第21話 食材を求めて市場に来ました
今日の昼食は塩豚焼き……じゃなくて塩漬けにしたオークのバラ肉焼きと、干し葡萄とマンドラカローテのキャロットラペにパンだ。
お酢が手に入ったら、サラダのレパートリーが増えたんだよね〜。マンドラカローテの甘味と甘酢の酸味がよく馴染んでる。
塩漬けしたオークも、脂の部分はぷりぷりでお肉はしっとり柔らかくて美味しい〜。
楽しいランチタイムにいい機会だし、ボナくんに仕入れについて尋ねてみようかな。
パティさんが仕入れのスペシャリストって評価してるボナくんが、どうやって仕入れ先を決めてるのか気になっちゃったんだよね。
「ボナくんが仕入れ先を決める時ってさ、やっぱり直で食材を見て選んでるの?」
「そうだよ〜。街の市場に行って、実際に見ていいなって思ったら、店主さんから話を聞いたり交渉したりしてるんだ」
「ターガイニの市場通りには、色々な野菜もお魚もありますからね。ボナくんは食材の候補を見つけるために時々市場に出かけて、調査してくれてるんですよ」
へぇ〜市場か、いいなぁ。
なんだかんだとここで働いてるけど、街の中はまだ行ったことがないから、知らないことも多いんだよな。
「カエデは行ったことある?」
「実はまだなんだ。この街に来てすぐここで働くことになったから、街の中には行ったことがなくて」
「じゃあさ、明日みんなで一緒に市場に行こうよ!」
「いいですね! 案内がてら、何か新しい食材を見つけるいい機会にもなりますね」
「それは嬉しいけど……食堂に誰もいなくなるよ?」
盛り上がってるところに水を刺すのが心苦しかったんだけど、大丈夫なのかなって心配になっちゃったんだごめんよ……!
もちろん、市場にはめちゃくちゃ行きたい。実際欲しいものもあるし、それを抜きにしても、この世界の街の中を散策してみたいし!
だけどほら、いない間に誰かが食堂に来ちゃって、なのにご飯がない! なんてことになってたらさ……。申し訳なさが勝つって言いますか、他の人は働いてるのにって、後ろめたさを感じると言いますか……。
「そこは安心してください。事前に準備しておけば大丈夫ですし、休日申請を前日までに提出すれば、ちゃんとお休みももらえるんですよ」
あらやだなんてホワイト企業〜〜〜〜!!
え、そんなことが許されていいんですか。
ブラック企業に勤めていた時なんか、申請出しても私用は許さないとか、働いてる人もいるのにとか言われて、有給なんてものは幻だったのに。
マジで? 夢だったりしない? 騙されてない? ぬか喜びさせようとしてない?
でも、パティさんがウソをつく必要なんてないよね。
てことは本当に、おやすみをいただいちゃってもいいんですかー!? やったーー!
「それなら安心できるね。じゃあ明日は、二人に街を案内してもらおうかな」
「任せて!」
「はい、お任せください」
話が決まったところで、予定を立て始める。
ボナくんが市場のあの店はおすすめだって教えてくれたり、パティさんがルルスちゃんのお兄さんが働いてるパン屋に行ってみようって、提案してみたり。
私は私で、欲しい食材がどんなのかを二人に教えてみたりと、どんどんと予定が膨らんでいく。
なんかいいな、こういうの。おやすみの前に色々計画を立てて、次の日が楽しみになる感覚なんて凄く久しぶり。
ブラック企業で働いてた時は、こんな心の余裕なんてなかった。
ご飯だって、いつもコンビニやスーパーの値引き品をレンチンしたもの。休みの日なんてほとんどなくて、あったとしても動きたくなくて。一日中ベッドに寝転がりながら、なにをするでもなくぼーっとスマートフォンを見てるだけだった。
友人からの誘いも面倒って感じちゃう時もあって、何度か風邪をひいたってウソついて蹴ったりして。
そう考えると、異世界にいるのに今は凄く充実してるな。もしかして神様が私を転生させた理由って、こういうことを思い出させるためだったりして。
「じゃあ予定も決まったところで、後片付けして仕事に戻ろっか」
「うわ、もうそんな時間かぁ」
「お皿、私が洗いますね。職員さん用のお昼ご飯の準備は、お願いできますか?」
「りょーかいっ」
それじゃあ明日のお出かけのためにも、ひとまず今日の仕事も頑張りますかね!
******
そんなこんなで翌朝。
食堂は昨日の夜のうちに、入り口前に『本日定休日』って書いた立て看板を置いておいた。明かりも全部消して帰ったし、裏口の鍵も閉めたから、安心安全。
ちなみに楽しみすぎて、昨晩はなかなか眠れませんでした。遠足前の小学生じゃあるまいに。
そんなこといっても、楽しみだったんだから仕方ないじゃんよ。
「じゃあ早速、市場の方に行ってみようよ!」
「そうだね。野菜や魚も楽しみだし、探してるのもあるといいなぁ」
「昨日話してた、海藻類のことですか?」
昨日の話し合いの時に、二人に海藻について聞いてみたんだ。そしたら物自体はあるにはあるけど、残念ながらギルドには卸してないって、申し訳なさそうに言われちゃったんだよなぁ。
海藻は物によっては美味しい出汁が取れるし、大切な旨みの素! だからもし手に入るのなら、ボナくんに仕入れをお願いしたいんだよね。
「うん。これからメニューを増やすためにも、ちょっと見ておきたくてね。探してるものに近いものがあったら、あわよくば買っておきたくて」
「じゃあ海側の方から先に行ってみようか?」
「そうだね、案内お願いします」
「まっかせて! こっちだよ〜」
ボナくんの案内で、街の中を歩く。行き交う人たちはやっぱりみんな、ファンタジーな装いをしてる。
それに獣人も普通に街を歩いてるから、人間による迫害はないのかも。ちょっとありそうだなって思ったのは、ここだけの秘密。
装備を携えてるのは、冒険者だろうな。立派な甲冑を装備してるのは、もしかして国の騎士か警備兵だったり?
ゲームでよく目にする光景の中を、実際に歩いて見ることになるなんてね。それに普通に街中に馬車が通ってるよ。すご。
なんてことを考えていたら、ボナくんが立ち止まって振り返る。
「はい、到着。ここが海鮮市場通りだよ」
「おぉお〜……!」
目の前に広がったのは、海側の大通り。いいねぇ、この風に乗って香ってくる潮の匂いと、店の人の元気な客引きの声。
道の両端には出店がずらりと並んでいて、新鮮な魚を目的に街の人たちが品物を吟味してる。すごく賑わっているのが、一目で分かった。
ここターガイニは海に面してるって話だったから、魚の種類も豊富だろうなぁ。
早速市場へ繰り出し、海藻類を主に取り扱っている出店を探す。しばらく歩いていると、懐かしいような出汁のいい匂いが、鼻をくすぐった。
匂いがしてきた方を見れば、乾物を取り扱ってる出店を発見した。
「あっ! これ!!」
商品が並んでいるカゴを見ると、そこにあったのは、まさにお宝の山だった。
干し海老っぽいものはもちろん、干した貝柱っぽいのがある!
それに瓶の中に入れて売られているのは、間違いなく海苔だ! よく見れば昆布もある!! さすがに鰹節はないか。ちょっと残念。
とはいえ大収穫だよ! こっちの世界にも、こういうの作ってるところってあるんだね。何はともあれ、見つかって良かった〜!
「すごい、勢揃いじゃん!」
「あっはは、いらっしゃい嬢ちゃん。うちの乾物が気になるとは、お目が高いねぇ」
「これ、店主さんが作ってるんですか?」
「ああそうだよ。ここにあるのは全部、うちの漁場からの直売品さね。よかったらこれ、飲んでみるかい? 自慢の乾物で作ったスープだよ」
店主は傍で火にかけていた鍋から、出汁らしいものを一杯カップに注いで渡してくれた。中には薄黄色の液体が入ってる。多分昆布だしかな。
一口飲むと、昆布から出たであろう出汁の濃厚な甘みと旨みが、口の中に広がっていく。ほのかな昆布の香りも漂って──。
「おいしい!!」
「本当ですね……!こんなに透明なのに、コクがあります!」
「クセがなくて飲みやすーい!」
私はもちろんだけど、パティさんとボナくんも気に入ったみたい。私たちの反応に、店主さんもご満悦っていった様子。
こんなに美味しい出汁が取れるのなら、これは絶対欲しい。ひとまず今は全部を少しずつ買うとして、あとはボナくんに交渉をお願いするとしますか。
ボナくんに目配せすれば、予想していたらしくて、無言で頷いてくれた。話が早くて助かるよ。
「店主さん、ひとまずここにあるやつを、全部少しずつください」
「あいよ、まいどあり!」
「あと店主さん、あとで少しお話ししたいんだけどいいかな?」
「いいよ。市場が落ち着いた頃に、またおいで」
楽しみだなぁ。この出汁でなに作ろう。
味噌汁は絶対でしょ、それに肉じゃがとかの煮物類も外せないよね。あとお茶漬けもいいかも!
作りたいものがどんどん増えてくな。こうなってくると、しょうゆと味噌のレシピの早期開放を望むんだけど……。
そこばかりは天運に委ねるしかないかぁ。
あーーどっちかでもいいから早く開放されないかなー!




