第44話 酸っぱくて甘い思いとポークチャップ
それは、食堂に野菜を卸してくれる農家さんと話してた時だった。
その農家さんはボナくんが選んだってこともあって、どの野菜もすごく美味しい。食堂ではサラダはもちろん、色んな料理に使わせてもらってる。
その農家さん曰く、どうもトマティ──日本で言うところのトマトだ──が豊作すぎて、余っているのだと。
農家さんも取引先にそれとなくおまけとして配っているものの、まだまだ残っているらしい。だけど捨てるにはもったいなくて、どうしようかって困っている、と。
それを厨房のみんなで相談した結果、うちで買おうってことになった。余りすぎて捨てられるよりは、活用した方がよっぽどいい。
農家さんにそのことを話すと、大層喜ばれた。大切に育てた野菜を捨てなくて済むと、ほっとした顔で言われたよ。
ということでそのトマティが今朝届いて、私はある調味料を作ってる最中だ。
「これくらいかな。あとはこれを、煮沸消毒した瓶に詰めて……。よし、ケチャップ完成!」
「真っ赤で綺麗ですね。これも調味料なんですか?」
「そうだよ。これがあれば簡単に味付けできるし、フライドポテト……じゃなくて。揚げたポテイトーを付けてもすごく美味しいんだよ」
パティさんに説明しながら、どんどん瓶に詰めていく。大量に作ったから、うまみもたっぷりだぞ〜!
「あんなに大量にあったトマティが、あっという間になくなっちゃった」
「カエデの知恵様様ってやつだな。トマティなんて、生で食うかスープにするかくらいだと思ってたぜ」
「わかります。カエデさんと出会ってからは、驚くことばかりです」
パティさんの言葉にボナくんもビリスも、わかるわかるって頷いてる。
それを言うなら、私だってこっちの世界に来てから、驚くことばかりだよ。
ゲームや漫画や小説の中だけの存在だって思ってた世界が実際にあって、そこで暮らすことになるなんてさ。
エルフも獣人も普通に生活してるし、魔物もいるし。冒険者だとかギルドだとか、まさか自分がギルドに所属することになるとは思わなかったよ。
しかも調味料の概念がないとか、想像もつかないって。
そもそも私はこの世界の人間だったわけじゃない。最初は驚くばかりだったし、何処か一歩後ろで俯瞰してるような感覚もした。一種の幽体離脱のようなものかなって。
だけど何日も過ごして、みんなと一緒に仕事をしていくうちに、毎日が凄く楽しくなってった。ちゃんとこの世界に生きる、一人の人間としての自覚が芽生えてきた。
だからいつか、ちゃんと言おうと思う。みんなに隠し事はしたくないし。私はこことは違う世界で一度死んだけど、魂はこの世界に転生されてきたんだって。
「よーし! これでハニーポークチャップならぬ、ハニーオークチャップでも作りますか」
「はにーぽー……?」
「コクがあって美味しい肉料理だよ。ライスでもパンでも合うんだ。パティさん、作り方見る?」
「はい、見たいです!」
「心意気は十分だね。それじゃ、作ってくよ」
まず玉ねぎに似てるケーパっていう野菜を、食べやすい大きさにカットする。
今回使うのは、毎度お馴染みオーク肉。薄めに切って、酒と塩を揉み込む。そしてタレが絡みやすいように小麦粉をまぶしておく。
材料の下準備は、これでオッケー。
「それじゃあ焼いてくよ。フライパンに油をひいて、オーク肉とケーパを炒める。目安は肉の色が変わるくらいね」
「はいっ」
「ケーパの色が透明になって、肉の色が変わったら調味料を入れるんだ」
ウスターソース、ケチャップ、そしてハチミツを入れて炒めていく。ハチミツを入れると甘さがプラスされるし、ケチャップの酸味も程よく抑えられて、いい風味になるんだよね〜。
「ハチミツを入れると焦げやすくなるから、火加減に注意してね」
「わかりました!」
「水分を飛ばすように炒めたら、お皿に盛って完成!」
ケチャップの鮮やかなオレンジ色がいいね〜!
ハチミツのおかげでツヤもあって、いい感じ!
「美味しそうです!」
「でしょ〜? 時間もいいし、みんなでちょっと早めのご飯にしますか」
「賛成!」
「いつものとフォカッチャと食パン、ちょうど今あがりだぜ」
「ナイスタイミングビリス!」
それなら今日はパン一択にしようっと。このおかずに合わせるなら……私は食パンで!
諸々準備をして、みんなで調理台を囲む。
「いただきます」
んん〜! 柔らかいオーク肉に、たっぷり絡んだソースの味が合う合う!
ケチャップとウスターソースの酸味が前面に来てから、ハチミツの甘さが後からふわっと、優しく包み込んでくれる。
久々に作ったけど、いいねこれ!
そしてこのハニーオークチャップを、食パンに挟んで……これを食べる!
「美味しい〜」
食パンに挟んで食べると、食パンの甘さも加わってさらに食べやすくなるね!
「このタレ、すごく美味しいですね!」
「うん! このケチャップってやつもいい!」
「これ、なかなかイケるじゃねぇか。甘酸っぱいのに最後は甘くて、いくらでも食べれそうだ」
みんなで囲む食事って、やっぱりいいよね。
こうやって色々と笑い合いながら、あれこれ話してさ。
この時間を、これからも大切にしていきたいな。




