第17話 女子会のお供は食べるスープ
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鍋でコトコトとスープを煮る。
夜になると、ギルドに来る冒険者は少なくなる。だからこの時間に食堂に来るのは、ほとんどギルドの職員だ。
夜まで仕事をしているヒトも多いから、今作ってるのは言ってしまえば、職員用のお夜食ってとこかな。
というか、今のところミアちゃん以外の冒険者は来ないんだけどね。やっぱり、前任のバカ料理長が残しやがった爪痕は大きいみたい。
ホントなにしてくれやがったんだ。直接会うことがあろうものなら、何度ブン殴ってやろうか。
でもまぁ……私冒険者じゃないから、強い魔法とかは使えないんだけどさ。それにそんな状況があったからこそ、今ここで仕事ができてるんだろうけど。
そう考えるとちょっと複雑。
ちなみに今日の夜ご飯は、ごろごろ野菜とオークの骨付き肉スープと、パンのセット。野菜は大きめに切ってあるから、食べるスープって感じだね。
このスープ、解体場のアブスキさんから、いいスペアリブを卸してもらった時に思いついたんだよね〜。
当たり前のように魔物の肉だけど、一回食べちゃったらもう気にしても仕方ないかって吹っ切れたわ。
それにウインナーが美味しかったのは本当だし、だったら使わない手はないじゃんよ。
「よし、これくらいでいいかな」
「美味しそうなスープですね」
「味付けは塩だけだけど時間をかけた分、野菜と骨付き肉からいい出汁が出てるからね〜。夜ご飯にしよっか」
「はい」
椅子を持ってきて夜ご飯の準備をしていると、厨房の外から声が聞こえてきた。
「あ〜。いい匂いね〜」
「サラサさん、お疲れ様です」
「うん、カエデもお疲れ様」
サラサさんはにっこり笑って、労いの言葉をかけてくれた。
「あらサラサ。休憩ですか?」
「そんなところ。今からお夕飯?」
「はい。もしよかったら、ご一緒にどうですか?」
「その言葉待ってました。今日は私一人だけじゃないんだけど、それでもいい?」
「大丈夫ですけど、あの、その子は……?」
実はさっきからずっと気になってたんだよね! サラサさんの横にいた、腰くらいまでの大きさのふわもこな獣人のこと!
サラサさんと同じ服を着てるから、受付嬢なのは間違いないよね。灰色の毛と明るい赤い眼から察するに、オオカミ系の獣人なのかな?
「この子は私の後輩で、ルルスっていうの。ほらルルス、自己紹介してあげて」
「はいです。はじめまして、ワタシはワーウルフのルルスと申すです。よろしくお願いするです!」
お辞儀をしたその子を見て、私の中で電撃が走った。
こっ、この子……! これまで出会ってなかったタイプのカワイイ系の子だー!!
ワーウルフってもっとこう、怖いイメージだったんだけど、こんなカワイイ子もいるの!?
だって、ちゃんと手入れしてるってわかるツヤツヤでもふもふの毛並み! くりくりなお目目にゆらゆら揺れてる尻尾! ピンと立ったお耳! そして極めつけにこの礼儀正しさ! ちょっと言葉が怪しいのも逆にいい!
一気に心を打ち抜かれました、はい。
だけどここで取り乱してはいけないぞ楓。第一印象は肝心。今後の付き合いに影響が出るからね。
だから抱きつきたい衝動をぐっと堪えて、なるべく自然な笑顔を作りなさい楓。
「丁寧にありがとう。私はカエデ。こちらこそ、よろしくね」
「カエデさんのことは、サラサ先輩からお話を聞いてたです! すごく美味しい料理を作れるとのことで、ワタシも食べてみたくなったです!」
あぁああ〜〜やめて〜〜! キラキラしたお目目で私を見ないでぇええ〜〜! 可愛さに打ち抜かれちゃうからぁあ〜〜!!
「そういうことなら、歓迎するよ。用意するから、サラサさんと一緒に座って待っててね」
「はいです!」
「パティさん、パンを用意してもらってもいい?」
「わかりました」
ちゃちゃっと準備を整えて、サラサさんとルルスちゃんの前にスープセットを差し出す。スープを見た2人はもちろん、パティさんも目を輝かせてる。
ここには可愛いが溢れてて幸せだわぁ。
「ごろごろ野菜とオークの骨付き肉スープです。パンと一緒にどうぞ」
「美味しそう〜。じゃあさっそく。いただきます」
「いただきますです!」
パティさんはスープ、サラサさんは野菜、ルルスちゃんは肉をそれぞれ食べる。こうして見ると個人差があって面白い。
「このスープ、すごいですね。お野菜とお肉の旨みがたっぷりなのに、優しい風味になってます!」
「野菜も食べ応えがあっていいわね。しかも実にお肉の味も染み込んでて、不思議な味わいだわ」
「このお肉! とっても柔らかいです! それに噛むとぎゅってスープが出るです! おいしい!!」
どうやら三人とも気に入ってくれたみたい。
スープはどうだ野菜や肉はどうだって、感想合戦になっちゃって。私も食べますか。
うん、スープに野菜とお肉の出汁がしっかりと溶け出してる。骨付き肉から出た脂と野菜の出汁もいいバランスだし、いい意味でシンプルな風味になってる。
塩は入れたけどあくまで調整のためだから、この美味さは野菜とお肉のおかげだね。
コショウがあればまた味が締まるんだけど、異世界の胡椒って高級品なイメージがあるからな……。手に入るかどうか。調味料ではあるから、多少はスキルに期待しておくけども。
それはそれとして。人参に似てるマンドラカローテや他の野菜たちも、長時間煮込んだからとろとろ! 簡単に噛みちぎれるくらいに柔らかいし、噛むと野菜の旨みとたっぷり吸ったスープの味が広がって、すごく美味しい。
それにこのオーク肉のスペアリブ。お肉もほろほろと崩れて、スープと野菜の出汁が、肉汁と一緒にぶわって溢れてくる。我ながらいい出来〜。
「じっくり煮込んだ甲斐があったわぁ」
「時間をかけると、こんなに美味しいスープが出来上がるんですね」
「まぁね。煮込み料理は時間をかけてこそ、だよ」
「疲れた体にこの味は効くわぁ。いいわよねぇパティは。こんな美味しい料理を、いつも一番に食べられるんだから」
「ですです! とっても羨ましいです!」
女性陣でこうして食事をしながら話に盛り上がるの、女子会みたいで楽しいな。
なんか懐かしい気分になっちゃう。日本でも友人たちとたまに遊んでは、バカみたいな話ばっかりしてたなぁ。みんな元気してるかな。
「カエデさんの料理、お兄にも食べさせたいです」
「ルルスちゃん、お兄さんがいるの?」
「そうです! 両親と弟妹たちのために、ワタシとお兄が働きに出てるです」
唐突な異世界あるある来た。
こんな小さい子が、家のために出稼ぎに出る必要があるだなんて。実際に目にすると心底驚かされちゃうよ。
「へぇ〜、立派だね。お兄さんって、どんな人?」
「そうですね……一言で言うなら、パン作りバカです!」
「ぱっ、ふぶっ!?」
まさかの発言に吹き出しちゃったじゃんよ。
まさかこんなカワイイ子から、バカなんて単語が出るとは思わなんだ……。
「大丈夫ですか!?」
「だっ、大丈夫……ちょっと変なところに入っただけだから」
「気を付けてね。ここにヒーラーはいないんだから」
「はい……。それでパン作りバカって、どういう意味なのかな?」
「えっとですね。お兄は家族に美味しいパンを食べさせたいからって、必死に修行してパン職人になったです。このパンも、お兄が働いてるパン屋のパンだって、パティさんから教えてもらったです」
「えっ、そうなの?」
あの例の謎の手紙を思い出す。
差出人の名前がない手紙って聞いたけど、なんかちょっと引っかかる。だってそのパン屋を知ってるってことは、ルルスちゃんとお兄さんの関係を知ってるってことだよね。
さらに手紙を出すってことは、ルルスちゃんの職場──つまりここの状況を知ってることにもなるよね。ううん、むしろ知らなきゃ手紙を出そうとは思わないはず。
女の勘の域は出ないけど、手紙の差出人はもしかしてこのギルドの関係者……?
「そうなんです。老舗なのですが、とても質の良いパンを卸してくれる取引先なんですよ」
「へぇ〜。いつか会ってみたいな、そのお兄さんに」
「会えたらパンの感想を言うといいです。きっとすごく喜ぶですよ!」
「うん、そうしてみるよ」
それからしばらく談笑してから、サラサさんとルルスちゃんは仕事場に戻った。私とパティさんも後片付けをして、最後の掃除を始めた。




