第7話 美味しいご飯は時に人を狂わせる
もしかして、口に合わなかった? それとも素手で握ったのが嫌だったとか!? ヤバい、どうしよう……つい勢いとノリで作ったけど、潔癖症だったか先に確認するべきだった……!
「あの……パティさん? もし食べられないなら、別のを作り直し──」
「カエデさん! なんですかこれ!? すっごく美味しいです!!」
うわぉビックリした。突然叫んだパティさんは興奮しているみたいで、さっきよりも目をキラキラさせながらこっちに迫ってきた。
「これがカエデさんが教えてくれた、おにぎりっていう料理ですか!?」
「え? う、うん、そうだよ。今回は中身をなんにも入れてないけど、具材を入れる時もあるんだよ」
「なんということでしょう、おにぎりとはそんなに種類がある料理なのですね! でもこのままでもすっごく美味しいです!!」
「それはどうもありがとう……」
あまりの勢いにちょっと押されるんですが。ふるふると震えてるのに表情がキラッキラしてて、子供のように感動してるよ。初対面の時の、優しそうなお姉さんはどこへやら。
まぁ超可愛いからいいんですけど。
「しっかり形を保ってるのにライスがふわふわで、ちょっとしょっぱくて甘くて、今まで食べたライスの中で一番美味しいです!! ライスにこんな食べ方があったなんて……!」
「お気に召したのなら、なにより……」
「それにこの玉子も! こんなにふわふわでとろとろしてる玉子は、食べたことがありません! 味も濃厚なのに優しくて……なんだか安心します!」
「ただ塩を入れて焼いただけだよ」
「あとこの腸詰です! どうやったらこんなに食感が良くなるんですか? 薄い皮の中から、たっぷりの肉汁が口の中いっぱいに広がって、とても美味しいです!」
おぉう、まさかここまで完璧な食レポをいただけるとは。よっぽど美味しいのかな、一口食べるごとに感動しちゃってるよ。
でも良かった、気に入ってもらえて。美味しいって言ってもらえるのは、やっぱり嬉しいな。学生の頃を思い出すよ。友達にせがまれて色々作っては、食べてもらってたなぁ。
「なになに、どうしたの? そんなにはしゃいで」
お昼ご飯を楽しんでいたところに、サラサさんがやってきた。そっか、サラサさんもお昼ご飯食べに来たのかな。
「サラサ! カエデさんってすごいんです! お料理が上手なんです!! とても美味しいお昼ご飯をいただいてしまいました!」
ガタンッ、と音を立てながらパティさんが立ち上がって、興奮冷めやらぬと言った様子で捲し立てた。身を乗り出す勢いとはまさにこのこと。嬉しいけど、圧がすごいよパティさん!
ほらサラサさんもパティさんのあまりの剣幕に、ちょっと引いてるよ! 気持ちは分かる! だけどすぐ気を取り直したみたい。興味深そうに相槌を打ちながら、話しかけてきた。
「そんなに美味しいなら、私も食べてみたいな。今からでも作れる?」
「はい。材料はまだ余ってるので、少し時間を頂ければすぐに作れますよ」
「じゃあお願い。お腹減っちゃってね」
「わかりました。すぐに作りますね」
それからちゃちゃっとおにぎりセットを作って、サラサさんの前に出した。
「どうぞ」
「へぇ〜美味しそう。これはライスを固めたの?」
「はい。固めたというより、握ったって感じなんですけど。おにぎりっていいます。手掴みで食べてください」
「そんな風にライスを食べるのは初めてだわ。面白い料理ね。それじゃあ、いただきます」
おにぎりを一口食べたサラサさんが、さっきのパティさんのように固まった。すっごい既視感。
「えーっと……サラサさん?」
呼びかけても反応無し。なにかマズったかな、と思った次の瞬間。サラサさんは何かに急かされたかのように、勢いよくご飯を食べ始める。
おにぎりを食べては目を見開き、炒り卵を食べては感動の声を漏らし、ウインナーを食べては顔を綻ばせてる。一つ一つの動きが忙しなくて、呆気に取られるんですが。
というか美女がご飯をかきこむシーンを見ることになるなんて。品性の欠片もなく次から次へと貪る姿は、言っちゃなんだけど迫力がすごい。ギャップがありすぎてこっちの手が止まるって。
最後のおにぎりを食べ終わって、水をガッと飲み干したサラサさんが、ふぅーっと大きく息を吐く。とりあえず完食したってことは、美味しかったって解釈していいの、かな?
「あのぉ……」
どう声をかけたらいいのかな。というか、サラサさんが今どういう感情なのか、全く想像できないんですけど。
しばらく微動だにしなかったサラサさんだったけど、急に顔を上げたと思ったら手を掴んできた。
「ちょっとこっちに来て!」
「はい?」
「いいから、一緒に来て欲しいのよ!!」
「どこへ!?」
有無を言わさずってこのことかな? 質問に答える前にがっちりを手を掴まれたまま、サラサさんに引っ張られていく。
もしかして私なにかやっちゃいました!? といってもやったことなんて料理くらいだけですけど! あ、でもその前にスキルで塩作ったか。まさか、スキルで生み出したもので作った料理がアウトだったとか!?
「サラサ!? ちょっと待ってください!」
パティさんも慌てながら後を追ってきてる。いやこれどうしようなんて言えばいい? 素直に全部白状したら許してくれるかなぁ!?
あれこれ考えているうちに階段を登って二階に上がり、奥の方まで連れて行かれる。
もしかしてこれって、ギルドマスターの部屋に行くんじゃない? そんでもって私の所業を告発して、とっ捕まえるとか!? サラサさん、あんなに優しそうだったのにー!
「ギルドマスター! お話ししたいことがあります!」
勢いは止まらず、ノックもしないままサラサさんと一緒に部屋に押し入ってしまった。
「なんだ騒々しい。用がある時は事前に伝えろと言っているだろう」
低い声が奥から聞こえてきた。サラサさんの背後からちらっと見れば、そこには正統派イケメンなエルフの人が仕事をしていたっぽい。
てかサラサさんもパティさんも、この人もそうだけどさ、エルフの人の顔面偏差値たっっか。違う間違えた今はそんなこと考えてる場合じゃない。
「すみません。ですが火急の要件なので、お許しください」
「まぁいい。それで、話とはなんだ?」
「はい。折り入って、お願いがあります」
ああ〜〜終わった〜〜。これから告発されて捕まって、詰所に連行されるんだぁあ──。
「彼女を、このギルドの食堂で雇っていただけませんか?」
──ああぁ……え? 今なんて?
サラサさんが最初なにを言っているのか、理解するまでかなりの時間がかかったのであった。




