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第33話 味を知ってもらうのが一番だよね

 車輪の暁の人たちは興味津々って感じで、お盆の上の料理を食い入るように見てる。

 特にナーディアさんなんて、フラーグムジャムが乗ってるパンに釘付けみたい。目がキラッキラしてるよ。冒険者っていっても、こうして見ると年頃の女の子だね。


「これ、カエデが作ったの!?」

「パン以外は、そうですね。パンは、受付嬢のルルスちゃんのお兄さんが作りました。彼は獣人一のパン職人なんで」

「そういえば、前にルルスがそんなこと言ってたな」


 なるほど、ルルスちゃんのお兄さんの話はみんな知ってるんだ。


「それにしても、見事なものですね。とても美味しそうですよ」

「ありがとうございます」

「これ、ライスか? 見たことがない形をしてるな」

「これはおにぎりって言いまして、手掴みで食べるものなんです。真っ白い方は具なしで、ピンク色をした方はフリジットサーモンを焼いて、ライスに混ぜ込んだものです」


 おにぎりの説明をこれまで何十回としてきたから、この言い回しも慣れたもんよ。


 あとやっぱり、この世界の人たちはライスを手掴みで食べるって発想は、ないんだね。

 説明を受けた車輪の暁のみんなが「へぇ」って驚いたように頷いてるもん。何度も見た似たような反応だけど、人が違うと新鮮でいいな。


 実を言うとこの反応が見たいってのもあって、説明するのは全然苦じゃなかったりする。


「ねぇねぇ! じゃあこっちの、赤いのとオレンジのキラキラしたのは?」

「これはフラーグムとサンオーリンジを、それぞれ煮詰めたものですね。パンに乗せて食べると美味しいんですよ」

「へぇ〜! フラーグムはアタシ大好物なんだ! これいくら?」

「ああ、これはお試し用なんでお金はいらないですよ。もし気に入ってくれたら、食堂で出してるので食べに来てくれると嬉しいです」


 私の言葉を聞いた車輪の暁の人たちが、一斉に驚いた。みんな同時に「え!?」って言うもんだから、こっちも驚いたよ。

 あれ? 私なんか変なこと言いました?


「お金取らないの!?」

「マジで言ってるのか、それ!?」

「はい、マジですけど……。そんなに変ですか?」


 シガロウさんに尋ねてみれば、苦笑されてから説明してくれた。


「いや、申し訳ない。前の料理長だったら、このサイズでも銀貨を要求してきたもんでな……。てっきり料金を取るのかと思ってたんだ。嫌な反応を見せてすまない」

「前の料理長は最悪でした。あの男、思い出すだけでも虫唾が走ります。あれほど醜悪な人間は、他にいませんよ」


 ああ……なるほど、それはまたご愁傷様といいますか……。

 というか本当に、話を聞けば聞くほど最低ラインを超えていくとか、どんな逸材よ。あの温厚そうなユイファールさんまで、忌々しいって吐き捨ててるし。


 話を聞いてるだけの私ですら、こんなに腹立たしく思うんだから、実際に被害に遭った冒険者たちの怒りは相当だろうね。

 そりゃ食堂に来なくなるのも、無理はないか。


「お金取らないってことは、タダってことでいいんだよね……!?」

「そうですよ。なので、ぜひ食べてみてください」

「じゃあお言葉に甘えて、アタシはこれ!」

「では私は、サンオーリンジの方をいただきますね」

「オレはフリジットサーモンのやつをもらうぜ」

「俺はこの、シンプルなおにぎりをいただこう」


 おお、全員違うのを手に取った。こう見ると個性が出て面白いな。

 パティさんたちには好評だったけど……口に合うかな?


「なにこれ! おいし〜い!」

「これはまた、美味ですね」

「うんめぇ!」

「おお、これはなかなか……!」


 どうやら心配は無用だったみたい。みんな笑顔になってくれたよ。


「こんなに甘くてとろとろのフラーグム、初めて食べたよ! パンに合うってのも、すごくわかる!」

「ええ。このサンオーリンジも独特の苦味と酸味のバランスが良くて、とても美味しいですよ」

「このおにぎりってやつもいい! 食べやすいし、フリジットサーモンのうまみがよくわかるぜ!」

「具はないが、その分ライスの味がよく分かる。この少ししょっぱいのに、ライスの甘さが引き立つ味わいは実に美味いな」


 みんな食レポうますぎじゃない? でも好評みたいで嬉しいな。作り甲斐があるよ。

 だけど、ここで喜ぶだけで終わっちゃダメだ。食堂の宣伝、忘れないうちに入れさせてもらう!


「お気に召したようで良かったです。食堂ではしっかりとした量を提供してますし、なんならライスもパンもそれぞれ、一緒に食べるおかずやスープが選べるメニューを用意してますよ」

「それおもしろそう!」

「ちなみにおかずもスープも、肉メイン魚メイン野菜メインとあるので、自分で好きなものを選べるようになってます」

「それはまた豪勢ですね」

「自分で選んだ好きなメニューで食えるのか。それはいいな!」


 パティさんが言ってた通りだ。選択肢を与えて、あとは各々決めてもらうこの手段は、選ぶ楽しさを刺激させられるみたい。

 車輪の暁の人たちも私の話を聞いて、楽しそうとか面白そうって話が盛り上がってる。


 それに食堂が変わったってことも、分かってもらえたかも。自分で好きなメニューを組み合わせて食べられるなんて、以前までの食堂にはない仕組みのはずだから。


 おっとそうだ、料金についても教えなきゃ。


「ちなみに料金は、冒険者割引きを使って一律銅貨五枚になります。おかわりも銅貨一枚で出来ますよ」

「マジか!?」

「マジです」


 この反応を見ると、前の料理長がどんだけ高い金を要求してたかって分かるよ。冒険者たちからしたら、私が設定した金額は破格なんだろうな。


 だけど私は冒険者になりたての人でも、しっかりご飯が食べられる環境にしたいんだ。腹が減ってはなんとやら、だし。


「ねぇリーダー、依頼に出る前にここでご飯食べようよ! 外の店で食べるより安いし、なにより美味しいし!」

「銅貨五枚でこんな美味いメシが食えるし、おかわりも銅貨一枚からなら、行かない手はないよな」

「二人もこう言ってますし、どうでしょう。急ぎの依頼でもありませんから、私も賛成です」

「……まぁ、そうだな。ちょうど腹も減ってきたところだし、ここで食べるとするか」


 試食の効果得たり! やっぱり料理の味を知ってもらうってのが、来てもらうための一番の近道だね!


「ありがとうございます。案内しますね」


 早速みんなを食堂へ案内する。

 中に入れば、厨房から様子を伺っていたらしいパティさんたちが、私の後ろからついてきてる車輪の暁の人たちを見て、笑顔になる。


 してやったよ! 車輪の暁の人たちにバレないよう、パティさんたちにVサインを送る。

 ああ、そうだ。食堂に来てくれたのなら、これを言わなきゃね。


「おかえりなさい、みなさん」


 私の言葉に、元気な「ただいま」って声が返ってきた。

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