第37話 魔物の巣からハチミツを錬成してみました
「こんにちは〜」
「おう嬢ちゃん、よく来たな」
この日はアブスキさんに呼ばれて、解体場に来ていた。みんな相変わらず忙しそうにしてるなぁ。
「それで、お話ってなんですか?」
「そうだな、早速本題に移るか。もしかしたら、嬢ちゃんならこれを使えるんじゃねぇかって思ってな。冒険者から買取依頼だっつって渡されたんだが、量が多くてだな」
「なるほど。料理に使えるんじゃないかってことですね?」
「ああ、話が早くて助かる。モノはこいつだ」
どん、ってアブスキさんが台の上に置いたのは、楕円型の物体だった。妙な模様が表面に浮き出てるそれを、私は見たことがある。
その正体とは──。
「これ、蜂の巣ですか?」
「ああ、こいつはイビルビーの巣だ」
「イビルビー……」
そういうことか。この巣と名前からして、ハチの魔物ってことね。
蜂の巣は昔、近所の家に作られてたのを見たな。
だけど、この大きさはおかしいって! 見たこともないサイズだよ! なんか、子供の顔なら三人分はあるんじゃない!?
こんなの抱えて持ち運ぶなんて、出来ないんじゃないかな……。
「イビルビーはCランクの魔物だ。ケツに付いてる針の先端から、毒を吐き出して攻撃してくる」
「それはまた面倒な魔物なんですね」
「ああ。厄介な相手だが、こいつの巣にはたっぷりの蜜があってな。薬なんかにも使われたりするんだ」
「へぇ〜。蜜に毒はないんですね」
「そうだ。ギルドとしても他所に卸せるからいいんだが、どうやらイビルビーが大量発生してたらしくてな。無事に討伐できたものの、巣も大量に持ち込まれて、困ってたんだよ」
ああ、だから私が呼ばれたんだね。確かにこの巣なら、ハチミツが作れそう。
私もここ数日でレベルも上がって、レシピも開放されてたし。
偶然ってすごいよね、開放されてたのはハチミツだったんだから。レシピの材料のところには【ビー系魔物の巣】ってあったから、問題なさそう。
厳密に言うと、ハチミツが作られるのはミツバチからだけなんだろうけどね。考えるな、感じろってことで今回はスルーしちゃお。
「そういうことでしたら、食堂で引き取ります。料理にも使えそうですし」
「おお、そうしてくれるとこっちも助かるぜ」
「だけどその、一つお願いがありまして。この巣の中って、まだ見てないんですよね?」
「見てないぜ。普段はそのまま渡すが……。ああアレか、中の虫を取って欲しいんだな?」
アブスキさんも話が早くて助かる〜。
蜂の巣の中にいる幼虫は見たくないと言いますか、触れたくないと言いますか……。多分もう死んではいるんだろうけど、うごうごうにょうにょ動かれたら、卒倒する自信しかない。
「はい。お手数かけますが、お願いできますか?」
「任せとけ。すぐ取りかかるから、ちょっと待っててくれな」
「ありがとうございます」
待ってる間に、ハチミツを使った料理でも考えようかな。
なにがいいかなぁ。普通にパンの付け合わせに出してもいいし、肉や魚を漬けてソテーしたり。そうだ、ハニーレモン煮とか美味しいじゃん!
それにあれ! フレンチトーストみたいなデザートに使うにはもってこい! 絶対美味しいやつ!
あとは……ああ、飲み物を作る時も役に立ちそう。お湯に混ぜてもいいし、スムージーにも使いたい!
この世界、水や酒はあっても、甘い飲み物ってそんなに多くないんだよね。あっても果汁を絞ったやつくらい。
この世界に転生した時に、ナーディアさんからリトルベリーのジュースはもらったことあるけど。あれ以来飲んだことも見たこともないな。
どうせなら、食堂のドリンクとして作ってあげたいけど、そもそもミキサーなんて存在してないだろうなぁ。あったら買いたいんだよね。手だとどうしても限界があるし。
ミキサーがあれば、スムージーだけじゃなくて色んなものが作れそうなんだけどな。ないものねだりってのはわかってるけどさ〜。
「待たせたな嬢ちゃん。虫の除去、終わったぜ」
「すみません、ありがとうございます」
「いいってことよ。こっちも量が多くて持て余してたからな」
ほら、と渡された箱の中には、綺麗に解体された蜂の巣が入ってる。それにしても物凄い量だな。少なくても一ヶ月以上は持ちそうなくらいあるよ。
「嬢ちゃんの料理は美味いからな。最近は時間が出来たら、食堂に行くようにしてるんだぜ」
「いつもありがとうございます。この蜜も、大事に使わせていただきますね」
「楽しみにしてるぜ」
「はい。それでは、また」
「ああ。欲しい食材があったら、いつでも言ってくれてかまわねぇからな」
アブスキさんにお礼を言って、解体場を後にして食堂に戻った。
「おかえりなさい。なんの話でしたか?」
「おかえり〜。凄い荷物だね、大丈夫?」
「おう、おかえり。そりゃあ、なんかの素材か?」
みんなのお出迎えがあったかいな。ただいまって返事をしてから、事の経緯を話す。
「これ、アブスキさんがくれたんだ。素材買取の量が多くて困ってるから、持ってってくれないかって。私なら料理に使えるんじゃないかってね」
「それ、イビルビーの巣ですね。確か巣の蜜は薬の材料で、高く買い取ってもらえたはずですよ」
「これ、魔物の巣なの!?」
「そうみたい。んで、私にとってもコレはスキルに使えるから、貰えるなら貰っとこうって思ってね」
「へぇ。そいつもチョウミリョウの材料になるとは、驚きだな」
よっこいせ、と調理台にイビルビーの巣が入った箱を置く。いつものようにスキルを発動させれば、見慣れた【レシピ一覧】の画面が出る。
ハチミツのレシピ、ちゃんとあるね。スキル発動!
無事にスキルも発動して、いつもの光が出現して、しばらくしたら消える。そして中から現れたのが、こちら!
「じゃじゃーん! 料理にもお菓子にもパンにも飲み物にも使える万能調味料、ハチミツの完成です!」
黄金色をした透明の液体、ハチミツが出来ましたとさ! レシピを確認した時は半信半疑だったけど、まさか本当に魔物の巣からハチミツが作れるとはね! 異世界って凄いなって改めて思いましたよ。




