第13話 手土産のおにぎりと挨拶回り(解体場編)
お昼ご飯を片付けた後、少し用意をした私はちょっとの間厨房をパティさんに任せることにした。
「それじゃあ行ってくるね」
「はい。いってらっしゃい」
用意した荷物を片手に、厨房を後にする。
食材の仕入れの話を聞いてから、そういえば挨拶回りできていなかったなって思い出したんだよね。これからお世話になるのだから、挨拶は大事。基本的なことはちゃんとしないと。
それに差し入れを持っていけば、ついでに私の腕も見てもらえるし一石二鳥だよねってことで、お昼を食べ終えてからもう一度おにぎりを作った。
用意したのは塩おにぎりと、お昼に食べたフリジットサーモンおにぎり。あとは仕事で疲れてるかなって思ったから、塩分補給用のガーキンの浅漬け。
「まずは解体場からかな」
確か食堂の向かい側の場所だっけ。受付カウンターの奥にある「従業員専用」の扉をノックする。
返事がした後に出てきたのは、いかにもな雰囲気を纏った、ガタイがいいスキンヘッドの人だった。
「おぅ、なんだ。買取依頼の冒険者が来たのか?」
「いえ、そうではないんですが……。私、昨日からこのギルドの食堂で働くことになったので、ご挨拶をと」
「おお、そいつぁご丁寧にどうもな。せっかくだ、中に入んな」
「ありがとうございます」
見た目の割に優しそうな人でよかった〜。追い返されたらどうしようかと思っちゃった。
促されて部屋の中に入ると、数人の職人さんたちがそれぞれ解体作業をしていた。実際に目にするのはもちろんはじめてなんだけど、丁寧な仕事っぷりなのがわかるなぁ。
見たこともない大釜なんかもあったりして、まさしく異世界って感じの雰囲気だねこれ。
入り口に近い台には解体されたあとっぽい素材がずらりと並んでるし、そのどれもが綺麗な仕上がりだ。さすがプロのお仕事ってやつなのかな。
「解体場のリーダー、アブスキだ。よろしくな」
「カエデといいます。こちらこそ、これからお世話になります」
「嬢ちゃんのことは、実は昨日サラサの嬢さんに引っ張られてるのを見たんだぜ」
あ〜、あの時のサラサさん勢いがあったもんね。私は全然気付けなかったけど、そりゃ注目されちゃうか。
「あの時はなんだって思ったが……。そうか、ギルドマスターの部屋まで連れてかれてたんだな?」
「そうなんです。そのままなりゆきで、新しい料理長として雇われることになりまして……」
「そいつぁある意味災難だったな」
「あはは……。そうだ、差し入れというわけではないのですが。ご挨拶の印に持ってきたんです。よろしければこれ、みなさんで食べてください」
忘れちゃいけないと、包んでいたおにぎりと浅漬けを出す。おにぎりを見たアブスキさんは、興味深そうな顔をしながらそれを眺めた。
「ほーう、珍しいライスの形をしていやがるな?」
「おにぎりっていいます。手掴みで食べる料理なんです。こっちの白い方は少ししょっぱめの味で、こっちのピンク色が混ざってるやつは、焼いたフリジットサーモンを混ぜたものになります」
「そいつぁおもしれぇ。なるほど、つまりこれは嬢ちゃんの入団テストってワケだな?」
「そうなりますね」
「んじゃまぁ、さっそく」
アブスキさんが最初に手に取ったのは、塩おにぎりの方だ。一口食べてから、味わうように噛んでる。口に合うといいんだけど……。
ライスを飲み込んだアブスキさんの結果は──。
「うめぇじゃねぇか!」
豪快に、にかって笑って評価を出してくれた。合格したみたい! よかった!
「ライスを手掴みで食べるなんてはじめてのことだが、こいつは楽でいいな。仕事の合間に食べるのにちょうどいい! わざわざ食器を使う必要がないのもいい点だ」
「気に入っていただけてよかったです」
「ああ、こいつは気に入ったぜ。食感も固すぎず柔らかすぎず、しょっぱめの味付けもちょうどいい塩梅で、次から次へと手が止まらなくなりそうだ」
そう言うなり、あっという間におにぎりを平らげちゃった。見た目通りの豪快さだぁ。
「そこまで褒めてもらえるなんて、恐縮です」
「ありがとな嬢ちゃん。若い連中も喜ぶぜ。欲しい肉があったら、いつでも言ってきな。いいやつ卸してやるからな」
「はい、ありがとうございます」
無事に受け入れてもらえて良かった。これ以上は仕事の邪魔になると悪いから、そろそろお暇しよう。
失礼しますと伝えてから、解体場を後にした。




