第47話 謝り方って大事だよね
青空のブーケの子達の話は、まだ続いた。
「中堅の冒険者パーティから詰められたオレたちは、改めてこの食堂のことを聞きました。先輩たちから聞いてた話と全く違ってて、正直めっちゃ驚きました」
「それにあたし達この食堂に対して、凄く迷惑なことをしてたんだって思い知りました」
「それでパティさん……オーナーに、謝りに来たってこと?」
「はい。本当に、ごめんなさい……!!」
そう言ってさらに深く頭を下げる青空のブーケの子達。謝罪の様子を見守っていたパティさんが、口を開く。
「そういうことだったんですね。大丈夫ですよ、わかり──」
「ちょっと待った」
正直こうなるだろうなって思ったよ。パティさんは基本的に人がいいから、謝られたら許しちゃうんだろうなってさ。
でもそれでハイ終わり、じゃあこの子達のためにもならないと思うんだ。だからちょっと、割り込みさせてもらうね。
「どうしたんですかカエデさん?」
「ごめんね、話に割り込んで。今の話を聞いて、ちょっと言いたいことがあってさ。いいかな?」
「それは、かまいませんが……」
パティさんの許可ももらったし、嫌な役モードに切り替えますか。
思い出すだけで吐きそうになるけど、ブラック企業に勤めていた時のお局ババアを思い出しながら……っと。はーーっ、しんっどいけど我慢我慢。
「きみ達の言いたいことは分かった。だけど今の話を聞く限り、処分が怖いから謝りに来たって思っちゃうんだよね。パティさんは分からないけど、少なくとも私はそう感じたよ」
「いや、そんなことはないです!」
「だったらなんで話したの? 先輩たちがパーティ解散と冒険者ブラックリスト入りの処分を受けたって言ったけど、それって食堂にはなんの関係もないよね?」
「それは……」
ああぁ、心が痛む。正直ね、こんなこと言いたくないよ!?
新人冒険者でまだ初々しい子達に、冒険者でもない私が説教なんて、お門違いにも程があるよ! そんなの分かってるって!
でも損な役回りだってのは重々承知だけどさ、たとえ嫌われても言わなきゃなって思ったんだよ!
謝罪する時に変な言い訳すると、かえって印象が悪くなるって!! 責任逃れしてるように見えちゃうからさ!
「嫌な言い方して申し訳ないんだけどさ。その話を聞いた上で謝罪されたところで、本心じゃないんだろうなって思った。謝る態度だけ見せて許してもらえれば、あとはどうでもいいってね」
「違いますっ。わたくしたちは、本当に心から謝罪をしたくて……!!」
「たとえそうだとしても、謝罪する時に余計な話はしない方が身のためだよ」
ビシッと断言すれば、青空のブーケの子達はすっかり黙り込んじゃった。いや本当にごめんよ。
「まずは誠心誠意謝罪の言葉だけを述べて、相手の返事を待つ。それから理由を正確に説明しなきゃ。じゃないと、伝えたい思いも曲がった解釈をされるときだってあるんだから。今の私みたいにね」
こう言えば、ちょっとは分かってくれるかな。
この子達が根っからの悪者じゃないのは、私でもなんとなく分かるよ。
だからこそ、この子達の将来的にも、矯正できるならそうしてあげた方がいい。
少ししてから、リックスが口を開いた。
「……はい。言い訳みたいになっちゃって、本当にごめんなさい」
「あたしも、ごめんなさい」
「本当にごめんなさい」
「はい、ごめんなさい」
「余計なこと言って、ごめんなさい」
うん、やっぱりいい子達だね。自分たちのしたことを、ちゃんと正しく理解してくれたっぽい。
これならもう、大丈夫そうだね。
「あのね、知らないことがあるのは別に悪いことじゃないよ。きみ達は冒険者としては新人だし、分からないことも多いと思う」
「はい……」
「だけど、知らないからってなんでもかんでも勝手に言っていいってワケじゃない。物事には色んな事情があるんだからね」
「わかりました。気を付けます……」
これ以上はやめよう。十分分かってくれたもんね。
それに私も、イマジナリーお局ババアを演じるのも限界だわ。精神的な疲労がヤバい。
「さてと、私は言いたいことは全部言ったよ。パティさんも言いたいこととかある?」
「そうですね……。では、少しだけ。まずはみなさん、頭を上げてください」
パティさんに言われて、青空のブーケの子達がおずおずといった様子で、顔を上げた。まだ不安そうな表情をしてるね。
「確かに、あなた達がしてきたことは間違ってます。ですが真実を知って謝ろうと思ったこと、そしてそれを行動に移してくれたことは、正しいと思います」
そうだね、それはそう。謝らないヒトもいる中で、この子達はちゃんと行動した。それは評価するべきだよね。
「だから私は、あなた達を許しますよ。その代わり、一つ約束をしてください。これからは、一つの情報で物事を勝手に決めつけないって」
「わかりました……!」
「真実を見極める能力は、冒険者にとって必要ですからね。これでも私も、元冒険者でしたから」
そうなんだ!?
全然知らなかったよ。パティさんって、元冒険者だったんだ……!
そういえば私って、パティさんのこと詳しくは知らないんだよね。元冒険者だってのも、今知ったし。
いつかパティさんに、そこら辺のこと聞いてみようっと。
「はい。本当にすみませんでした!」
「もう十分伝わりましたから、謝らなくても大丈夫ですよ」
パティさんの言葉を聞いて、青空のブーケの子達にもやっと笑顔が戻ってきたね。これにて一件落着って感じかなって、思ったら──。
くきゅうぅ……。
なんて、誰かの腹の虫が切なく鳴いた。
犯人は誰だろって思ったら、リックスが顔を真っ赤にして俯いてた。パーティのメンバーも、苦笑しながらリックスをからかっちゃってるよ。
きっと安心して、お腹が空いたんだな。
「それじゃあ、話もまとまったことだし。どう? なにか食べて行かない?」
「いいんですか?」
「もちろん。ここはギルドの食堂なんだから。もちろん、ちゃんとお金は貰うけどね」
「それじゃあ、食べたいです!」
そうこなくっちゃね。
青空のブーケの子達に食堂で出してるメニューについて説明して、注文をとる。料金について説明したら、大層驚かれたよ。
これなら自分たちでも十分に払える! って。銅貨五枚って、いい塩梅だったんだな。
オーダーはおにぎりセットが三つとパンセットが二つだ。用意するために、パティさんと一緒に厨房へ戻っていく。
「ごめんね、変にしゃしゃり出ちゃって」
「そんなことはないです。私の方こそ、厳しいことを言わせてしまって、申し訳ありません」
「それこそ気にしないで。私が勝手にお節介焼いたようなものだしさ」
「それじゃあ、ありがとうございますと言わせてください」
「じゃあ私も、どういたしましてって返すね」
ちらっと青空のブーケの子達を見る。
ここに入ってくる前の鬱屈とした感じはなくて、今は和気藹々とおしゃべりしてる。
「いいパーティになるかもね、あの子達」
「ええ、これからもっと成長すると思いますよ」
「そうだといいね。よし、それなら美味しいご飯を用意してあげますか」
「はい!」
「ボナくん、ビリス、注文入ったよ〜! おにぎりセット三つと、パンセット二つね!」
それからおにぎりセットとパンセットを用意して、青空のブーケの子達に出す。
リックスたちは、見たこともない料理だって驚いてたけど、食べ始めると止まらなかった。美味しいって言葉が何度も飛び交って、特に豚汁は大人気で何杯もおかわりが出たくらいだ。
若人らしい、いい食べっぷりだよ。
こんなに美味しく食べてもらえると、作り甲斐あるなぁ。こうやって新人冒険者を陰から支えて見守るのも、私の仕事だって改めて思ったよ。




