第4話 話の流れで冒険者ギルドに来ました
ハルバラドさんたちと話している間に、ナーディアさんは目的のものを見つけたみたい。あったあった、なんて言いながら小さな皮袋を取り出して、受付に置いた。
「はいこれ、達成証明のイービルバグのツノ片10個。確認お願いします」
「承りました。──はい、確かに。ではこちらが依頼達成の報酬金、銀貨20枚になります」
「ありがとうございます」
「今後ともよろしくお願いします。……っと、そちらは新人さん?」
受付嬢と目が合う。話からしてシガロウさんたちとは顔馴染みだろうし、そんなパーティに知らない人がいたら、そりゃ気になるよね。
「ああいや、彼女はカエデ。住んでいた村から街に引っ越そうとしてたんだが、魔物に襲われかけていてな。それで俺たちが間に入って、一緒にここまで来たというわけだ」
簡潔な説明をありがとうございます、シガロウさん。一礼してから自己紹介する。
「カエデです。よろしくお願いします」
「はじめまして。ターガイニのギルドの受付嬢、サラサよ。危ないところを助けてもらえて、よかったわね」
「はい。シガロウさんたちには、何から何までお世話になっちゃって……。本当に助かりました」
「ねぇ、カエデも冒険者にならない?」
他愛無い世間話をしていたところに、とんでもない提案がぶっ込んできたんですけど。
「え?」
「こらナーディア、勝手なことを言うな。カエデの迷惑になるだろう」
「だってせっかく知り合いになれたのに、ここでお別れなんて寂しいんだもん。ねぇカエデ〜」
ナーディアさんが、おねだりする妹みたいにじゃれついてくる。見た目より幼く見える仕草はイヤじゃないし、とても可愛らしいけど……。
「ごめんなさい、ナーディアさん。私、冒険者になる予定はないんです。戦い方なんて知らないし、そんな勇気もないし……」
「カエデ……」
「さっきみたいに魔物に襲われても、なにもできないし。それに、やっぱり怖いし……。せっかく誘ってくれたのに、すみません」
素直に白状しても、ナーディアさんは怒らなかった。むしろ眉を下げながら、謝ってきた。
「ううん、アタシの方こそ。怖い思いしてたのに、全然気遣ってあげられなくて、ごめんね」
「いえ。声をかけてくれたのは、嬉しかったです」
「うん。……じゃあサラサさん。カエデをここで雇ってもらえたりなんて、出来ないかな?」
ナーディアさん次はいったいなに言ってるんですか。ほら、サラサさんも予想外の話に苦笑しちゃってるじゃないですか。
「うーん。うちは冒険者ギルドであって、お仕事紹介場じゃないのよ?」
「でもでも、カエデはやっと街に来れたのに、右も左も分からないんだよ。なのにこのまま放り出してサヨナラ〜は、やっぱりできないよ……!」
ナーディアさんの提案に、そういうことならと、他の車輪の暁の人たちも話に乗ってきた。
「業務外のことだとは私たちも理解しています。ですがせめて、今日一日だけでも彼女をギルドで見てもらえないでしょうか?」
「お願いしますよサラサさん!」
「俺からも、頼めないだろうか?」
あっという間に、車輪の暁の人たちが次々にサラサさんにお願いしている。ここまで親身になってくれるだなんて、いい人たちにも程がありすぎる……!
でもさすがにここまで来ると、逆に申し訳なくなってくるよ!
「あのみなさん、そこまでしてもらうわけには……!」
「でもカエデ、このあと一人になっても大丈夫なの?」
「ゔっ、それは……」
そこを突かれると痛い。本音を言うと大丈夫なわけがない。ようやく街に着いたはいいものの、この先のことなんて全く考えてなかったんだから。
仕事をするにも住む家を見つけるにも、何から手を出していいのかやら。街に一人で放り出されたら、絶対に何もできないと思う。
サラサさんも、一応は考えてくれてるみたいで、うーんと唸っている。少ししてから、なにか思いついたのか、分かったと呟いたのが聞こえた。
「まぁ……シガロウさんたちの頼みなら、仕方ない。分かりました。彼女のことは、こちらで引き受けましょう」
「やったぁ! ありがとうサラサさん!」
「えっと……」
当事者抜きで話が盛り上がるの、なんか少し前も見たなこれ。デジャヴかな。
どう声をかけるべきかなと考えていたら、手持ち無沙汰だった手を握られる。
「本当はもっと一緒にいたかったけど、アタシたちこの後まだ色々と予定があって。放置するようなことしちゃって、ごめんね」
「ナーディアさんたちが謝ることなんて、なにもないですよ! 色々と助けてくださって、本当にありがとうございました」
「この街に住むならまた会えるから! 絶対にまた話そうね!」
にこやかに笑うナーディアさんにこれ以上謝ったら、むしろ悪いかな。同じように笑えてるか自信はないけど、笑顔で返事をした。
「はい。また絶対に会いましょう」
「達者でな、カエデ」
「シガロウさんたちも、お元気で」
にこやかに手を振りながら、車輪の暁の人たちがギルドから出て行った。
残された私に、それじゃあとサラサさんが声をかけてきた。
「仕事場に案内するわ。着いてきて」
「はい」
サラサさんの後をついていくと、あの薄暗い空間にたどり着いた。少し気になってはいたけど、こんなに早くに来るとは思わなかった。
ワケありって場所にしか思えないんですけど……大丈夫なのかな。
「さすがに受付嬢の仕事は任せられないから、今日はここで働いてね。場所は少しワケありだけど、中にいるのはとてもいい子だから」
「はぁ……」
「あ、やっぱり不安?」
「まぁその、少し……」
「あはは。大丈夫大丈夫! 別に厄介払いさせたくて連れてきたわけじゃないんだから。そこはギルドの受付嬢として保証するわ」
からから笑うサラサさんが、慣れた様子で中に入っていく。
中は薄暗くはあるけど、汚れているだとか物置き場とかではなかった。そこにあったのは、綺麗に並べられた長テーブルに木製のイス。カウンター席のようなものに、大きな仕切り棚。少しだけ見覚えのあるような、見たことのない作り。
もしかしてここ、食堂だったのかな。
「ここにいる子は私の同僚で友人なんだけど、もうずっと一人で働いてるんだ」
「ここに一人で、ですか?」
「うん。だからってわけじゃないんだけど、よければ話し相手になってあげてほしいんだ。おしゃべりも好きだし、なにより可愛いしさ」
話の内容から察するに、サラサさんはその人をすごく心配してるんだろうな。気にはしているけど、受付嬢として働いてる間は、身動きできないんだろうし。
そんなところに冒険者でもない私が来たんだから、ちょうどいいって思ったのかも。私としても変に放り出されるよりかはマシだから、いいけどね。
「パティ〜、いる〜?」
カウンター越しにサラサさんが呼びかけると、奥の方から返事が聞こえてきた。
「はーい、今行きまーす」
軽い足音がだんだん近付いてくる。やがて出てきたのは、綺麗なブロンドと紫色の瞳が特徴的なエルフの女性だった。




