表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/53

第5話 今こそスキルの使いどき

 奥から出てきたエルフの女性が、申し訳なさそうにサラサさんに声をかける。


「すみません、まだお昼ご飯の用意はできてなくて……」

「お昼までまだまだ時間はあるし、大丈夫。それよりも、今日一日この人を見てほしいのよ」


 サラサさんが私についてのあれそれを、簡単に説明してくれる。

 物は言いようで、職業体験させてみたらどうか、と提案されたエルフの人は快く承諾してくれた。ひとまず、放り出されずに済みそうでよかった。


「はじめまして、パティナーニと言います。みんなからはパティって呼ばれてます。よろしくお願いしますね」

「はじめまして、カエデです。今日一日、お世話になります」


 パティさん優しそうだし、確かにサラサさんが言ったとおり笑顔の可愛い人だ。この世界に来てから出会う人みんながいい人そうなのは、運がいいな。


「それじゃあ、私は仕事に戻るから。あとお願いね」

「わかりました」

「サラサさん、色々とありがとうございました」

「うん。カナデもがんばってね」


 そう言ってサラサさんは自分の仕事場に戻った。

 それを見送ったパティさんが、それじゃあ、と奥へ案内してくれた。


「ほぇ〜……」


 案内された場所は厨房だった。

 現代にあるようなステンレス製の調理台はないけれど、綺麗に整えられている鍋や調理器具がたくさんある! 木製の調理台も綺麗だし、なにより本格的な石窯があるのがいい!! 大きさも見たことのないスケールでテンション上がる!

 残念なことに火は焚べられてないけど、ああいう石窯で焼いたパンとかピザとか、絶対美味しいに決まってるよね……!


 でも、なんだろう。ちょっと違和感がある気がする。こんなに綺麗で手入れが行き届いているのに、何かが足りないような……?


「見ての通り、ここはギルドの食堂です。前はもっと従業員もいたんですが、今は私一人で回してるんです」

「そうなんですね。やっぱりここに食べに来るのって、冒険者の人たちなんですか?」

「ええ。依頼に出発する前とか、依頼完了後によく食べに来てくれました。今はもうギルド職員も含めて、ほとんど来ないんですけどね」


 飲食スペースらしい場所は暗かったし、もしかするとって若干思ってた。サラサさんも場所はワケありって言ってたしね。

 もしかして、困らせちゃったかな。話を聞いた内容的に、気軽に深掘りしちゃいけない気がしちゃった。


「なるほど……。すみません、失礼なことを聞いて」

「いえ、気にしないでください。それと、そんなに堅苦しくしなくても大丈夫ですよ。どうぞ気楽に接してください」

「わかりまし……わかった。じゃあ、遠慮なく。それでパティさん、これから何をしたらいいかな?」

「そうですね……。それじゃあ、テーブル拭きと床掃除をお願いしてもいいですか?」

「了解!」


 そうして私の職業体験がスタートした。

 懐かしいなぁ。テーブル拭きとか床掃除とか、レストランや定食屋でバイトしてた頃を思い出すよ。調味料が少なくなってたら足したりとか、メニュー表を拭いたりとかもしたなぁ。


 それにしても、テーブルもピカピカだし床もホコリひとつ落ちてない。誰も来ないかもしれないのに、いつも綺麗にしてるんだろうな。パティさん、よっぽどここが好きなんだね。


 それから、あれやこれやと仕事をしていくうちに、あっという間に時間はお昼近くになった。


「そろそろお昼ご飯の準備をしなきゃいけませんね」

「パティさんがいつも作ってるの?」

「はい。ですが……お恥ずかしい話、私そんなに料理が得意じゃなくて……」

「そうなの?さっきお昼ご飯の用意ができてないってサラサさんに言ってたから、てっきり作れるものかと……」

「私が出来るのは物を焼くくらいでして。でも火加減を間違えて、せっかくの食材も無駄にしてしまうこともあって……」


 あ〜強火で焼けば時短になるってやつかな。

 そういうことなら、ちょっとお願いしてみようかな。


「それなら、ここを貸してもらえるなら私が作ろうか?」

「カエデさん、料理ができるんですか?」

「うん。作るのも食べるのも好きなんだ。だからある程度のものなら作れるよ」

「そうなんですね! そういうことでしたら、自由に使ってください。あと……料理するところ、見てみてもいいですか?」

「もちろん。じゃあお言葉に甘えて、お借りするね」


 よし、許可ももらったし久々に料理しますか!

 一通りの調理器具はあるし、鍋もフライパンもちゃんとあるね。コンロは魔力を流して使うタイプのやつで、使い方もさっき教えてもらったから大丈夫。

 水道もあるし、そこから水もお湯も、なんと海水まで出せるのは驚きだよね。ちなみにちゃんと浄水されてるから、衛生面も問題なし。

 あとは調味料を……あれ?


「ねぇパティさん。ここって調味料はないの?」


 ここに入った時に、何か足りないって思ってた違和感の正体がやっと分かった。ここの厨房、料理において欠かせない調味料の類が全くない! 


「チョウミリョウ? って、なんですか?」


 うそ、もしかして調味料が存在しない!?


「調味料っていうのは、料理に味付けする時に使うものだよ。たくさん種類があるんだけど……」

「ああ、なるほど。そういった類のものは、ここには存在していないんです」

「存在していない!? じゃあ味付けとかはどうしてたの?」

「それは料理が出来上がった後に、効率がいいからと魔法で加護と一緒に付与していました」

「魔法で!?」


 驚きの連続なんですけど。というか、今さらっと加護って言ったな。さすが魔法、便利すぎるでしょ。

 パティさんいわく、出来上がったそれぞれの料理に合う味になるよう魔法をかけていた、とかなんとか。一種の幻覚魔法のようなものらしくて、味付けをしていないのに確かに味を感じるって、なんじゃそりゃ。


 魔法を使うのは確かに効率はいいんだろうけど、なんか味気ないし、なによりそんなの料理って言えないよ。やってることほぼ詐欺じゃん。


「じゃあ塩もないんだ……。……ん?」


 塩? ……あれ、待てよ?

 もしかしてだけど、ここでなら使えるんじゃない? あのスキルが! 物は試し、やってみるか! そうと決まれば、早速準備しよう。


 まず大きめのボウルを用意して、海水をたっぷり注ぐ。どれくらいの量ができるか分からないけど、多いに越したことはないよね。

 パティさんは何をするんだろうって顔をしながら、こっちを興味津々に見ている。といっても、今作ろうとしてるのはご飯じゃないんだけどね。そこはごめん。


「スキル発動!」


 調理台に置いたボウルに手をかざしながら、試しに口上なんかを口に出してみる。こういうの、一度はやってみたいじゃん?

 ヴォン、という音がした後にレシピ一覧の画面が表示されて、塩のイラスト部分がふんわりと明るく光っていた。光ってるってことは、材料があると判定されてるってことでいいのかな? イラスト部分を押すと、こんな画面が出てきた。



 [ 製造しますか? ]

[ は い ] [ いいえ ]



 これってつまり、塩が作れるってことだよね!? もちろん[はい]を選ぶ。するとボウル全体が光に包まれた。ちゃんとスキルが発動したんだよ、ね? ちょっと不安。

 そして数秒してから、ふわっと光が消えたボウルを確認した。


「おお〜……!」


 中身が海水から変わってる! この真っ白な見た目と、触った時のざらざらっとした感触。完全に塩そのものじゃん! 

 それで肝心の味は……うん、しっかりしょっぱい。ちゃんと塩だこれー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ