第26話 大豆が異世界から持ち込まれたものだって?
冒険者ギルドに戻って、諸々の手続きを終えたビリスは、無事にギルド職員として働けることになった。
ギルドマスターの正邪判定も難なくクリアできたし──というか、そもそもルルスちゃんが働けてる時点で、その点については心配してなかったんだけどね──あとは共に働くメンバーに挨拶をしようってことで、一緒に厨房へ行く。
厨房ではパティさんとボナくんが作業をしていた。一旦手を止めてもらってから、今しがた雇われたビリスを紹介することにした。
「はい。そんなワケでこちらが、この度新しく製パン担当としてこの食堂で働くことになりました、ビリスです!」
紹介されたビリスは、若干照れくさそうにしながら自己紹介する。
「あー、ワーウルフのビリスだ。これからこの食堂で、製パンを担当することになった。これからよろしくな」
「よろしくお願いします、ビリスさん。私はこの食堂のオーナーの、パティナーニといいます。気軽にパティとお呼びください」
「オイラはカーバンクルのボナ! この食堂の仕入れを担当してるんだ。獣人仲間が増えて嬉しいよ!」
二人もビリスの加入を喜んでる。ビリスも二人の様子に安心したのかな、嬉しそうに笑ってる。
そして、嬉しい報告はこれだけじゃないんだよね〜。
「それと、もう一つ報告があります。なんと私レベルアップしてまして、新しい調味料のレシピが開放されましたー!」
「おめでとうございます!」
「ということは、また作れる料理が増えるってことなんだよね? やったねカエデ!」
そうなんだよ。実は昨日何気なくステータスを確認したら、レベルが『6』になってたんだよね。だから、一気にレシピが2つも開放されてたってわけ!
しかも嬉しいことに、今回はあの調味料が開放されてたんだよなぁ〜!
「ありがとう! しかもなんとね、今回開放されてたのは『しょうゆ』と『調理酒』だったんだ!」
「しょうゆ……。あっ、さしすせその『せ』ですか!?」
「そうそうっ! これで残るは味噌だけだよ!」
「やりましたね!」
パティさんが自分のことのように喜んでくれるの、やっぱり嬉しいなぁ。励みになるよ〜。
あ、そうだそうだ。なんのこっちゃって顔でこっちを見てるビリスにも、私のスキルとか教えなきゃ。
それとボナくんにも、さしすせそがなんたるかを説明しなきゃね。タイミングなくてすっかり忘れてたから。
パティさんと一緒に、男性陣に私のスキルとか調味料について、簡単に説明する。
昨日食べたマーマレードも、スキルで作った砂糖を使って作ったって言ったら、感心されたよ。
「それはなんとも面白いスキルだな。料理人になるためのスキルって感じだ」
「ホントそう。結果として、今すごく助かってるからいいんだけどね」
「ふふ、本当に助かってます。いつもありがとうございます、カエデさん」
「いえいえ。じゃあまあ早速スキルを使ってから、料理を作るとしますかね」
「わーい! そろそろお腹も空いてきたんだよね」
確かに、もう夕食の時間に近いか。せっかくだし、しょうゆと調理酒を使ったものでも作りますかね。
いつものように【レシピ一覧】の画面を出して、材料を確認する。
しょうゆの原材料って大豆だよね。でもこの世界に大豆なんてあるかな?
【 しょうゆ 】
ダイズ 100 (所持数 1000)
小麦 100 (所持数 3000)
塩 40 (所持数 870)
ほーーん、大豆あるんだ。それなら問題なく作れ…………。
…………。……え!!!? ダイズ!?
ダイズって大豆のあれで間違いない!? 本当に?本当にあの大豆!?
「ね、ねぇパティさん。一つ聞きたいんだけど……大豆って、あれだよね。白っぽくて丸い豆のような……」
「ええ、そうですよ。その昔に異世界から持ち込まれた豆だとかで、今は世界中で広く生産されてますね」
「その話っておとぎ話じゃないの?」
「さぁな。でもダイズつっても使い道なんて、スープの具材にするくらいじゃねぇか?」
「へ、へぇ……」
ちょっと待て。今さらっと、とんでもないこと聞いた気がするんですが。
異世界から持ち込まれた?
もしそれが本当なら、この世界に転生されてたのは私だけじゃなかったってこと? まさか他にも日本人がいる……?
「カエデさん? どうかしましたか?」
「へっ? ああいや、なんでもないよ。材料取ってくるねっ」
逃げるように裏口から保存庫に行く。変な逃げ方じゃなかったよね?
それにしても、まさかの事実なんですけど。
今まで見てきた食材はどれも、形や味は似てても名前が違うものばかりだった。それがここにきて、名前が同じ食材が出てくるとは。
話の通りなら、見た目も同じなのかな。
目利きのスキルを発動させながら保管庫の中を確認すると、見覚えのある豆がそこにあった。
「本当に大豆そのものじゃん……。念のため確認」
[ ダイズ ]
異邦人によって異世界から持ち込まれた豆
料理以外の使い道もあるらしい
わあ……本当に大豆だぁ……。てことは私以外にも、この世界に転生した人が本当にいたんだ……。
会ってみたいけど、エルフのパティさんが昔って言うくらいだし、もう亡くなってしまっているかも。
「正直気になるけど、またいつかかな」
とりあえず、今は食堂を最優先に考えよ。色々と調べたいけど、みんなを待たせちゃ悪いし。
ダイズと小麦に調理酒用のライス、それとメイン食材のランドチキンの肉を持って、厨房に戻った。
「おまたせ〜」
「おかえりなさい」
よし、しょうゆと調理酒をちゃっちゃと作るか。
いつものように調理台に材料を置く。まずは調理酒を製造しようか。慣れた画面まで飛んで、スキルを発動させた。
調理酒を作るときに必要な米麹はなかったけど、無事にスキルは発動できたから、必要なかったみたい。米麹もあったらあったで、便利なんだけどね。
調理台が光るっていう物珍しい光景に、ボナくんとビリスが「へぇ〜」と声を漏らす。光が消えると、見覚えのある、透明度が高い琥珀色をした液体が出来上がっていた。
うん、これで調理酒は完成!
「これは、なんですか?」
「これは調理酒っていって、いろんな活用法がある調味料だよ。お酒っていっても、普通に飲めるものじゃないんだ」
「へぇ、これが料理に使えるんか」
「そうだよ。お肉を柔らかくしたり、味付けには欠かせないものだよ」
ガラスの瓶に調理酒を注いで、フタをする。
お次はしょうゆだ。ダイズと小麦と塩を調理台に置いて、スキル発動。
さっきと同じように光が材料を包んで、しばらくしたあとにふわっと消えた。光の中から出てきた液体を見た三人が、各々感想を言う。
「随分と見た目が黒いんですね」
「匂いはいいけど、味の想像が全くつかないね」
「これが本当に料理に使えるのか?」
なるほど、初めてしょうゆを見る人の感想ってこんな感じなのか。なんか新鮮だ。
「心配無用! これで美味しいおかずを作るから、まぁ見てなさいって〜」
今日はしょうゆと調理酒、そして一昨日作ったマーマレードを使った美味しい肉料理にしましょうかね!




