第16話 錬金術師とマヨネーズ
材料は、常温に戻した卵と塩、食用油、そして新たな調味料の砂糖とお酢! ちなみに卵は全卵を使うよ。
まずはボウルに卵を割り入れて、そこに食用油以外の材料を入れる。そしたらまずは、砂糖と塩を溶かすように混ぜていく。この時、白身もなるべく切るようにする。
本当はハンドブレンダーっていう文明の利器に頼りたかったけど、この世界にそんな高尚なものはないので、泡立て器で頑張るしかない。
かき混ぜる目安は、全体的に色が白っぽくなるまで。
卵が変化していく様子が面白いのか、パティさんもミアちゃんも食い入るようにボウルを見つめている。
「すごい、色が変わっていきます!」
「これは、空気を取り込んだからか? いやそれだけでここまで変わるものなのか……?」
「おもしろいでしょ。でもまだ完成じゃないよ。今度はこの食用油を少しずつ入れていくんだけど……。ミアちゃん、やってみない?」
「な、何故ミア様がそんなこと……」
「ここからさらに変化していく様子、間近で見てみたくない?」
あえて好奇心を刺激する言い方をしてみる。それでも少し迷っていたみたいだけど、最終的に手伝うって決めたみたい。
隣に来て、なにをすればいいかと尋ねてきた。
「それじゃあ取り分けておいたこの食用油を、ボウルの中に少しずつ入れてってくれる?」
「一気に入れてはダメなのか?」
「うん。一度に全部入れちゃうと、失敗しちゃうんだよ」
「分かった。ミア様に任せろ」
「お願いね」
ミアちゃんが食用油を入れていく。
ここでポイントなのが、最初は素早く混ぜること。ここでお酢と油を、しっかりと乳化させておくのが成功する秘訣なんだよね。
ちゃんと乳化ができれば、シャバシャバしないあのまったりマヨネーズに仕上がるから、ここは大事。
混ぜていくと、液状だった卵に段々とろみがついてきた。いい感じに乳化できてるみたい。
「なんだ、形状が変化していく……!」
「なんだか、もったりしてきましたね」
「ここまでくれば、あと少しで完成だよ。最後まで気を抜かないでね」
「ミア様を誰だと思っている。天才錬金術師だぞ」
「分かってるよ」
食用油を全部入れたら、混ざりきってない部分がないように、全体を見ながら混ぜ合わせていく。
泡立て器が重く感じるようになって、ボウルの中身がとろっとしたら、マヨネーズの完成!
「はい、マヨネーズの完成!」
「これが、マヨネーズ……!」
「あの少ない材料から、こんなに多いものができるのか……!?」
「出来立て、そのまま舐めてみる?」
泡立て器についていたマヨネーズを、小さい木皿に乗せて渡す。パティさんとミアちゃんがそれぞれ指で掬ってひとくち舐めると、驚きに包まれたらしい。
「すごいです! まったりとしてて、玉子の濃厚な味がします!」
「パティ姉の言う通りだ。しかしなんだ、この後を引く酸っぱさは……。でも、おいしい……!」
そうでしょうとも! 美味しいんだよマヨネーズは!
だがマヨネーズの真の力はここからってこと、しかと目に焼き付けてあげましょう!
「ふふん、いいでしょ? でもこれで終わりじゃないよ。ここから食べ応えのあるサラダを作るから、よく見ててね」
冷蔵保管庫の中から、昨日作って余ったメロウパンプキンの塩煮を出す。あとは干し葡萄もあったし、サニーアップル(見た目も内容もまんまリンゴだった)もあるから、それも入れよう!
ボウルに入れたメロウパンプキンは、皮ごと潰す。多少かたちが残っててもいいけど、柔らかかったからか今回はペースト状になった。
そのボウルに干し葡萄と、薄めのイチョウ切りにしたサニーアップルを入れて、そこにマヨネーズを加えて混ぜ合わせる。
簡単なもので、なんとこれで完成である。
「はい、メロウパンプキンとサニーアップルのマヨネーズサラダの出来上がり!」
「わあ、色合いがすごく綺麗です!」
「これにはライスは合わないから、出来るならパンを出したいんだけど……。あるかな?」
「ええ、ちょうど今日卸してもらったパンがありますよ」
「よし、それを用意したらご飯にしよっか」
それから準備を整えて、私たちはお昼ご飯を食べることにした。三人揃っていただきますって言ってから、サラダを食べる。
嗚呼、マヨネーズ。嗚呼マヨネーズ、マヨネーズ。
美味しい〜。マヨネーズで和えたから、メロウパンプキンの甘さとサニーアップルの甘酸っぱさが、喧嘩することなく調和してる! そこに加わる干し葡萄のほんの少しの苦味も、いいアクセントだなぁ。
全体的にまろやかに仕上がってるのに、それぞれの素材が引き立ってる。
その土台はやっぱり、マヨネーズにあり! 他の食材にはない玉子の濃厚な味も負けてないね!
「これ、とっても美味しいです! マヨネーズが全体をまとめてくれてるんですね!」
「そうなんだよねぇ。パンに乗せて食べても美味しいよ」
「……! 本当ですね! サラダにはない小麦の香ばしさで、食が進みます。それに、水分が多いサラダと一緒に食べることで、パンも食べやすくなってます!」
「そうでしょそうでしょ! ミアちゃんはどう?」
パティさんと感想を言い合ってる間も、私は見逃さなかったよ。もぐもぐと、夢中で食べ進めてるミアちゃんのこと。
突然話を振られたミアちゃんは、ぎくりと肩が跳ねた。そのまま顔を赤らめながら、ふい、とそっぽを向く。
「……認めてやらんこともない。マヨネーズの力に驚きはしたが、ミア様が好んでこれを食べてるのは、その……。そう、解析するためだ!」
「そっか。気に入ってもらえてよかった。……マヨネーズはね、どんな食材にも合うんだよ。野菜はもちろん、肉にも魚にも、なんにでも合う万能調味料なのさ!」
「万能、調味料……」
「うん。だけどね、主役ではないの。マヨネーズの役目は、あくまで他の食材を引き立たせるための味付け役。つまりは土台なんだ」
一度フォークを置いてから、ミアちゃんを見る。
「マヨネーズはそれぞれの食材を繋ぎ合わせて、一つにまとめてくれる。そういった調味料なの」
このサラダだってそうだ。
メロウパンプキンとサニーアップルと、干し葡萄。それぞれ別々なのに、こうしてマヨネーズで混ぜ合わせることで、繋ぎ合って、一つの料理として出来上がるんだよね。
「これって、冒険者パーティと似てない? 一人一人は違っても、それぞれが繋がり合うことで、どんな依頼もこなせるって、私は思う」
「っ……」
「ミアちゃんは本当に凄いと思う。依頼達成のために、完璧な作戦を立てられるんだもん。だけどそれは自分の中だけの完璧であって、他の人には重荷に感じることもあるかもしれない」
「ミア様の作戦が、自己満足なものだと……?」
「そこまでは言わないよ。いや、ある意味ではそうなのかな? とにかく、そんなに天才的な頭脳を持ってるのなら、味方の能力も正確に測れるはず。そしたらもっといい作戦が組めるかもしれないよ。マヨネーズと同じで、色々な人を繋ぎ合わせてさ」
ちょっと説教くさくなっちゃってるけど、ミアちゃんは素直に聞いてくれてる。マヨネーズサラダを見ながら、なにかを考えてるみたい。
まぁ言いたいことは全部言ったんで、止めてた食事を再開する。サラダうまぁ。
「……全く、本当に。馬鹿に付き合うのは疲れるな。言ってることは全然論理的じゃないし、何の法則も成り立たないし、ただの空論にすぎないし」
「あはは、これはまた手厳しい」
「だが……。作戦が自己満足だというのは、よく見抜いたな。本当のことを言うと、ミア様は焦っていたのだ。早くAランクになって認められたいって思いが先行しすぎて、自分さえ良ければなんて思っていた」
そう言って笑うミアちゃんは、年相応の子供に見えた。なんにも取り繕ってない、ありのままって感じに思えた。
「馬鹿のくせに天才に一矢報いるなんて、無礼がすぎる。でも礼を言うぞ。お前はミア様に、大事なことを気付かせてくれた。何事も土台が大事なのは、ミア様も同じ意見だ」
「ミアちゃん……」
「ミア様は変わってみせるぞ。これまで学んできた錬金術をもう一度基礎から見直して、マヨネーズみたいに周りを活かせる天才錬金術師になる! そして必ず、Aランク冒険者になってみせるぞ!」
どうやら元気を取り戻したみたい。私はなんにもしてないけど、マヨネーズさまさまだ。
「応援してるよ。まだサラダ残ってるけど、おかわりいる?」
「いる。大盛りで頼むぞ!」
「はいはい」
私に出来ることは料理だけだけど、その料理で誰かが笑顔になってくれるのなら。これからも頑張って、いろんな料理でみんなを支えていこう。




