちょっとブラック企業時代を思い出しちゃった……やめやめ。切り替え大事。えーっと、なになに……。
その一
【ギルドは国境を越えた組織である】
そのニ
【ギルド職員はギルドによって身の保障や証明が確立されている】
その三
【ギルド職員同士での問題にギルドは一切責任を負わない】
その四
【ギルド職員は冒険者を支えるためにその職務を全うすること】
その五
【冒険者の権利を侵害する行為は違反である】
その六
【冒険者の身体に害を及ぼす行為は違反である】
その七
【上記事項に抵触した場合は該当職員への罰則又は違約金が課せられる】
その八
【なお繰り返し違反を犯したギルド職員は強制退職を課せられる】
なるほど、つまり冒険者のためのサポート役になれってことだね。冒険者あってこその冒険者ギルドだから、当然っちゃ当然か。
特に問題なさそうだし、サインして大丈夫そう。
……というかなんか流れとはいえ、自然に職員になることを受け入れちゃってるな。まぁいいんですけどね。
雨風を凌げる場所とお金を稼ぐ場所が確立されただけでも、凄く幸運なことだもん。
若干というかかなり巻き込まれてる感は否めないけど、もうここまで来ちゃったからには、やるっきゃない。腹を括れ楓。




