第42話 手軽にガッツリとカツサンド
揚げ物に必要な鍋は、初代料理長さんが残してくれた調理器具の中にあった。顔を見たことも会ったこともないけど、初代料理長さん、ありがたく使わせていただきます。
そこに油を注いで、適温になるまで温めておく。
それからメインの用意。今回使うのは、オークのヒレ肉だ。これを包丁の背の部分で叩いて、厚みを均等にしておく。
これに軽く塩を振ったら、小麦粉をつけて、溶き卵に潜らせてから、パン粉をまぶす。んで、肉を軽く押さえつける。
こうしておけば、揚げてる時に衣が剥がれないし、肉と衣の一体感が出るからね。
「油の温度は……お、いいかも」
パン粉を少しだけ油に入れる。ジュワッて全体的に広がれば、ちゃんと170℃になってる証拠だ。トンカツを揚げるときの、最適な油の温度だね。
そしてそこに、衣をつけたオーク肉をゆっくり入れる。入れたらそのまま動かさないで、しばらく放置。
最初はジュクジュクって静かな音がしてたけど、段々とパチパチって高い音が鳴り始めた。みんなも耳を澄ませながら、揚げ物の音を堪能してるね。
「なんだろ、すっごくいい音だね」
「ああ。なんか腹が減ってくる音だな」
「揚げ物を揚げる音って、気分も上がるんだよねぇ。そんでもって、全体的に泡が少なくなってきたら、揚げ上がりのサインっと」
「わあ、綺麗な色ですね!」
確かに、いいきつね色だ〜!
網を敷いたバットの上にトンカツを乗せて、余計な油を切ってる間に、パンの方の仕込みもしよう。
マヨネーズに、隠しレシピを発見して手に入れた『からし』を混ぜて、からしマヨネーズを作る。
ふふ、実は数日前にハーブ採取の依頼を出した時、からしとマスタードの原材料も頼んでいたんだよね。
植物図鑑を見返してて見つけちゃったもんだから、頼むしかないじゃん?
からしとマスタードの違いって、正直あんまりわからないけど、まぁなにか違いがあるんでしょう。私は料理は出来てもプロじゃないから、そこらへんの知識は浅かったりする。
このからしマヨを、耳を切り落とした食パンに塗る。からしがいいアクセントになるんだよな〜。
パンの耳はあとでのお楽しみで皿に乗せておく。
「さて、いよいよこれの出番だね」
「スキルで作ったソースってやつか」
「そうだよ。揚げ物にソースは欠かせないってね」
この食堂で働き続けて、レベルが上がってレベル8になってたんだよね。その結果開放されたのが、ソースのレシピだ。
舐めた感じはウスターソースっぽかったから、トンカツは勿論、パン粉を使った揚げ物とは相性抜群!
ボウルに入れたソースに、揚げたてトンカツを潜らせて、からしマヨを塗ったパンに乗せる。
その上にもう一枚パンを乗せて、一旦綺麗な布を被せて、その上にまな板を置く。パンとトンカツをなじませるためね。
適度になじんだところで、長方形になるように三等分にカットしたら完成!
「お待たせしました、カツサンドの出来上がりです!」
「おおっ、うまそう!!」
白い食パンに挟まれた、濃い茶色の衣を纏ったオーク肉のトンカツは、ビジュアル完璧っ!
カットされたオーク肉の断面も綺麗だし、ソースの甘酸っぱい匂いが胃袋を攻撃してくる!
イグニスさんったら、子供のように目をキラッキラさせちゃって。ちょっと幼く見えて、なんか弟みたいって思っちゃったり、なんて。
「食べてみてもいいっすか!?」
「はい、どうぞ」
「では……。……うっめぇえ!! パンは柔らかくて、中のオーク肉もいい歯応えだし、この茶色いのが濃い味なのに後味はちょっと甘酸っぱくて、たまんねぇ〜!」
「気に入ってもらえてよかったです」
すごいなイグニスさん。さっきパンセットを完食したってのに、それなりにボリュームのあるカツサンドをぺろって平らげちゃった。
「どうでしょう? これならパンと一緒にお肉も食べられますし、お腹にガッツリ貯まって、力も湧きそうだと思うんですけど」
「はい! これならうちの連中も、お師匠も喜ぶと思います!」
「良かった。じゃあ今からもうちょっと作るので、鍛冶場のみなさんで食べてください」
「ありがとうございます! やっぱカエデさんに相談して正解だったっす!」
イグニスさんの悩みが解決しそうで良かった。
それから作ったカツサンドが盛られた皿を持って、イグニスさんは仕事場へ戻った。
……そのわずか数分後。イグニスさんが血相を変えて戻ってきた。
「たっ、大変っすカエデさん! 一大事っす!」
「どうしたんですか? そんなに慌てて……」
「鍛冶場にカツサンドを持ってったら、あまりの美味さにみんなで取り合いになっちまって! 武器を持ち出すバカも出てきちゃうし、このままだと鍛冶場崩壊の危機っす!」
なんだってーー!?
ちょっと待って! 鍛冶場の人のことを考えて、結構多めに作ったよ!? それがものの数分でなくなる!? ウソでしょ!?
というか鍛冶場崩壊って! やばいじゃんそれ!!
「なのですみません! 追加のカツサンド、お願いしますーー!!」
「わ、わかりました! すぐに準備しますね!!」
まさかこんなことになるとは。
カツサンドの魅力たるや、恐るべし、だね。




