第49話 ギャルの冒険者から注文を受けました
「魔物って、そういう存在だったんだね」
「案外知らない冒険者も多いんだよ。うちは親父がオーガだから、ちっちゃい頃に教えてもらってたんだけどさ」
グッちゃんは話しながら、あっという間におにぎりセットを完食した。見事な食べっぷりだ。
「どうして知らないの?」
「んー、知ろうとしないからじゃないかな?」
「そういうもん?」
「多分ね。ほら、冒険者って魔物を狩ってお金にするじゃん? お金になるモノは知ってても、お金そのものがどうやって出来るかなんて、興味がなければ調べないだろうし」
あーなるほどね。なんとなく意味はわかった。
魔物はお金になるけど、魔物がどうやって生まれるかなんて、大抵の冒険者からしたらどうでもいいってことか。
言葉は悪いけど、余計なことを考えてる余裕があるなら、依頼をこなした方が色々と効率がいいんだろうね。
「このことを知ってるのは、よっぽど魔物の生態に興味があるか、勇者くらいじゃない」
「勇者? 冒険者じゃなくて?」
「そーそー。この世界のお伽話なんだけどさ──」
グッちゃんが教えてくれたのは、この世界に古くから伝わるというお伽話だった。
『二つの月の魔力が大地に災いをもたらす時、遥か先の異世界より召喚された勇者が現る』
『かの勇者は光の剣を携えて、世界を巡り人々を闇から救った』
『そして降り注ぐ災いを悉く打ち砕き、世界に安寧をもたらす』
なんともありがちなお伽話だけど、この世界の幼子たちの教育にはよく使われる題材なんだって。
グッちゃんも昔聞いたお伽話だ、とは言うけど。私には引っかかる点があった。
異世界より召喚された勇者。
これってつまり、勇者は自分が元いた世界から、異世界に転移か転生されたってことだよね。
最初からこの世界に勇者が存在するなら、そんな風に回りくどい言い方はしないはず。
それにこの世界には、日本と同じダイズがある。あれも目利きのスキルの説明によると、異世界より持ち込まれたって記述があった。
だから少なくとも、この世界に過去に日本人がいたのは確定してるんだよね。
これらを考えると、今聞いたのはお伽話なんかじゃなくて、案外実話だったりするのかも。
私は日本で死んだけど、神様によって魂がこの世界に転生した。もしかして勇者も、似たような方法でこの世界に召喚されてたりして。
「グッちゃんは、勇者はいるって思う?」
「そうだな〜。いたら面白そうだよね。お伽話が本当は実話でしたって、テンション上がるじゃん?」
なんともポジティブな考え方だぁ。底抜けに明るいギャルって色んな意味で強いね。
「ふぅ、満足満足! ごちそうさまでした!」
「おそまつさまでした。一人で四人前のセットを完食しちゃうなんて、グッちゃんがはじめてだよ」
「うちは燃費悪いからねー。食べたら食べた以上に、力を使っちゃうからさ。依頼も基本的にソロでしか受けないし」
「そうなの? てっきりパーティに所属してるのかと……」
意外や意外。
こんなに親しみやすいのに、一人行動が多いとは。
「ううん、うちはソロ。自慢じゃないけど、うちって親父譲りの怪力持ちなんだよね」
ああ、やっぱりそうなんだ。
大の男が両手で使うような斧だもんね、その武器。
それを細身のギャルが軽々扱えるんだから、なにか理由があるんだろうなぁとは思ってたよ。
「魔物を狩るのには役に立つけど、力が強すぎて他のメンバーに余波が行くことがあってねー……」
「ああ〜……」
「やっぱさ、仲間は傷付けたくないじゃん? うちの怪力にパーティを巻き込みたくないから、うちはソロで冒険者やってるってワケよ」
なんだこのギャル他人への気遣いまで出来るとか、完璧じゃん。もはや聖人レベルじゃん。やだ好き。
「実は過去に何回かやっちゃってさぁ〜。そういう意味でも、うちは冒険者に恐れられてるんだよね」
「それはなんとも、災難だったね」
「でもさ〜。二つ名をつけるにしても、もうちょっとカワイイのがよかったし! 同族殺しって名前怖いじゃん! もう気にしてないけど!」
「確かに、女の子に対して同族殺しはねぇ……」
被害に遭われた冒険者は気の毒だろうけど、こんな素敵ギャルに『同族殺し』は似合わないよほんと。
「まー暗い話はやめにして。ちょいとカエっち、お願い聞いてくれる?」
「お願い?」
「難しいかなーって思ったけど、こんなに美味しい料理が作れるなら、イケるかもって思ってさ」
なんかこのやりとり、ちょっと覚えがあるぞ。
あれだ。イグニスさんの時と同じで、なにか作って欲しい料理があるんだろうね。
「なにか作って欲しいものがあるってことかな?」
「話がはやーい! そうなんだよ、うち食べてみたいものがあるの」
「ある程度は作れるとは思うけど……どんなの?」
「ガチ? なら、複雑な味がする料理をお願い!」
おっとぉ。かなりアバウトな注文が来なすった。
複雑な味? どういう意味!?
「複雑な味って、例えばどんな感じの?」
「そうだな〜。辛いけど甘いとか、苦いけどコクがあるみたいな?」
「なるほど?」
「うちね、食べたことのない料理を食べるのが趣味なんだ。だから冒険者になったみたいなもんだし。カエっちが作る料理って見たことないし美味しいから、きっとそういう料理も作れるんじゃないかなーってさ!」
そういうことね〜〜。
うーん、どういう料理がいいかな。ちょっと考えてみますか。説明聞いたら、概要もそれとなくわかったし。
「わかった。もしかしたら少し時間はかかるかもしれないけど、考えてみるよ」
「ありがとー! しばらくはここの街にいるし、食堂にも通うから、もし完成したら教えて! 無理言ったけど、できなくても大丈夫だからね」
こっちの気遣いまでできるとか優しすぎる!
これは逆に私が燃えてきた。
「ありがとう。冒険者を支えるのは、ギルド職員の責務だからね。頑張ってみるよ」
「頼もしーい! それじゃあ、これお金ね。ごちそうさま!」
「うん、確かに。それじゃ、いってらっしゃい」
「いってきまーす!」
元気いっぱいに食堂を出るグッちゃんを見送る。
(ちなみに斧は片手で担いでたよギャルつよい)
新しい注文もらっちゃったことだし、食堂が落ち着いたら調味料を出して、料理を考えてみるとしますかね。




