第51話 揚げたてカレーパンは至高の逸品よ
今日はビリスにとあるパン生地を作ってもらってて、今ちょうどベンチタイムが終わったところだ。
カレーを作れるようになった今、アレを作らないワケにはいかないよね。
惣菜パンの中でも一番人気の、カレーパンを!
カレーを作った時に、こっちも食べたいなーって思ってたんだよ。揚げたてカレーパンなんて、絶対美味しいに決まってるんだから!
だから昨日のうちに、ビリスに作ってみないかって言ってみたんだよね。そしたら即答で作るって答えてくれた。
こっちの世界じゃ、パンを揚げるって発想がなかったらしくて、興味あるんだって。
パンの中に包むカレーは、朝のうちに仕込んでおいたから、しっかり冷えて固まってる。これなら中に包みやすい。
準備が整ったし、包んでいこう!
「それじゃ、まずは生地を伸ばしてカレーを包む準備をするよ。だいたい……これくらいかな?」
「なるほどな。てことは……こんな感じか?」
「そうそう! そしたら中心にカレーパン用のカレーを乗せて、生地を引っ張りながら包んでく。あんまり薄すぎると、生地が破けるから注意ね」
和菓子職人が、饅頭を作る時にやるあんこを包む作業は憧れるけど、慣れが必要だもんなぁ。こっちの包み方なら簡単だし、ポイントさえ気を付ければ失敗しないから安心だね。
「で、包んだら生地をしっかりと綴じる。そうしないと、揚げる時に中のカレーが漏れ出て大変になっちゃうからさ」
「了解だ。それにしても、まさか油で揚げて作るパンがあるとはな」
「焼きカレーパンってのもあるけど、やっぱりカレーパンといえば揚げたヤツが一番だよ。こんな感じで楕円形にしたら、閉じ口を下にしてね」
お手本を見たビリスも同じようにカレーを包む。
初めてなのに、凄く綺麗な仕上がりになってるよ。やっぱりセンスがいいね。
それから二人して黙々とカレーを包んでいって、ラストの一つをビリスにお願いする。
「よし、と……。これで全部か?」
「うん。本当に初めてやったの? 私がやるより綺麗じゃん」
「そりゃあオメェ、オレはパン職人だぜ? やっていくうちにコツも掴んだし、こういう作業は嫌いじゃないからな」
「さすが一流は格が違うねぇ。そしたらこれにパン粉をつけて、最後の発酵をしたら揚げてくよ」
魔法で水を霧状にしたものをパンにかけて、ボウルに入れておいたパン粉の中に入れる。水をつけてパン粉をくっつきやすくするためね。
そして両面にたっぷりパン粉をまぶしたら、天板に移していく。全部やり終えたら、最終発酵!
「どんな味になるんでしょう。すごく楽しみです」
「オイラも楽しみ〜。まさかカレーがパンに合うなんて思わなかったよ」
「楽しみにしててね。特に揚げたてなんて、すっごく美味しいんだから」
「もしかしてだけどよ、カレーパン以外にもこうやって何か包んで焼いたりするパンって、あるのか?」
お、そこに気付くことができるとは。さすがビリス、新しいパンへの探求は止まないねぇ。
「あるんだなぁこれが。カレーパンは辛い系だけど、甘いものを包んで焼くパンとかもあるよ。また今度の機会に作ってみようか」
「頼むぜ。新しいパンを作るの、結構楽しみなんだぜ?」
そうやって色々と雑談してるうちに、あっという間に最終発酵の時間が終わる。
天板を取り出せば、ふっくらと膨らんだぷるぷるのパンたちが姿を見せる。うん、カレーが漏れ出てる箇所もないし、ばっちりだ!
さて、私も油の準備をしなくちゃ。揚げ物鍋に油を入れて、170℃くらいになるまで温める。確認用のパン粉が、ジュワッと全体的に広がったのを見届けたら、カレーパンを油へそっと投下!
このシュワァアアって音の聞き心地、最高……! ずっと聞いていたい……!
っと、危ない危ない。このままだと焦げちゃうから、火加減を弱火にしておくのを忘れずに。ゆっくりじっくり揚げていかないと。
それから大体5分前後くらい揚げれば、パチパチって弾けるような音に変わった。カレーパンもさらにぷっくりと膨らんで、いいきつね色になったところで、完成だ!
んん〜! このスパイシーなカレーの香りと、小麦の香ばしい香りのマリアージュ、たまらないよ!
ちら、とみんなの方を見れば、全員一様に目を輝かせちゃってるし。
わかるよ、このお宝のようなカレーパンに、今すぐにでもかぶりつきたいよね。カレーパンは揚げたてこそ至高なんだから!
でも食べるのは、カレーパンを全部揚げてからにさせてね〜。
それから数分かけてカレーパンを揚げ終わらせて、いよいよお待ちかねの試食タイムだ!
「みんなおまたせ! カレーパン食べよ! 今日は一人一個ずつで! あ、火傷には気を付けてね」
「ありがとうございます。では……っ、あっつい! でも、すごく美味しいです!」
「わかる! 外はザクザクなのに、内側はふっくらでおいひい!」
「カレーの辛さとパンの甘さが美味い! 確かにこれは、揚げたてが一番だな」
どれどれ、私も一口。
揚げたてで、まだ熱さが残ってるカレーパンを手に持つ。そこから漂ってくる、食欲を刺激してくるスパイシーなカレーの匂い。
もう待ってられない! たまらずかぶりつく。
っん〜〜! 表面のザクザク感と、内側のふんわり感が絶妙! 生地は思ったより軽くて、すごく食べやすい! 揚げたて最高〜!!
中に包まれていたカレーも熱でとろけて、甘さもあるけど辛さの方が優ってる風味が、口の中に一気に溢れ出すよ!
とろとろでふわふわで、軽いのに食べ応えがあって、あっという間に一個食べちゃった。
「美味しかったぁ……!」
「本当に美味しかったです。カレーって、すごいんですね!」
「凄いよね、カレー! オイラこれ大好き!」
「こんな美味いパンがあるなんてな。これは冒険者たちにも人気が出そうだぜ」
そうだよね、きっとそうだと思う。試しにこれも試食に出してみようかな。
なんてことを考えてたら、誰か来たみたい。パティさんの声で、飲食スペースを見てみたい。
「副ギルドマスター。お疲れ様です」
「ええ。お疲れ様です、みなさん」
優しい口調で話しかけてきたこの人は、この冒険者ギルドの副ギルドマスター、アルムさん。
人間族のヒトで、かつてはギルドマスターのシルトさんと同じパーティに所属していた人なんだって。
たまに食堂でご飯を食べてくれるヒトでもあって、懇意にしてくれてるんだよね。なんか用事があるのかなって思ったら、書類を届けに来てくれたみたい。
「パティに書類を届けに来たのですが、とてもいい匂いがしますね。これは、カレーの匂いですか?」
「はい。実はカレーを使って、カレーパンっていうパンを作ってみたんです。出来立てなので、よろしかったらアルムさんもお一つどうですか?」
「それはありがたい。では、一ついただけますか?」
揚げたてカレーパンを乗せてるバットを持って、アルムさんに差し出す。アルムさんもカレーパンを一つ手に持って、香りを楽しんでから一口食べた。
「これは、とても美味しいですね。カレーの辛さを、パンの甘さが柔らかく受け止めている。こんなに美味しいパンははじめてですよ」
「ありがとうございます。ビリスと一緒に作ったんですよ」
「なるほど、さすが獣人一のパン職人ですね。これからも食堂のパンをよろしくお願いしますよ、ビリス」
「もちろん。オレを誘ってくれた料理長のためにも、頑張ります」
私のためなんて、嬉しいこと言ってくれちゃって。
でも支えられてるのは、私の方なんだよな。ビリスはもちろん、パティさんにもボナくんにも、たくさん助けられちゃってるもん。
「あの、カエデさん。よかったらこのカレーパン、ギルドマスターにも食べてもらいませんか?」
「ギルドマスターにも?」
「はい。ここのところ、お忙しそうですし……。ゆっくりご飯を食べられていらっしゃるか、少し心配で」
なるほどね。確かにここ数日、ギルドマスターが部屋から出てない気がするもんな。パティさんが心配するのも、そりゃ当然か。
「そうだね。これなら片手でも食べられるし、いいよ。アルムさん、いいですか?」
「ええ。自分からギルドマスターにお渡ししましょう。二、三個もらえますか?」
「はい、大丈夫です。今用意しますね」
それからお皿にカレーパンを盛って、アルムさんに渡す。アルムさんも書類をパティさんに渡して、お皿を受け取ると仕事場へ戻った。
さーて。無事にカレーパンも作れたことだし、今日もお仕事頑張りますか!




