第35話 食用ハーブが届きました
ハーブ採取の依頼を出してから数日後。
今日の分の仕込みをしていたところに、サラサさんがカゴを持ってやって来た。
「カエデ、お待たせ。依頼でお願いしてたハーブたちよ」
「ありがとうございます!」
一回手を止めて、サラサさんが持って来たカゴを見る。依頼通り三種類のハーブが入れられてるけど、なんか随分と数が多いな!?
「なんか、多いですね」
「依頼を受けた冒険者が言ってたけど、大量に生えてる群生地を見つけたんだって。だからかなりの量を採取してきたみたい」
「はぁ〜、なるほど」
見た感じ、バジリーコが大量にあるかな。それにローレルもロズマリナスも、しばらく依頼しなくてもいいくらいに量がある。
これだけあれば、少し贅沢に使っても大丈夫そうだね。バジリーコはソースを作っておいてもいいかも。そのソースを使った魚のソテーとか、絶対美味しいぞ。
パティさんたちも気になったらしくて、カゴの中をまじまじと見てきた。
「これが食用ハーブなんですね。形も種類も様々で、面白いですね」
「この状態でも匂いがちゃんとするね。青々しい感じだけど、オイラは好きかも」
「これが料理に使えるたぁ、驚きだな」
三者三様の感想どうもありがとう。
みんなは食用ハーブなんて知らなかったし、不思議に思うのも仕方ないか。でもこれを使えば料理がもっと美味しくなるんだよね。
そうだ! せっかくなら、これを使ったアレの作り方をビリスに教えよう!
新しいパンでもあるし、密かに作ってもらってたアレが、役に立つかもしれない!
「まだ時間はあるし、これを使ったパンを仕込もうと思うんだけど……。ビリス、一緒にやらない?」
「おっ、新しいパンか。いいぜ、興味あるしな」
「よし決まり! じゃあ早速準備しよっか」
基本的な材料は、ビリスがいつも作ってるパンとそう変わらないけど、他にも必要なものがあるからな。大体の材料はビリスに任せるとして。
私が用意しておくのは砂糖と塩とオリーブオイルと、今回の隠れた主役、ローズマリーことロズマリナス。
アレといえば、オリーブオイルにローズマリーでしょ〜。
用意したものを持って、ビリスの持ち場に向かう。
「おまたせ」
「おう。そいつも今回のパンに入れるのか?」
「そうだよ。ああそうだ、このパンにはライ麦粉は使わないから、しまっておいていいよ」
「へぇ、ライ麦粉を使わないパンか。わかった」
ビリスがライ麦粉をしまってる間に、ボウルを用意しておく。戻ってきたビリスから、パンの名前はなんだと尋ねられた。そういえば言ってなかったか。
「今から教えるのは、フォカッチャっていうパンだよ。オリーブオイルをたっぷりと使った、美味しいパンなんだ」
「なんか面白い名前だな。っと、そうだ。カエデ、始める前にちょっと両手を出してくれねぇか?」
「両手を? こんな感じ?」
なにをするんだろう。言われた通りに手を差し出す。
ビリスは私の手の平の上で、ついっ、と指を振る仕草を見せる。するとそよ風のようなものが生まれて、薄いヴェールみたいになってから、私の手にぴたりと吸い付いた。
「オレがじーさんから教わった風の魔法でな。パンを捏ねると、どうしても生地が手にくっつくだろ? それを防いでくれる膜なんだ。生地を触ったままの汚れた手で、あちこち触るわけにもいかねぇしな」
「これ魔法なんだ!? なんか手が薄い膜に包まれてる感じがする!」
「膜に生地は付くけど、手には付かない仕組みにしてある。要は手袋代わりってやつだ。オレも毎回してるぜ。いくら毛を落とさない訓練をしたとはいえ、念には念をってやつだな」
スラスラと説明してくれるけど、圧倒されちゃうって。すっごいな魔法って。
この手を覆っている膜のようなもの、手袋は手袋でも、ニトリル手袋のようなものっぽい。ぴったりしてて、守られてる感じがする。
なんにせよ、これがあれば必要以上に手が汚れることはないってことね。ありがたいな。
準備が整ったところで、いざパン作りのはじまりといきますかね!




