第28話 ご飯のメニューを決めよう
照り焼きチキンを厨房のみんなに振舞ってから、仕事がようやく落ち着いた頃。私はもちろん、パティさんもボナくんもビリスまでもが、全員厨房内でぐったりしていた。
ちょっとね、忙しすぎた……。
もちろん、これにはちゃんとした理由がある。
あのあと、照り焼きチキンの匂いを嗅ぎつけたギルドの職員たちが、揃いも揃ってそれを頼んできたんだよね。
いやまぁね? 盛り上がってくれるのは嬉しいよ? パティさんも、食堂がこんなに賑やかになったのは久しぶりだ、なんて言ってたくらいだし。
だけどまさか、一斉に来られるとは思わなかったよ。おかわりするヒトもたくさんいたな……。
あとその影響で、ランドチキンの肉は保管庫から綺麗さっぱりなくなりました。アブスキさんに仕入れをお願いしなきゃだよ、これ。
でも従業員価格とはいえ、今日はこれまでで一番の売り上げが出た。それは喜ばしいことだよね。
とはいえ、本当に疲れた。この食堂で働くようになってから、一番忙しかった。土日のレストランでバイトしてた時を思い出したよ。
本当は今日は、みんなと別の話もしたかったのに。
ビリスも新しく入ったことだし、本格的に食堂のメニューについて話し合いたかったんだけどねぇ。
「さすがに疲れたね……」
「こんなに忙しかったの、久し振りすぎだよ……」
「そうですね。久々に目が回りそうでした」
「初日からこんなに忙しくなるとは、オレも思ってなかったぜ……」
私も含めてみんな疲労困憊だ。さすがに頭が回りそうにないし、こんな状態でメニューを決めるのは、やめた方が良さそう。
「とりあえず、みんなお疲れ様。片付けしてあとは帰ろっか」
「そうですね。もう今日分のお肉も、なくなってしまいましたし……」
「さんせ〜い。それにこのあと、ビリスを宿舎まで案内しなきゃだし」
「ああそうか、それもあったか。悪いが頼むぜ」
そのあと後片付けを終わらせて、宿舎に戻って風呂を済ませて、速攻でベッドに横になる。
ああ〜ベッド気持ち良い〜〜疲れた〜〜〜〜。
「従業員相手でこれだもんなぁ……」
これから冒険者たちを相手にするなら、せめてあと二人くらいは従業員が欲しいね……。まだ先の話になるとは思うけど。
ひとまず今日はもう寝よう。これからのことは、みんなで考えれば良いよね。
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次の日。
朝の掃除を終えてひと段落ついたところで、メニューについて相談したいってみんなに話す。
「調味料も少しずつ増えてきたし、食堂を立て直すためにも色々とメニューを決めたくてさ。みんなの意見を聞きたいんだ」
「メニュー決めですね。わかりました」
「いいよ〜。みんなで考えよっか」
「ある程度決まってるメニューがあれば、それを元に仕入れもできるからな。いいぜ」
調理台をテーブル代わりにして、早速意見交換を始める。
「ひとまずさ、私がこれまで作ってきた料理の中で気に入ったのがあれば、それを候補に挙げたいんだけど……。聞いてもいいかな?」
「そうですね……。私はやっぱり、最初に作ってくれたおにぎりの感動が忘れられません。ライスを手掴みで食べるなんて驚きましたが、手軽に食べられるのは良いと思いました」
おにぎりか。確かにあれを最初に食べた時のペティさん、いい顔してたもんね。
感極まったって感じだったし、思えばあの時ペティさんが美味しいって言ってくれたから、全てが始まったんだよなぁ。
「おにぎりなら、ツナマヨおにぎりは入れてほしいな! あの味はみんな好きだと思う!」
ボナくんは初めて食べたときから、ツナマヨの魅力に取り憑かれちゃったんだよね。
ツナマヨを作る時に使うウォームトゥーナが大好物だってのもあるけど、新しい美味しさを知れて嬉しくなったって、食べ終わった後に言ってくれたのを覚えてるよ。あの言葉は私も嬉しかったな。
「朝に作ってくれたアレか。あれは確かにいいな。中身を自由に決められるのも、食べる側からしたら楽しみの一つにもなるし、いいアイデアだと思うぜ」
ビリスも同意見みたい。
朝ごはんにおにぎりを作ったんだけど、美味いって連呼しながら何個も食べてたからね。中に入れる具材についても、色々意見を出してくれるの本当に助かるよ。
これだけ満場一致なら、メニューに入れない選択肢はないね。
「じゃあ、おにぎりは決定だね。具材はなんにも入れない塩と、フリジットサーモン、ツナマヨと……ああ、しょうゆを使った焼きおにぎりもいいかも」
それに出汁を取った昆布も、佃煮にすれば昆布入りおにぎりが作れるな。煮るのに必要なみりんは、スキルで手に入るようになったから大丈夫。
昨日の照り焼きチキン騒動の結果か、またレベルが上がってたし。
こんな短期間で『7』になってたのは、正直驚いたわ。レベルってこんな短期間で上がるものなの?
まぁ昨晩は普段食堂に来ない職員のヒトまで来ていたらしいから、十中八九そのせいだろうな。
でもおかげで【みりん】のレシピが開放されたのだから、文句は言えない。みりんが手に入るようになった今、大抵のおかずは作れるようになったし!
「でもおにぎりだけじゃ、食堂の食事としては少ないかもね。おかずがあると冒険者は嬉しいかな?」
「冒険者は体力が必要な仕事です。お腹一杯とまではいかなくても、一回の食事で腹八分目くらいは欲しいと思いますよ」
「そうだよねぇ。汁物とおかずがあれば、量は多分大丈夫だけど……」
「そのおかずを、どれにするかって問題か」
そうなのよー! そこが問題なのよなー!
食材自体はボナくんが仕入れてくれるから問題はないんだけど、どれをメインのおかずにしたらいいかが悩みどころなのよ。
人によって食べられないものとか、好みとかもあるだろうし。今日は肉で今日は魚って決めつけるのは、あまり良くないだろうし……。
「肉も魚も野菜も美味しいけど、この中で何をメインにするか……。うーん難しいな。前はどうしてたの?」
「以前は……そうですね、前の料理長の気分で変わってばかりでした」
「そうそう。しかも変なこだわりを持っててさ。ずーっと肉ばかりだったり、ずーっと魚ばかりだったりって感じだったよ。苦手なヒトがいても、無視して食えって強要してたし」
うっわ最悪が更新されることってあるんだ。
とことんクズじゃん前の料理長。
「そっかぁ。だとするとなおのこと、一つに絞るのはあまりよくないよなぁ……」
「前の食堂のイメージを払拭したいなら、選択を絞るのは悪手だろうよ」
そう、だよねぇ。うーんどうしよう……。
考えながら唸っていたところに、パティさんが提案してきた。
「あの、いいですか? メインを必ず一つにしなければいけない、なんてことは、ないのではありませんか?」
「というと?」
「お肉も魚も野菜も美味しいのなら、全部用意しておけばいいのです。そして、その中から冒険者たちにどれを食べたいか選ばせるのは、どうでしょう?」
ああーなるほど!! パティさんのその提案、まさに天啓かと思ったよ。
お肉をメインにしたおかず、魚をメインにしたおかず、野菜をメインにしたおかずを、それぞれ予め決めておいて、冒険者は各々おかずを選んで注文してもらうと。
「つまり、おかずを選べるおにぎりセットってわけね!」
「そうです! 食べるものを選ぶ楽しさを味わえるって、素敵だと思いませんか?」
「いいねいいね! 食べる時は楽しさも必要だって、オイラも思う!」
「オレも賛成だ。好みに合わせたメニューを自分で選ぶって発想も、面白いしな」
「よーし、じゃあパティさんの案は採用ってことで!」
忘れないように、案を紙にまとめておこう。
メニュー名は……『選べるおかず・おにぎりセット』ってところかな。
「じゃあよ、おかずも日替わりで変えてみるってのはどうだ?」
「それいい! 毎日、はさすがに無理だけど、同じおかずは七日後に出るとか」
「あらかじめ作るものも決めておけば、仕入れの予測が立てやすくていいかも!」
「同じおかずでは、冒険者も飽きてしまいそうですもんね。楽しそうです!」
いいね、具体的な案が出ると途端にイメージしやすくなった! これでライスのメニューについては、粗方決められたかな。
よし、この調子でパンのメニューも決めていこう!




