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第36話 焼きたてハーブフォカッチャたまらんね

「ありがとビリス。じゃあ早速作っていきますか!」

「おう、頼むぜ料理長」

「はいよ。それじゃあまず、粉類を入れて──」


 ボウルに小麦粉、イースト菌、ぬるま湯、砂糖を入れて、主役の一つであるこれを入れる。


「ここにオリーブオイルを入れるよ」

「オリーブオイルって、アレか。スキルで作ったとかいう……」

「そう。これはオレアの実から出来た油で、フォカッチャには欠かせない材料なんだよ。よし、一旦まとまるまで生地を混ぜてみて」

「わかった」


 ボウルの中で生地をまとめていく。最初はベタつきや粉っぽさが多かったけど、段々と一塊になっていく。

 日本にいた頃は時々パンを焼いていたけど、パン作りって不思議だよね。本当に生地が生きてるみたいに感じるんだもん。

 ボウルで生地を練っていたビリスが、皿に入れられたままの塩を見た。


「そういや、それ塩ってやつだろ? そいつは入れなくてもいいのか?」

「入れるけど、もう少ししたらね。イースト菌と塩って、実はあんまり相性良くないから」

「そうなのか」

「うん。塩を入れると、イースト菌の働きが弱くなっちゃうんだよ。だからある程度捏ねてから入れるよ。そろそろまとまってきたし、一旦台に出そう」

「わかった」


 作業台の上に、パン生地がでろん、って出る。ちょっと可愛いなんて思っちゃう。

 いやぁパンを作るのも懐かしい。水の温度とか気を付けないと、すぐ失敗するんだよな。


 っと、生地を捏ねていかないとね。最初はまだベタつきが多いけど、少しだけ捏ねたら塩を入れる。

 ある程度捏ねていって、生地が手に付かなくなったら、薄くオリーブオイルを塗ったボウルに戻して、一次発酵する。



 そして一次発酵を終えた生地がこれ。2倍以上には膨らんでて、イースト菌がちゃんと働いてるのが分かる。

 フィンガーテストも合格! そしたら一度潰して、生地の中に出来た余計なガスを抜く。ぷしゅう、ってガスを潰しながら温かい生地を潰す感覚、超気持ちいい。


「ボウルに薄くオリーブオイル塗っておいて正解だったね」

「だな。生地が簡単に取り出せるのはいいな」

「じゃあ成形しよっか。この辺はビリスの方が得意そうだよね」

「伊達にパン職人してないからな。繋ぎ目を馴染ませるのも得意なんだぜ」

「さっすが、一流のパン職人っ」


 作業台に出した生地を適当な大きさにカットして、一つ一つを丸めていく。綺麗に生成したらベンチタイムを挟んで、いよいよ焼きの作業に入っていくぞ!


 石窯の様子をビリスに見てもらってる間に、私は鍛冶場から予めもらっていた天板を用意する。


 こんなこともあろうかと、鍛冶場のテールムさんに依頼しておいて良かったよ。う〜ん、凄く綺麗! 職人の技ってやつなんだろうね。


 しかもこれ、油を直接塗っても簡単に汚れが落ちる優れものらしい。そういう加護が付与されてるんだって。すごいね。


 この世界にはクッキングシートなんてないから、どうしても食材は直乗せになっちゃうし、そういった仕様にしてくれるの凄く助かるよ〜。

 ということで、遠慮なく天板にオリーブオイルを薄く塗り広げていく。焼き上がったパンが天板にくっつきにくくするためね。


「そろそろベンチタイムも終わりだね」

「よし、あとは二次発酵して焼くだけか?」

「そうだね。でもその前に、最後の仕上げをね」


 ベンチタイムを経て、また少し膨らんだ生地を軽く潰す。内側から外側に綿棒で伸ばしたら、天板の上に乗せる。全部乗せ終えたら、最後の発酵!


 二次発酵も無事に終えて、いよいよお楽しみのこの作業!

 膨らんだ生地に、あえて指を突き刺して穴を開ける。生地のふにゅ、って感覚もたまらん〜。


 この作業を見たビリスは当然驚いただろうけど、どうしてこの作業をするのか、理由を尋ねてきた。


「フォカッチャって平たいパンなんだよ。それにこうすると、この後に塗るオリーブオイルが穴にもたっぷり染み込むんだ。フォカッチャにとって、オリーブオイルは大事な相棒だからね」

「へぇ、つくづく面白いパンだな」

「それにこうしておけば、他のパンとの見分けがつきやすいでしょ?」

「なるほど。一見パンを殺してるようで、ちゃんとした理由があるんだな」

「そういうこと」


 ある程度穴を開けたら、これでもかってくらいにオリーブオイルを塗りこんで、いよいよ食用ハーブのロズマリナスの登場!

 茎から外したロズマリナスの葉を生地に散らばせたら、焼成の準備は完了!


「これでよし! ビリス、お願いしていい?」

「任された。この板ごと入れればいいんだよな?」

「うん、お願い」


 石窯で焼くこと数分。もう焼き上がる前からわかる。絶対美味しいやつだって!

 だっていい匂いなんだもん! 石窯から香ってくる果実のような、オリーブオイル独特の瑞々しい匂いが食欲を刺激されちゃう……!


 石窯から取り出されたフォカッチャは、小麦の香ばしい色でキレイな焼き上がり! そして熱いうちに追いオリーブオイルを塗り込めば……。


「はい! ロズマリナスのハーブフォカッチャ、完成っ!」

「おお〜!!」

「うわあ、おいしそう!!」

「小麦の香りとオリーブオイルの香りが、凄くいいですね……!」


 フォカッチャの完成に、厨房から歓声があがる。

 久々に作ったけど、上手く出来てるんじゃない!?


「出来立て味見したいヒト!」

「はい! はいはい!!」

「オレもだ!」

「私も食べてみたいです!」


 ですよねー! そりゃこんなに美味しそうなんだもん。みんなで出来立てを食べちゃってもバチは当たらんでしょ!


 出来立てを一つ取って、四等分にカットする。

 焼きたてパンの香ばしい香り最高〜! 外側もさくさくに焼けてて、いい感じ!

 皿に盛って、みんなに差し出す。


「はい、どうぞ」

「いただきますっ!」

「いただきます!」

「いただきますっ」


 じゃあ私もいただきます!

 んん〜! 外はカリッと、中はもっちもち! たっぷり塗りこんだから、オリーブオイルの風味がダイレクトにくる味わいで、めっちゃ美味い!!

 ロズマリナスも食べるたびに、いい香りが鼻から入って爽やかにしてくれるし、これは大成功でしょ。


「おいしい〜! 絶妙なしょっぱさ、いいね!」

「なんだこのパン! 噛めば噛むほど小麦と油の味が口の中に広がって、たまんねぇな!」

「噛むと生地からオリーブオイルがじゅわって溢れて、とても美味しいです! 食用ハーブもいい匂いですね!」


 だよね〜! すごくわかる!!

 ロズマリナスがなくてもいいんだろうけど、フォカッチャに合わせると凄く美味しいよね!


「どう? 食用ハーブってすごいでしょ?」

「ええ、こんなに美味しくなるなんて驚きです!」

「ふふふ。だけど食用ハーブの魅力は、こんなもんじゃないよ」

「最初はただの草かと思ってたが、一本食わされたな。とんでもねぇポテンシャル秘めてるな」

「オイラもびっくりしたよ! 料理って奥深いね!」


 ふふふ、そうでしょうとも。

 それにしても、新しい料理を作るたびにみんながこうして喜んでくれるの、嬉しいなぁ。

 私いま、凄く楽しいや。


「それで、どうかな? このフォカッチャ、今後パンのメニューに加えても良さそう?」

「ああ、大賛成だ。それにこんなに美味いパンを作れるなんて、パン職人としても楽しみが増えるってもんよ」

「私も追加して大丈夫だと思います」

「オイラも賛成。冒険者も気にいると思う!」


 みんなの賛成も得られたことだし、今後はいつものビリスのパンにこのフォカッチャも追加ということで! これからもたくさん新しいパン教えていくぞ!

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