第15話 迷子の天才錬金術師を見つけました
今日の私は朝から気分が良い。
昨日は無事に挨拶回りを終えて、夜にステータスを確認したらレベルが4まで上がってた。レベルが上がったってことは、新しいレシピが開放されたってこと。
なにが開放されてるのか見てみたら、求めていたさしすせその[砂糖]と[お酢]が追加されてたんだよねー! マジでラッキーだと思ったよ。
ちなみに砂糖の材料はサトウキビのような「シュガーケイン」って植物で、お酢の方はライスだった。
そんなわけで、早速朝から砂糖とお酢を作ったワケでして。そこで、ずっと気になってたけど特に調べてなかった私のアビリティが、大いに役に立ったんだよね。
私のアビリティ[時の神の祝福]は、スキルを発動した際にかかる時間を短縮できるものだった。
つまり、醸造とか発酵だとか熟成だとかの工程をすっ飛ばして、あっという間に調味料を製造できるってワケ。
まさかこんなチートが与えられていたとはねー。でもこのアビリティをくれた神様には感謝しなくちゃ。せっかくレシピが手に入っても、物が完成するまで何ヶ月も待たなきゃいけないとか、お話にならないもんな。
なんにせよ、砂糖とお酢が手に入ったのは大きいぞ!
パティさんも段々と調味料の魅力に惹かれてるらしくて、新しい調味料を手に入れると物凄く喜ぶんだよね。せっかくだし、お昼ご飯は新しく手に入った砂糖とお酢を使った料理にしようかな。
「さてひとまずテーブルを拭いて……って、うわ! 誰あなた!?」
薄暗い飲食スペースのテーブルの一角で、知らない子供が一人座っていた。最初は幽霊かと思ったけど、私の声でこっちに反応したから、一応は生きてるヒトみたい。
こんな薄暗い場所に一人でなにをやってるんだろう。
「なんだお前。誰の許しを得て、このミア様に近付いてるんだ」
「許しって……。私はこの食堂の料理長だよ。だからここにいても、おかしくないでしょ」
「ふん、そんなの知らない。ミア様は偉大な冒険者なのだから、ここにいてもおかしくはあるまい」
なんていうか、凄く役に入ってるような話し方をする子だなぁ。しかもプライドも高いとみた。
とはいえ、一人でこんなところにいるなんて、なにか事情があるに違いない。ちょっと強引だけど、ひとまず明るい場所に移動しますか。
テーブルの上に乗っていた手を握って、厨房に近いカウンターまで連れて行く。予想通り暴れ始めたけど、子供の力で大人を振り払うことなんてできないでしょうよ。
「なにをする! 不敬だそお前! 気軽にミア様の体に触るな!!」
「はいはい。そんなにイライラしてるってことは、お腹が空いてるんでしょ? ここは食堂だし、何か食べさせてあげる」
「いらない! 必要ない!! 放せってば!!」
「もう暴れないの!」
さすがにこんだけ騒がしくしてたら、なにかあったのかと心配になったみたい。厨房からパティさんが出てきて、こっちの様子を見てきた。
「カエデさん、どうかしまし──ミアちゃん?」
あれ、そことそこお知り合い?
パティさんの声が聞こえたらしく、暴れていた女の子の動きがおとなしくなった。
「っ、パティ姉……」
「パティさん、この子を知ってるの?」
「はい。その子は一人前の冒険者であり、天才錬金術師のミアちゃんです。確かBランクだったかと。以前はここにもよく来てくれてたんですよ」
錬金術師!? ファンタジーにもよく出るワードだけど、本当にいるんだ!
というかこんな子供なのに、あの車輪の暁の人たちよりもランクが上なの!?
「人は見かけによらないってよく言うけど、そうなんだね……」
「失礼なやつだなお前は。いい加減手を放せ!」
「なにか食べるって約束してくれたらね」
「何故そんな馬鹿な話に、天才のミア様が付き合ってやらねばならんのだ!」
「ミアちゃん。カエデさんは料理がとっても上手なんですよ。食べてくれたら、私も嬉しいです」
「そんな、パティ姉まで……」
「お願いします。ね?」
おお、パティさんのお姉さん力が遺憾なく発揮されてる。そんでもって、この子はどうやらパティさんには強く出れないらしい。
ぐぐ、と歯を噛み締めていたけど、やがてしゅん、とおとなしくなった。
「……仕方ないから、食べてやる」
「約束だからね」
「わかった。わかったからもう放せ」
「はーい。ああそうだ、私はカエデ。よろしくね、ミアちゃん」
「気安く呼ぶな。ミア様はお前を認めてなんかないんだからな」
「はいはい」
おとなしくなったミアちゃんに水を出す。パティさんに軽く事情を説明して、どうしてあんな場所にいたのか聞くことになった。
「ミアちゃん、よければ話してくれませんか? どうして暗い場所に一人でいたんですか?」
「それは……」
「ここで聞いたことは、誰にも言わないからさ。冒険者とはいえ、子供が一人でいたら気になるってもんだよ」
説得を試みる。プライドが高いとはいえ、この子にまだ子供らしい甘えたいって気持ちがあれば、話してくれるかなって期待を込めて。
少しの間静かだったけど、やがてゆっくりとミアちゃんが話し始めてくれた。
「この間、ミア様を含めたソロ冒険者たちで集まって、Aランク昇格のために依頼を受けた。ミア様の実力なら、簡単にこなせる依頼だった。なのに、パーティが馬鹿ばかりで、依頼に失敗したのだ!」
あー、なんかありそうな話だなぁ。
一人が飛び抜けて強いから、周りがついていけなかったとか。連携がうまくいかなくて、動きがバラバラになった結果怪我を負ったとか。穿った考えだけど、仕事を押し付けて他人任せにしていたとか。
「失敗って、なにがあったの?」
「あの馬鹿ども、ミア様の作戦通りに動かなかったのだ! 完璧な布陣、完璧な展開、完璧な終着点だったのに! 失敗なんて100%あり得なかったはずなのに!」
「それなのに、失敗しちゃったのね」
「そうだ! 誰も彼も足を引っ張って、作戦がめちゃくちゃになった! だから馬鹿はキライなんだ!!」
「そうだったんだ……」
予想的中ってか。
見た目で言えば、ミアちゃんは12歳くらいの子だ。そんな子がBランクになってて、錬金術師をしてるってことは、確かに頭はいいんだろうね。多分この子の中では、完璧な作戦だったんだろう。
私は冒険者じゃないけど、ブラック企業で働いていた時はチームで動いてた。だから、多少は分かる。
パーティを組む冒険者達は、一人一人が違う能力を持ってるはず。なのに今回全員が元々ソロだったってことは、関係値が浅い状態で依頼に挑んだってこと。随分と大胆だなとは思うけど、あえてそこは言及しない。
ただ、うまく連携するには、各々歩み寄る必要があると思う。でも元のプライドの高さと自分の腕の自信っぷりが、この子にその選択を選ばせなかった。
とまぁ、ここまで勝手な推理をしたわけだけど。ここであーだこーだ言っても、多分この子は納得しない。
私のことを馬鹿って見下してたもんね。そんな奴の言葉なんて聞くかって感じになるでしょ。
でも私にも出来ることがある。だから別の方法で、この子に大事なことを教えてあげましょうかね。
「……ねぇ、ミアちゃんは天才錬金術なんだよね?」
「……そうだ。万象をことごとく解き明かして、世界の全てを識るために、錬金術師になったのだ。だからミア様に知らないことなどない」
「だったら、マヨネーズって知ってる?」
「まよねーず? なんだそれは。新種の薬か?」
よし食いついた!
この子にとって、知らないことは興味をそそられるんじゃないかって思ったんだよね。思った通り、私を怪しんでるような目つきで見てきた。
「違う違う、料理に使うものなんだよ。知らないんだったら、作るところから見せてあげる。どう?」
「それはおもしろそうですね! ミアちゃん、どうでしょう。一緒に見学しませんか?」
パティさんナイスフォロー! さすがに知り合いからの提案は断らないでしょ!
「……パティ姉がどうしてもと言うのなら、見てやらんこともない」
「どうしても、です」
「……分かった。ミア様は天才だけど、馬鹿の誘いを受けてやる。ありがたく思え」
「はいはい、ありがとうね」
無事に釣れたミアちゃんとパティさんと一緒に、厨房に入る。さてマヨネーズ作りを始めましょうかね!




