第6話 塩と米なら塩おにぎりでしょう!
一部始終を隣で見ていたパティさんが、首を傾げながら聞いてきた。やっぱり気になっちゃいますよね。
「これってなんですか?」
「これは塩っていう調味料で、しょっぱい味付けにする時によく使うものなんだよ。舐めてみる?」
はい、とボウルを差し出す。あんまりたくさん舐めると大変だから、少しだけだよとアドバイスを忘れずに。
興味半分恐怖半分って顔で、パティさんは塩を指につけて舐め、目をぱちくりとさせた。驚くとちょっと幼く見えてかわいいな。
「しょっぱいです……!」
「でしょ? 本当はもっとちゃんとした作り方があるんだけど、スキルで作ってみたんだ。ちゃんと出来ててよかった〜」
「なんだか面白いスキルですね。味付けをする物を作ることができるなんて」
本当にね。私だって特殊すぎるスキルだと思う。なんでこんなスキル持ちなんでしょうね、私。
「これでなにを作るんですか?」
「そうだなぁ。ひとまずおにぎりでも作ろうかな」
「おにぎり?」
「ライスを使った料理だよ。さて、早速始めますか」
まず、常温保管庫にあったライスを軽く洗う。そのあと洗った米を水に浸して、しばらく浸水させる。
ナーディアさんが言ってたように、この街のライスは国王に献上されるってこともあって、精米技術は高いみたい。日本で食べてたお米と遜色がないくらいに真っ白だし、扱いやすい! 異世界にいるのに、なんだか不思議な気分。
「これは、なにをしているんですか?」
「これは浸水って言って、お米に水を吸わせてるんだ。こうしておくと、炊いた時に粒の中まで柔らかくて、ふっくらとした仕上がりになるんだよ」
「そうなんですね。初めて知りました……!」
「絶対美味しいから、炊き上がりを楽しみにしててね」
じゃあ浸水してる間に、おかずでも考えよう。保管庫に何かあるかな。パティさんに教えてもらった、厨房内にある冷蔵保管庫(多分冷蔵庫のようなもの)の中を見てみる。
これ、氷魔法や風魔法を組み合わせて作られてて、ちゃんと手入れさえしていれば半永久的に壊れることはないとか、魔法ってホントすごい。
中には様々な食材があって、目利きのスキルを使いながら、何にするか悩む。
「えーっと……ランドチキンの卵? ああ、卵いいね! それと、このウインナーっぽいものもいいかも。よし決まり!」
この感じ懐かしい。ブラック企業に勤めてた頃はすっかり料理しなくなったけど、あれこれ考えて作るの好きだったんだよね。
それに土鍋でご飯を炊くのも久々だな〜。いつも炊飯器で簡単に炊いてたけど、こっちの世界にはなさそうだもんね。でも美味しいんだよね、土鍋ご飯って。
浸水させて真っ白になった米を水ごと土鍋に移して、中火にかける。中の水が沸騰して、ぐつぐつ音が聞こえてきたり鍋の蓋から湯気が出てきたところで、弱火にする。
このまま15分くらい経ったところで火を止めて、最後に蒸らしておく。
この間におかずを作ろっか。
ウインナー用に鍋に水を入れて、火にかけておく。沸騰するかしないかのところでウインナーを入れて、3分ほど茹でる。ウインナーが浮いてきたら、ザルに開けてお湯を切ったら完成。
そしたら次は卵に取り掛かりますか。
「とりあえず一人前が1.5個分ってことで、二人分で3つかな」
ボウルに割り入れたランドチキンの卵に、塩を少々。白身を切るように解きほぐしておく。
次にどんな仕組みか全く分からないけど、火にかけるだけで自動的に油が出てくるっていう、謎のフライパンを熱する。
中火にしたら、そこに溶いた卵を一気に入れる! フライパンに入れた卵の、じゅわあって音が堪らないね!
「いい音ですね」
「ちゃんとフライパンがあったまってる証拠だね。ここで素早くかき混ぜて、今回は大きめの塊がある炒り卵にするよ」
木べらで混ぜつつ、卵に火を入れる。完全に固まりきらない、半熟より少し硬めくらいのところで火を止めて、皿に盛る。その隣に、茹でたウインナーを添えておかずは完成!
「さてご飯はっと……おお、いい感じ!」
蓋を開けた瞬間、炊き立てご飯のほんのり甘い、いい匂いが顔にかかった。湯気の中から出てきたご飯は雪のように真っ白だし、一粒一粒がツヤツヤしてて美味しそう! 正直このままでも食べたい! やっぱり白いご飯はいいねぇ、見ただけでテンション上がる!
パティさんも、目をキラキラさせながらご飯を見てた。
「美味しそうです!」
「美味しいだろうねぇ。ここから一手間加えて、おにぎりにしていくよ」
ボウルに張った水に、塩を入れて塩水を作る。この時、塩はしっかりと溶かしておく。作った塩水で手を濡らしたら、熱いうちに一個分に取り分けたご飯を手のひらに乗せて、握っていく。
「あっつつ」
ぎゅって握っちゃうとお米が潰れるから、あんまり力を入れすぎず、だけど適度な力加減を忘れずに。
俵形もあるけど、やっぱりここは基本の三角型でしょう! ちょっと角が丸い感じの三角形にしたら、塩むすびの完成!
あとはおかずとは別のお皿に塩むすびを2個乗せれば、おにぎりセットの出来上がり!
本当は味噌汁なんかあれば完璧だったけど、味噌がないからね。そこは我慢。あと見た目が完全に日本の朝食だけど、そこはそれ。美味しければいいのよ。
「はい、出来たよ〜」
「わぁあ! すごいですカエデさん!」
「そんなに褒められると照れちゃうな。ここで食べる?」
「そうしましょう」
飲食スペースから椅子を持ってきて、ピッチャーに水と氷と輪切りにしたレモンを入れて飲み水を用意する。自分の分とパティさんの分をそれぞれ置いて、お昼ご飯の準備は整った。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
あ、挨拶はこっちの世界も同じなんだ。妙なところを気にしつつも、まずは塩むすびを食べる。
う〜んこれこれ! このふっくらご飯の柔らかさに、ほんのりとした塩味! 塩加減もちょうど良くて、それが炊き立てご飯の甘さを引き立ててるんだよね〜。
嗚呼、日本人のDNAに刻まれてるご飯の満足感が、ゆっくり満たされていく……。厳密に言うと今の私は異世界人だけど、そこはほら、細かいことは気にしたら負け。
それにしても、土鍋で炊いたご飯って炊飯器とは違った美味しさがあるよねぇ。ああ〜お米の美味しさが身に沁みるぅ……。知ってる味の安心感ハンパない!
「う〜ん、こっちも美味しい!」
玉子のふわふわしてとろとろっとした食感! 絶妙なしお味が、玉子のまろやかな美味しさを引き立ててる〜! ウインナーも皮はパリッと、そんでもって中から肉汁がぶわぁっ、でいい! 焼きもいいけど、ボイルの方が肉汁が溢れる感じがして好きだなぁ。
色々と美味しいのはあるけど、なんだかんだ、こういうシンプルなのがいっちばん美味いんだから。
そういえばパティさんずっと無言だけど、大丈夫かな。ちらっと前を見れば、パティさんはおにぎりを持ったまま固まっていた。




