第14話 手土産のおにぎりと挨拶回り(鍛冶場編)
まずは第一関門クリア! この調子で次に行きますか。
「次は鍛冶場だね」
鍛冶場は外にあったよね。外に出るとそれらしい工房があったから、ひとまず入り口で声をかけた。
「すみませーん!」
声をかけると奥から返事が聞こえた。それからやってきたのは、若い見習いっぽい青年の人だ。この人が鍛冶場のリーダー、なのかな? ちょっと意外。
「どちら様っすか?」
「はじめまして。私、昨日からギルドの食堂で働くことになったので、ご挨拶をと思いまして」
「ああ〜、わざわざありがとうございます。親方は奥にいるので、案内するっすよ」
「あれ、あなたがリーダーじゃないんですか?」
「違うっすよ。オレは親方の弟子で、イグニスっていいます」
「そうだったんですね。私はカエデといいます。これからよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。そんじゃ、奥にどうぞ」
イグニスさんの案内で、鍛冶場に入る。
ごうごうと炎が燃えている巨大な炉に、冷却用の綺麗な水場。色んな素材を入れている大きなカゴに、立てかけられてある色んな武器や防具。
カンカンと響き渡る金属を叩く音に、炉の炎で蒸されている熱い空気。その中で何人もの鍛治職人の人たちが、それぞれ作業に勤しんでる。ずっと中で作業していると、汗で服がびちゃびちゃになりそう。
「鍛冶場ははじめてっすか?」
「はい。すみません、物珍しくて色々と見ちゃって」
「大丈夫っすよ。ここの武器は頑丈なものが多くて、冒険者にも人気が高いんすよ。だから連日注文が届くんすよね。おかげで働き詰めの毎日っす」
「なるほど……。だからこんなに多くの人たちが働いてるんですね」
「はい。そんでその鍛治職人連中の中でも親方の腕は一流で、どんな武器も防具も完璧に仕上げる偉大な人なんすよ」
「それはすごい……」
「でしょ? それがあの人っすよ」
イグニスさんが指を差した先を見ると、大きな背中が見えた。何度か金属を叩いて、確かめるように剣を見てる。
佇まいだけで、職人です! って圧を感じる。
「お師匠〜、お客さんっすよ〜!」
「ああ? 客だあ?」
「はい。食堂の人がお師匠に挨拶に来たんすよ〜!」
「あんだとぉ!?」
イグニスさんにお師匠と呼ばれた人は急に怒鳴ったかと思えば、そばに置いてあった剣を手に取って立ち上がった。
立ち上がっても背が低いところを見ると、ファンタジー世界ではエルフに続いて定番の、ドワーフっぽい人なのかな。いや違うってそうじゃなくて、なんで急に怒鳴られたの!?
ぐるりと振り返ったその人は、目を血走らせながら剣を振り上げて、こっちに襲い掛かろうとしてきた。どうしよう、殺される!?
「二度と来るんじゃねぇって言ったのがわからねぇってか! 俺の忠告を無視するたぁ、殺されても文句はないってことだよなぁ!?」
「ひっ……!」
「ちょっと待ったぁ!! 落ち着いてくださいよお師匠!」
慌てた様子でイグニスさんが私の前に立ち塞がった。怒鳴ってきた人はどうやら止まったみたいで、でも声を荒げながら叫ぶ。
「邪魔すんじゃねぇイグニス!!」
「お師匠の方こそ落ち着いて!! 人の話を聞いてくださいっすよ! よく見てください。この人はアイツじゃないっすよ!!」
「ぁあ!? なにワケわからんこと、を……」
あまりに怖くて腰が抜けちゃって、その場にへたり込んだ私を、怒鳴っていた人がよーく見てきた。
少し沈黙した後、状況を理解したみたいで慌てて武器を下ろして謝ってきてくれた。
「すまねぇ嬢ちゃん! 俺の勘違いで怖い思いさせちまって!!」
「え? えっと……」
「もう、本当っすよお師匠。人の話聞かないで急に怒鳴って、こんな無防備な人に襲い掛かろうとして。カエデさん、大丈夫っすか? どこか怪我とかしてないっすか?」
イグニスさんが差し伸べてくれた手を握るけど、少し力が入らない。完全に腰が抜けちゃった……。
「それは、大丈夫なんですけど……。すみません、腰が抜けちゃって……」
「ですよねぇ。ほらお師匠、手伝ってください」
「ああ、わかってらぁよ。本当にすまなかったな。許してくれとは言わねぇ、落ち着くまでゆっくり休んでくれや。今、水を持ってきてやるからな」
「はい、ありがとうございます……」
怒鳴ってた人が、持ってきた武器を片手に水を取りに走り去る。私はイグニスさんに手伝ってもらって、近くにあった椅子に座らせてもらった。
あの気迫怖かったな……本当に殺されるかと思った。
「はぁ……」
「うちのお師匠が、すみません。あの人、前の料理長と色々あって。それから食堂の人って聞くと、すぐアイツだって勘違いしちゃうようになって。困ったもんすよ」
「相当溜まってるんですね……」
「基本いい人ではあるんすけどねぇ……。オレからも改めて謝罪するっす。本当にすみません」
「ほれ嬢ちゃん、水持ってきたぞ。飲めるか?」
木のコップを片手に戻ってきたドワーフっぽい人が、心配そうにこっちを見上げながら声をかけてきた。素直に受け取って水を飲むと、ひんやりとした喉越しが心を落ち着かせてくれる。
「ありがとうございます。だいぶ落ち着きました」
「知らなかったとはいえ、本当に申し訳なかったな」
「誤解も解けたみたいですし、もう大丈夫ですよ」
そう言って笑えば、相手も納得してくれたみたい。もう一度謝罪の言葉を述べてから、自己紹介してくれた。
「俺はこの鍛冶場で頭領をしている、テールムだ。見ての通りのドワーフで、この道で60年生きている」
やっぱりドワーフの人だったんだ。立派なヒゲに、鍛え上げられた立派な腕。イメージしているドワーフそのものが目の前にて、しかも話せるなんて。
こんな経験は異世界だからこそだね。
「はじめまして、カエデといいます。昨日から、食堂の料理長として働いています。これからよろしくお願いします」
「おぅよ。礼儀正しくて素直ないい嬢ちゃんじゃねぇか。そういうやつは好きだぜ」
「ありがとうございます。それと、ご挨拶の印にこちらを持ってきました。みなさんで食べてください」
腰が抜けた時に床に落としちゃったけど、中身は無事だったみたい。解体場で出した時のように包みを広げて、二人におにぎりを差し出す。
「これはおにぎりって言って、手掴みで食べるものなんです。二種類用意しました。あとこっちはガーキンの浅漬けっていって、しょっぱいけど美味しい漬物です」
「へぇ、面白いライスっすね!」
「こんな形は見たことがねぇ。それに手掴みで食べるとは、今までありそうでなかった発想だ。ありがたくいただくぜ」
テールムさんがフリジットサーモンおにぎりを食べる。一口噛んだ途端に、カッと目を見開いて驚いたのが分かった。
「うんまいなぁ! これはフリジットサーモンを焼いてライスに混ぜたのか。この脂っ気と塩っ気が実にいい!」
「ありがとうございます。こっちのガーキンもどうぞ」
「うむ。……んぉ!? このガーキンも美味い! コリコリっとした食感に、なによりこのしょっぱさ! これだけで酒がいけそうだ!!」
にこにこと笑顔でおにぎりと浅漬けを楽しむテールムさんを、イグニスさんが羨ましそうに見てる。
その視線にテールムさんも気付いて、食べるよう勧めた。
許可をもらったイグニスさんが、待ちきれないって感じでおにぎりに手を伸ばす。一口食べると、目をキラキラとさせてこっちを見た。
「うっま! これめちゃくちゃうまいっす!」
「気に入ってもらえてよかったです」
「このガーキンも美味い! 汗をかいた身体に染み渡っていくみたいで、安心する味っすね」
「鍛冶場はいつも熱いだろうから、こういったしょっぱいものをより美味しく感じるかなって」
「はい。これを食べたら力がみなぎるっす!」
「そうだなぁ。いやぁ実に美味い。これなら食堂に通うのが楽しみになるってもんだ」
テールムさんが水を飲んでから、手を差し出してきた。
「これからよろしくな、嬢ちゃん。もし包丁を研いで欲しかったり、なにか調理器具が欲しくなったら、いつでも来な。従業員価格で、しっかり面倒見てやろう」
「ありがとうございます。これからお世話になります、テールムさん。イグニスさん」
差し出した手を握り返す。なにはともあれ、無事に挨拶回りができてよかった。




