第46話 新人の冒険者が謝りに来た? なんで?
最近、ここターガイニの冒険者ギルドに来る冒険者の数は、日に日に多くなっているみたい。仕事が増えて大変よ、なんてサラサさんがちょっとした愚痴をこぼしてたな。
その影響は食堂にも及んでいて、最近の食堂は毎日それなりに忙しい。誰も来なかったちょっと前までとは、えらい違いだよ。
でも食堂がちょっとずつ賑わってきてて、パティさんはなんだか嬉しそう。前より笑うことが多くなったって、従業員のみんなが口を揃えて言ってるのを、聞いたことがあるからね。
最初にここで働くってなったとき、一緒にこの食堂を盛り上げていこうって約束、少しずつ叶えられてると思いたいな。
そんなこんなで今日も一旦、第一のピークは過ぎ去った。食堂で働くうちになんとなく分かってきたけど、ここのピークは一日で大体二回くらいある。
お昼前からお昼過ぎくらいの時間が第一のピークで、夕方過ぎから夜の八時くらいまでが、第二のピーク。ここら辺は日本の飲食店とほぼ同じかな。
夜の八時以降は主にギルドで働く従業員が、仕事終わりにお酒を飲みに来たりする。
「それにしても、今日も冒険者たちが来たねぇ」
「そうですね。今日はおにぎりセットがよく出てましたね」
「だね。オーク肉で作った豚汁、大好評みたいでよかったよ」
今日のおにぎりセットの汁物は、オーク肉を使った豚汁にした。ちなみに、こんにゃくはなかったから、入れてないけどね。
それでも、やっとみそを手に入れたんだもん。これは作らなきゃ損ってやつよ。
本当は普通のみそ汁でもいいんだろうけど、豚汁の方が具沢山で食べ応えもあるからね。体を動かす冒険者にとっては、こっちの方がいいのかもってさ。
その予想は見事的中。
おにぎりセットを頼んだ冒険者たちが、豚汁を何杯もおかわりしたんだよね。汁物もメイン同様、銅貨一枚でおかわりできるから。
結構大きな鍋で仕込んだのに、中身はもう半分以下になってるよ。
「これは夕方前にまた仕込まなきゃかな。予想以上におかわりが出て、びっくりだよ」
「それは仕方ないよ。だって具材がたっぷり入ってて、いろんな味がして美味しいんだもん。オイラもあとでまた飲んでいい?」
「もちろん。休憩の時に飲んでいいからね」
「やった!」
「なぁ、なんか入り口で群がってる冒険者たちがいるぜ。こっち見てるけど、知り合いか?」
ビリスが指摘した方を見る。確かになんかいるね。
見知らぬ少年少女たちがこっちをチラチラ見ながら、なにやら相談してるみたいだけど……。
「ううん、知らない。パティさんは?」
「いえ、私も知らないですね……」
「あんなところで屯されてたら他の冒険者の邪魔になるだろうし、ちょっと話聞いてくるよ」
「わかりました。お願いします」
厨房を出て食堂の入り口に向かう。
私が来てるのを見て、少年少女たちは焦ってる様子だったけど、なんでだ?
「食堂になにか用かな?」
近くまで来て話しかけてみる。
少年少女たち、というか冒険者パーティかな? その子たちは互いに顔を見合わせた後、意を決したような顔をして話してきた。
「あの。僕たちこの食堂にいるエルフの女の人に、話があるんです」
「そうなの? それなら呼んでくるけど、ここじゃあ他の冒険者の邪魔になるし、中で話したらどう?」
「いいんですか……?」
「大丈夫だよ。今は他の冒険者もほとんどいないし、飲食スペースも空いてるからさ」
「それじゃあ、お邪魔します……」
さっきから煮え切らない感じだなぁ。パティさんと揉めでもしたのかな? でもこの子達パティさんの名前も知らないみたいだし、初々しい感じもするから、最近冒険者になったっぽいよね。
そんな子達とパティさんが揉める理由なんて、なんもないだろうし……。
ひとまず奥の空いてるスペースに案内して、席に着いてもらう。少し待っててって伝えてから、厨房に戻ってパティさんを呼んだ。
「パティさん、ちょっといい? あの子達どうやら、パティさんに用があるみたい」
「私にですか?」
「うん、話したいことがあるみたい。見た感じ新人の冒険者パーティっぽいけど、何処かで会ったりしてないんだよね?」
「ええ、初めて見る子達です」
やっぱそうだよねぇ。
任せていいんだろうけど、私も話を聞いてみようかな。一見良い子たちに見えるけど、あの態度は気になるし。
「そっかぁ。……よければ、私も一緒に話を聞いてもいいかな? 食堂に関係あることだとしたら、聞いておきたいし」
「わかりました。一緒に行きましょう」
「ありがとう。ボナくん、ビリス、ここ少しお願いしてもいい?」
「大丈夫だよ〜」
「ああ、任せとけ」
「二人もありがと。それじゃあ行こっか」
パティさんと二人で、待たせていた冒険者パーティの子達のとこまで戻る。
「お待たせ、呼んできたよ」
「はじめまして、ですよね。私はこの食堂でオーナーを務めている、パティナーニといいます。どうぞパティとお呼びください。そしてこちらがこの食堂の料理長、カエデさんです」
「はじめまして、カエデです。もしよかったら、私も話を聞いていいかな? 話の内容が食堂のことだったら、聞いておきたくて」
自己紹介してから同席していいか尋ねると、リーダーっぽい剣士の見た目をして子が、大丈夫ですって言ってくれた。
その子はそのまま、自己紹介をしてくれた。
「は、はじめまして。冒険者パーティ『青空のブーケ』のリックスです。オレたち、最近冒険者になったんですけど……」
リックスって名乗った少年が、自分のパーティメンバーを一度見る。他の子達もリックスくんを見て頷くと、全員して立ち上がって頭を下げてきた。
え、なに? 急に頭下げてくるなんて、この子達パティさんになにしたの?
とりあえず、理由を聞かないと。パティさんも困惑しちゃってるし。
「どうしたんですか? 頭を上げてくださ──」
「ごめんなさいっ!!」
あらま凄いな、声が揃った。仲がいいんだなぁ。
いや、じゃなくて。
「どうして謝るの? 理由を聞かせてくれる?」
「そうですね。話してくれませんか?」
パティさんも私も、急に謝られても、なにがなんだから分からない。ひとまず理由を教えてくれなきゃ、許すも何もないと思うよ。
「オレたち、その……。さっきも言ったように、最近冒険者になったんです。それで、この食堂のことも全然知らなかったんです」
「うん、それで?」
「あたし達の面倒を見てくれた、ちょっと上の先輩冒険者パーティから、この食堂のことを教えてもらったんです。誰も来ない亡霊食堂で、働いてるエルフは無駄金ばかり貰ってるって」
「だからバカにして追い詰めて、ギルドから追い出してやろうぜって……」
あー、なんとなく察しがついたわ。確かに以前サラサさんが言ってたっけ。
誰も来なくなっていた食堂を、亡霊食堂とか給料泥棒食堂って、言いたい放題言ってる新人の冒険者がいるって。
多分この子達は運悪く、この食堂を貶していた冒険者パーティから、変な知識を教えられたんだろうな。それでその悪い先輩たちとやらと一緒になって、食堂のことをバカにしてたと。
なるほどね、言いたいことはあるけどまずは話を一通り聞きますか。
「わたくしたちも、それはいいと思っていました。だから一緒になって、この食堂の悪い評判をでっちあげたりしてたんですが……」
「それを聞いた中堅以上の冒険者パーティから、死ぬほど詰められて。先輩たちは新人に変なことを吹き込んだってことで、パーティ解散と冒険者ブラックリスト入りの処分を受けました」
なんだろうね、この言い方。
多分悪気はないんだろうけど、全部言い訳してるようにしか聞こえないな。
これはちょっと、お灸を据えるためにも嫌な役を演じるとしますか。




