第34話 ギルドに依頼を出してみた
今日の分のスープを仕込み、味を確かめる。
うん、いい感じに煮込まれてる。こんなもんかな、今日も悪くない出来。加熱しすぎると悪いから、火を止めておこう。
「うーん……」
スープを睨みながら考える。
これでも十分美味しいスープだし、冒険者も従業員もみんな、喜んでくれてる。それは分かってるんだけど……。
「カエデ、最近ずっと表情が堅いけど大丈夫?」
「なにか悩み事ですか?」
黙ったまま固まってる私を見たらしい。ボナくんとパティさんが、大丈夫かと声をかけてきた。
心配させちゃったかな。
「え? ああ、ごめんね。ちょっと考え事しててさ」
「考え事って、料理のか?」
「まぁね」
「料理で何か不安なことでもあるんですか?」
「ううん、そうじゃないんだ」
いや、ある意味ではそうなのかな? うーん、一人で考えてても決まらないし、話してみよう。
「いやね、なくてもいいっちゃいいんだけど、あったらあったで、料理がもっと美味しくなるものがあってさ。でも市場で手に入るものなのかなって……」
「なくてもいいけど、あったらいいもの?」
「そう。香草というか、ハーブの類なんだけどさ」
実はここ数日、ずっと考えていたんだよな。
ローリエとかローズマリーとかのハーブたちがあれば、料理の幅もさらに広がるのにって。
ハーブは肉や魚の臭み消しにはもってこいだし、スープとかの煮込み料理だって、一緒に煮込めば今までよりぐっと味が良くなる。
魚の香草焼きとかも絶対美味しいし、バターと混ぜてハーブバターを作れば、パンにも絶対合う。
だけど、問題だって思ってることが二つあるのよ。
一つは、そもそもこの世界にハーブは存在してるのか。そしてもう一つは、あったとしてそれらを簡単に入手できるのか。
市場に出かけた時にちらっと見たけど、ハーブを専門に取り扱ってるお店なんて、一軒も見当たらなかったんだよな。
てことは、売り物にならないって認識なのかなぁなんて思ってるんだけど、どうなんだろう。
私の話を聞いたみんなが、なるほどって頷く。
「ハーブを料理に使うなんて、あんま聞いたことねぇな。ハーブは薬に使うものだろうし」
「そうだね〜。それに基本的に、フィールドに出なきゃ手に入らないもんね」
なるほどね〜〜! 今度はこっちが頷いた。
ハーブはあっても、薬用かぁ。いやまぁあればラッキーって感覚だったし、ないならないで仕方ない。
「そっかぁ。わかった、ありがとう。なければないで──」
「いえ、ちょっと待ってください。もしかしたら、あのことかも……」
え、なに? 思わせぶりなこと言うじゃんパティさん……! もしかして、食用ハーブがあるの!?
「あのことって?」
「実は先代料理長が話してたんです。ハーブを使うと料理の品質があがるって。資料も見せてもらったことがあって……。少し待っててください!」
そう言うなりパティさんは走って、何処かへ行ってしまう。残されたボナくんとビリスと一緒に、首を傾げながら待つこと数分。厨房に戻ってきたパティさんは、ある本を抱えていた。
「リーダー、それなんの本?」
「これは植物一覧の本ですね。もしかしたらこの本に、料理に使うハーブも載ってるんじゃないかと思いまして」
「へぇ〜! どれどれ……」
植物一覧と書かれてある本を捲って、目的のハーブを探してみる。本というより、図鑑だねこれ。
ハーブの名前とイラストがあって、どこで群生してるのかも書かれてるな。わかりやす〜い。
「──あ、これ!」
とあるページを開くと、見覚えのあるイラストを見つけて声を上げる。
名前はちょっとずつ違うのもあるけど、パセリにバジルにローリエ、ローズマリー! すごい、欲しいハーブがほとんどこの本に載ってるじゃん!
「なんか普通の草と見分けがつかないな」
「これが料理に使えるの?」
「そうそう! スープと一緒に煮込めば今よりずっと美味しくなるし、パンと一緒に焼いても美味しいやつもあるんだよ」
「話を聞いたことはありましたが、実際に見たことはないですね。ちょっと気になります」
みんなも興味津々だね。これは実際に使うところを見せたいな。
それで手に入る場所は……ああ、やっぱりフィールドですか。
「やっぱ街の外に出ないと手に入らないかぁ……。せっかくあるって分かったのに……」
「でしたら、依頼を出してみてはどうでしょう?」
「依頼?」
「はい。冒険者ギルドは、従業員からの依頼も受け付けてるんです。鍛冶場は時折、素材の採掘依頼を出してますよ」
パティさんの言葉に目から鱗。
そうじゃん。すっかり頭から抜けてたけど、この食堂は冒険者ギルドの中にあるんだった。
「なるほど、その手があったか……!」
「ええ。受付に行けば、依頼を出す手順を詳しく教えてもらえますよ」
「じゃあちょっと行ってこようかな。今は冒険者も来てないし」
ボナくんやビリスも大丈夫って言ってくれるし、善は急げだ。ちょっと行ってきますかね。
食堂のことを一旦みんなに任せて、ギルドの受付に向かう。せっかくだし、受付嬢ならサラサさんに教えてもらおうっと。
カウンターに向かえば、サラサさんがちょうどいたから呼んでみた。
「サラサさん、ちょっといいですか?」
「あらカエデじゃない。どうしたの?」
「実は、ハーブ採取の依頼をお願いしたくて……。依頼の出し方を教えてほしいんです」
「いいわよ。じゃあまずはこの依頼応募用紙に、依頼主の名前と、採取してきて欲しいものと数を書いてね」
テーブルの上に差し出された用紙に名前を書く。
採取してきて欲しいものかぁ。ハーブならなんでも欲しいけど、だからって欲しいもの全部を依頼してもな。
よし、ここは料理に使う優先度を考えて……。
ローリエに似てるハーブのローエルに、ローズマリーに似たロズマリナス、ほぼバジルなバジリーコの三種類にしておこう。
本当はミントとかタイムとかも欲しいところだけど、今回は我慢。
「欲しい数、かぁ……。難しいな……」
「それなら、最低ラインだけ決めておけばいいわ。多くなったらそれはそれで、追加報酬って形にできるから」
「なるほど、ありがとうございます」
それなら茎を一本って考えて、最低三本ずつにしよう。あんまり多すぎても、下手に枯らしちゃうかもしれないし。
「書けました」
「じゃあ確認させてもらうわね。…………うん。不備はないし、大丈夫。じゃあこれで手続きは完了ね。依頼、確かに承りました」
え、これだけ!? もう手続き終わりなの!?
「あの、対象になる冒険者ランクとか、報酬金とか……こっちで定めなくてもいいんですか?」
「ああ、それは受付嬢の仕事でもあるのよ。資料を確認したりしてから、正式な依頼書としてギルドに貼り出すの」
「はぇ〜……なるほど……」
そうか、依頼を出すだけならあっという間に終わるから、鍛冶場はちょくちょく依頼を出すわけね。
もう出来ることはないだろうし、あとの設定はサラサさんに任せて、食堂に戻るとしますか。




